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2024年5月7日 

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「個の時代」のHR経営
第11回 心理的安全性は「和」を乱す!?

飯田 蔵土

EQIQ株式会社 新規事業開発 シニアマネージャ
一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了(MBA in Finance)
行動経済学会会員

はじめに

 「和を以て貴しとなす」という言葉は、聖徳太子の『十七条憲法』の第一条に記されている。この言葉は「和を尊ぶことが最も大切である」という意味であり、古来より日本人の行動規範として受け継がれてきた。

 しかし、現代のビジネス環境において、この「和を尊ぶ」文化が、かえって心理的安全性を阻害し、イノベーションを妨げている可能性があるのだ。本稿では、人的資本経営における心理的安全性の重要性と、「和を尊ぶ」文化の弊害について考察し、CHROに求められるアクションについて提言する。

心理的安全性とは何か

 心理的安全性とは、チームメンバーが自分の意見や懸念を自由に表明できる環境のことを指す。ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によると、心理的安全性の高いチームでは、メンバーが失敗を恐れずに新しいアイデアを出し合い、互いに学び合うことができるため、イノベーションが生まれやすくなる。また、心理的安全性は、メンバーのエンゲージメントや職務満足度、パフォーマンスにも良い影響を与えることが知られている。

 心理的安全性を高めるためには、以下の4つの条件を満たすことが重要だ。

1.無知を認める:リーダーが自分の限界を認め、メンバーの意見に耳を傾ける姿勢を示すこと。

2.失敗を許容する:失敗を学びの機会と捉え、それを共有することを奨励すること。

3.率直に意見を言う:メンバーが自分の意見を自由に言える環境を作ること。

4.他者の視点に立つ:メンバーの立場に立って考え、共感すること。


 リーダーがこれらの条件を満たす行動を示すことで、メンバーは安心して自分の意見を言えるようになり、多様な視点からの建設的な議論が可能になるのだ。

「和を尊ぶ」文化の弊害

 一方で、日本企業においては、「和を尊ぶ」文化が根強く残っている。「和を尊ぶ」文化は、集団の調和を重視し、個人の意見よりも全体の合意を優先する傾向がある。そこには「同質化」の要素が少なからず存在する。この文化は、一見、心理的安全性と親和性が高いように思える。しかし、実際には、以下のような弊害をもたらしているのだ。

1.本音が言えない:「和を乱さないように」という意識から、メンバーは自分の意見を言うことを躊躇する。

2.同調圧力が強い:周りに合わせることが美徳とされ、異なる意見を言うことが難しくなる。

3.失敗が許されない:「失敗は恥ずかしい」という意識が強く、新しいことにチャレンジすることを恐れるようになる。

4.変化への対応が遅い:「今までと同じことをやり続ける」ことが重視され、変化に対応できない。


 これらの弊害により、組織はイノベーションを生み出すことができず、競争力を失ってしまうのだ。

「同質化」から「多様性」へのシフト

 この問題を解決するには、「和を尊ぶ」「同質化を推進する」文化を見直し、「多様性を尊ぶ」文化へとシフトすることが必要だ。多様性を尊ぶ文化とは、メンバーの個性や意見の違いを認め、それを積極的に活かしていく文化のことである。

 多様性を尊ぶ文化を醸成するためには、以下のようなアクションが有効だ。

1.多様性の尊重:メンバーの多様なバックグラウンドや価値観を尊重し、それを強みとして活かす。

2.オープンなコミュニケーション:メンバー同士が率直に意見を言い合える環境を作る。

3.失敗の許容:失敗を学びの機会と捉え、それを共有することを奨励する。

4.柔軟な働き方:メンバーの個々のニーズに合わせた柔軟な働き方を推進する。


 これらのアクションを通じて、メンバーは安心して自分の意見を言えるようになり、多様な視点からの建設的な議論が可能になる。その結果、イノベーションが生まれ、組織のパフォーマンスが向上するのだ。

ネガティブな発言の活用

 さらに、心理的安全性を高めるためには、「ネガティブな発言」を活用することも有効だ。ネガティブな発言とは、問題点や懸念点を指摘する発言のことである。一般的に、ネガティブな発言は避けられる傾向にあるが、実は、ネガティブな発言こそが、建設的な議論を生み出す鍵となる。

 ネガティブな発言を活用するためには、以下のようなアプローチが有効だ。

1.批判的思考の奨励:メンバーに批判的思考を促し、物事を多面的に捉えることを奨励する。

2.建設的な批判の歓迎:建設的な批判を歓迎し、それを議論の材料として活用する。

3.安全な環境づくり:メンバーが安心してネガティブな発言ができる環境を作る。

4.フィードバック文化の醸成:定期的にフィードバックを行い、改善点を明らかにする文化を醸成する。


 リーダーがこれらのアプローチを実践することで、メンバーは自由に意見を言えるようになり、より良いアイデアが生まれるようになるのだ。

まとめ:CHROができること

 心理的安全性は、人的資本経営における重要な要素である。しかし、日本企業においては、「和を尊ぶ」文化が根強く残っており、心理的安全性を阻害している可能性がある。CHROは、組織の文化を変革するためのリーダーシップを発揮し、心理的安全性を高めるための取り組みを推進していかなければならない。

 参考までにアクションの例を提示しよう。

1.経営層への働きかけ:心理的安全性の重要性を経営層に伝え、組織文化の変革に向けた協力を得る。CHROは、経営層に対して、心理的安全性が人的資本経営に不可欠であることを説明し、理解を得る必要がある。

2.リーダー育成:心理的安全性を高めるためのリーダーシップを育成するプログラムを導入する。リーダーは、心理的安全性を高めるための行動を身に付ける必要がある。CHROは、リーダー育成プログラムを通じて、リーダーが「無知を認める」「失敗を許容する」「率直に意見を言う」「他者の視点に立つ」ことができるようにサポートしなければならない。

3.多様性の推進:採用や昇進の際に、多様性を重視し、公正な評価を行う。多様性を尊ぶ文化を醸成するためには、多様なバックグラウンドを持つ人材を採用し、育成することが重要だ。

4.失敗の許容:失敗を学びの機会と捉え、失敗を共有することを奨励する文化を醸成する。失敗を恐れずにチャレンジできる環境を作るためには、失敗を許容する文化が不可欠だ。CHROは、失敗から学ぶためのプロセスを組織に組み込むことが重要である。例えば、失敗事例を共有する場を設けることが考えられる。

5.継続的な取り組み:定期的に心理的安全性を測定し、改善点を明らかにするなど、継続的な取り組みを行う。心理的安全性を高めることは、一朝一夕ではできない。CHROは、継続的に心理的安全性を高める取り組みを行っていく必要がある。具体的には、定期的に心理的安全性を測定するための調査を実施し、結果を分析して、改善点を明らかにすることが重要だ。


日本企業がグローバル競争に勝ち抜くためには、イノベーションを生み出す組織づくりが急務だ。CHROには、その変革をリードしていくことが期待されているのである。本稿が、読者各位における新たな職場文化醸成の議論材料となれば幸いである。

Profile

飯田氏画像

飯田 蔵土(いいだ くらんど)

新卒で株式会社日本HPにSEとして入社し、その後米国本社経営企画部門へ異動。複数の大手外資系企業にて戦略コンサルティング、事業部長、オペレーションズ本部 本部長などを務め、AIベンチャーへの参画を経て現職。FAX注文書の入力から、多国籍企業間のM&A、営業、FP&Aまでカバーする。一橋大学大学院修了(MBA in Finance)

2024年5月7日

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