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2023年9月1日 

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パラダイムシフト

人材資本主義の新潮流
第13回 スキルのデジタル証明の広がり

岩本 隆

一般社団法人日本CHRO協会 理事
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授

 人的資本経営の実践においてスキルマップ活用が活発化しているが、それとともに、スキルのデジタル証明の活用が急速に広がっている。特に、1EdTech® Consortiumが策定した国際標準である「オープンバッジ」の活用が世界で広がっている。

 オープンバッジは資格や修了証など、学習によって獲得したスキルをデジタルで証明するものであるが、従来のデジタルバッジでは、各社が発行するバッジが管理されるシステムに統一性がないため、各社専用のウェブサイトでしか内容証明ができないのに対し、オープンバッジでは、「バッジ名」「発行者」「授与日」「受領者」「有効期限」「スキルの証明内容」などの統一された項目があらかじめ用意されており、どんな内容に対するスキル証明であるかを瞬時に、発行者に依存することなく、認証用のウェブサイトならどこからでも内容証明をすることができる。そして、どの団体から発行されているバッジであっても1つのウォレットで管理することができる。さらに、ブロックチェーン型のオープンバッジであれば事実上改ざん不可能なため、発行団体は安心して発行でき、受領者も詐称が疑われず、双方にメリットがある。図表1にオープンバッジの仕組みを示す。

 日本では、2019年11月1日に発足した一般財団法人オープンバッジ・ネットワークがオープンバッジの発行団体を認定しており、認定を受ける発行団体が急速に増加している。発行団体に認定されると、国際標準に準拠したオープンバッジの発行ができる。オープンバッジの発行団体になるためには一般財団法人オープンバッジ・ネットワークの会員になる必要があるが、会員数も急増しており、2023年8月1日時点で230団体が会員となっている。会員の内訳は、一般企業79団体、非営利団体44団体、官公庁・自治体7団体、学校団体80団体、連携会員11団体、准会員5団体、連携准会員4団体である。

 日本政府もオープンバッジの活用を重視しており、2023年6月16日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」の「人への投資・構造的賃上げと「三位一体の労働市場改革の指針」」にも「業種・企業を問わず個人が習得したスキルの履歴の可視化を可能とする一助として、デジタル上での資格情報の認証・表示の仕組み(オープンバッジ)の活用の推奨を図る」と記されている*1

 オープンバッジ活用によって実現できるものは、以下が考えられる。

1.学びの動機、継続

2.知識・スキル・活動の見える化

3.人材の発掘・育成・活用の統合、ジョブ型組織

4.人的資本経営への活用、人的資本の開示

5.大学改革、学歴から学習歴、マイクロクレデンシャル(学習内容をより詳細な単位に分け個別に認証する方法)

6.オープンスキルフレームワーク

7.オープンパスウェイ

8.マッチング、人材流動化

9.コスト削減、マーケティング効果

10.学びのエコシステム


 大学等の教育機関でのオープンバッジ活用は急速に進展している。例えば、文部科学省はMDASH(Mathematics, Data science and AI Smart Higher Education:数理・データサイエンス・AI教育プログラム)において、リテラシーレベルの修得を年間50万人、応用基礎レベルの修得を年間25万人とすることを目指しており、そのために大学や高等専門学校で学修成果を可視化するものとして、履修学生へのオープンバッジの発行が行われている。また、その他のさまざまな領域での学位や講座へのオープンバッジ発行も進んでいる。

 企業でのオープンバッジ活用も活発化し始めた。IBMでは、職種に必要なスキルをあらかじめ300ほど定義し、獲得したスキルをオープンバッジで明示化していった結果、導入前と比較して、オンライン講座の受講申し込みは129%、修了率は226%、講座最終試験合格者は694%、講座最終試験合格率は255%上昇した*2

 旭化成では、「DXオープンバッジ」という社内制度を作り、独自で40以上の教育プログラムを設けた。「レベル1:Knowledge(新人向け)」「レベル2:Skill(過年度生)」「レベル3:Experience(全員の期待到達点)」「レベル4:Expert(本格デジタル人材)」「レベル5:Thought Leader(変革リーダー)」の5つのレベルのプログラムを作った。2023年度までにほぼ全ての従業員に相当する4万人を、デジタル活用人材に育成する、つまり、レベル3のオープンバッジ取得者にする目標を掲げている。また、「デジタルプロ人材」の育成では、「マテリアルズ・インフォマティクス中級・上級」「DXオープンバッジレベル4、5」「ITフィールド・デジタルイノベーション領域の高度専門職」などのプログラムを作り、2024年度までに2021年度の10倍の2,500人に増やす目標を立てている*3

 スキルマップ活用に当たってのスキル定義の方法はさまざまあり、また、スキルクラウドアプリケーションも市場で増えてきているが、オープンバッジもスキルマップ活用の有力な手法となりえる可能性がある。現在、オープンバッジに関連した動きは激しいため、動向を常時ウォッチしつつ、人的資本経営を進める1つの手段として検討いただくと良いかと思われる。

参考文献
*1 新しい資本主義実現会議「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(内閣官房)2023年
*2 荒木貴之「リスキリング、アップスキリングを強力に推し進めるテクノロジー【オープンバッジ連載1】」(ReseEd)2023年
*3 漆原次郎「旭化成の「人」の育て方から見えてくる、日本の未来に広がる大きなチャンス」(JBpress)2023年

Profile

岩本氏画像

岩本 隆(いわもと たかし)

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授、2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。2018年10月より一般社団法人日本CHRO協会理事。

2023年9月1日

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