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2022年10月3日 

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未来人事

第5回 経営戦略と人事戦略の連動
~人財ポートフォリオ変革(実践編)~

小池 陽二郎

Ridgelinez株式会社
People&Organization Transformation Director(特定社会保険労務士)

昨今とりわけ活発化している経営戦略と人事戦略の連動に関する議論

 コロナ禍・ウクライナ侵攻等の予測困難な出来事が続発し、社会・経済に大きな混乱が続く中、メガトレンド(高齢化、IT化、価値観変化等)は確実に進行しており、企業経営に大きな影響を与えている。こうした中、東証プライム各社を中心に短期的な事業収益の確保のみならず、サステナブルな成長に必要な巨額投資を投資家から呼び込み、中長期的な企業価値向上へ繋げる為の議論・取組が活発化している。

 とりわけ、人・組織領域については、伝統ある大手企業中心に維持されてきた日本型雇用慣行(新卒一括、年功賃金、終身雇用)の限界とその変更の必要性が指摘される中、経営戦略と人事戦略の連動を図る為の組織変革の議論がCEO及びCHROを中心に盛んだ。

主論点は人財ポートフォリオ変革。成功への期待が高まる中で超高難度な課題へ挑む

 組織変革の議論の中心は人財ポートフォリオ変革だ。この議論では、既存事業の収益性を確保しつつ、新たな事業ドメインやビジネスモデルに挑戦する中で、将来の人財ポートフォリオのあり方や現状とのギャップの把握、対応に向けた基本コンセプトや諸施策の実装などを決めて推進していく必要がある。

 人財ポートフォリオ変革は、リスキリングや外部人材獲得のみに留まらない。事業の未来を真剣に検討する程、グループ内外への組織単位・個人単位での異動(移籍)や既存人材のリテンションの為の人件費アップ、業界水準をベンチマークとした人件費適正化など、多数従業員の労働契約・労働条件の変更を含む内容となることが多い。

 サステナブルな組織づくりに向けて、経営陣幹部は極めて高難度の諸課題に対する舵取りが求められている。

人材ポートフォリオ変革の議論で乗り越えるべき論点

 昨今は、業界構造のみならず資本市場・労働市場が激変し経営陣幹部への期待も様変わりしていることから、組織変革の手法の選択に際して過去の成功体験に依存すると極めて危険である。社内外の利害関係者(株主・社内外役員・従業員・OBOG・内外労働組合)との議論が紛糾し、会社・職場に大きな混乱をもたらす恐れが強い。組織変革に際しては、高い視座のみならず広い視野で社内外の実態を十分に把握した上で対応策を様々な観点から熟考する。あいまいな現状認識から来る“恐れ”を、現実を直視した上での“覚悟”へ変える。意識を上げて議論を進める必要がある。

【壁1】ギャップ把握(人財ポートフォリオAs is-To be)

 人財の現状と目指す姿を、現場実態に迫って質・量の両面からしっかりと捉えることで、総論・各論の両面から利害関係者との議論を進める必要がある。

 具体的には、まずは、ギャップ把握のための“モノサシ”を整備する。「あるべき人財像」と更にそれを職種別レベル別等で詳細化した「ジョブディスクリプション」の詳細を構築する。この“モノサシ”に現有社員をあてはめて、議論の端緒となる人財ポートフォリオの現状を描く。更にギャップについて、「現状と将来像(X年後)」のみならず「現状の延長線(X年後)と将来像(X年後)」の観点から把握すると深い洞察が得られるようになる。

【壁2】基本方針と有力パッケージの作り込み

 上記のギャップ把握で増員・減員目標が見えてくる。その抜本的な対処策の検討に際しては、組織横断的に幅広な利害関係者が関与した検討が必要となる。よりよいコンセンサスづくりに向け、決め打ち的ではなく、有力パッケージを基本コンセプトとともに複数掲げ議論をリードすることが肝要である。

 有力パッケージの内容は、凡そ「外部獲得」「内部昇格」「外部異動(移籍)」「リスキリング」「リテンション」の各種戦術・施策で構成される。これらの施策に要するコストについても試算する(概ね5~10年分試算するケースが多い)。

【壁3】有力パッケージの絞り込みと実装

 有力パッケージの絞り込みに向けては、メリット・デメリット比較では解に辿り着けない。経営方針などに基づき判断基準を考案し、有力パッケージを絞り込む。また、有力パッケージについては、巨額なコストアップが数年間続くという結論になるケースも多い。こうなると人件費を費用としてではなく投資としてとらえる議論となる。経営陣幹部との議論においては、財務的な成果で投資対効果を検証したいというニーズが高まる。

 一方で、人件費をいくら上げたら一人当たりの付加価値額がいくら高まるというロジックには相当無理がある。こうした発意の意図は概ね、例えば人件費を数年間大きく上げたとして投資家・融資家にコミットした利益目標等は達成できるかという内容である。市場環境の見通しや競合他社の指標をふまえて、現実味のある売上・利益シナリオを複数策定して議論をリードしている。

組織変革施策の実装とたゆまぬ改善

 変革に向けては、痛みや苦しみを伴うことも想定される。このため事業と職場のよりよい将来づくりに対して賛同を得るために、変革フェーズごとに目的やストーリーを熟慮しつつ実装を進める。

 前述のとおり、組織変革に際しては、巨額の投資となるケースが多い。こうしたケースでは諸施策実装後に効果検証の為のモニタリングと投資家をはじめとした利害関係者への開示・説明が必要となる。

 開示・説明には、昨今充実してきた人・組織領域でのデジタル情報を十分に生かして進める。デジタル化を進める事で、従業員個々に最適な施策を検討できる環境が整ってきているという認識が急速に拡がってきている。施策の改善検討に際しては、従業員の職務上の属性のみならず価値観についても踏み込んで把握しエンゲージメント向上施策などを総合的に議論すると効果的である。

最後に

 ご紹介した人財ポートフォリオ変革の議論について、弊社ではデジタルを活用して進めることで戦略的なデジタルHRの基盤づくりを支援している。職務の見える化・人の見える化の基盤を作ることで人財ポートフォリオの検討が進むようになる。

 また、各種人事施策による投資額や、その効果として個々の変化や組織の変化、財務面での変化をタイムリーにモニタリングできるようになる。より高度な経営課題により適切に対処する環境を整えることで、各業界・企業が力強くよりよい姿へ発展していくことを願ってやまない。

2022年10月3日

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