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2015年7月15日 

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どうやって作る本物の「安定株主」

磯山 友幸
経済ジャーナリスト
元日本経済新聞記者

アベノミクスの成長戦略の一環として着々と進んでいる日本企業のコーポレートガバナンスの強化によって、安定株主づくりが企業経営者にとって重大事になってきた。

 大手の上場企業では、長い間、株式持ち合いによって50%以上の安定株主を維持し、よほどのことがない限り、経営者が出した会社側提案が否決されることはなかった。ところが、昨年導入されたスチュワードシップ・コードによって、生命保険会社などの機関投資家は、保険契約者などの利益を第一に考えて、保有株の議決権行使をせざるを得なくなった。結果、会社側提案に無条件で賛成してくれるかどうかは分からなくなった。

 安定株主の筆頭は取引先銀行などとの持ち合い株だったが、これも当てにはできなくなりつつある。成長戦略では、銀行などが政策投資株、つまり持ち合い株を保有する場合、それに経済合理性があるかどうかを説明しなければならなくなった。今年6月末に閣議決定された成長戦略「日本再興戦略 改訂2015」でも、大手の金融機関に対して経済変動リスクを考慮するよう迫られている。ダイレクトには言っていないが、持ち合い株の保有は減らせ、と言っているわけだ。

 生保や銀行などの金融機関は、経営者に白紙委任してくれる「物言わぬ株主」だったが、そのようなありがたい「安定株主」はどんどん姿を消しているのである。

 では、どうやって安定株主を作っていくか。そもそも安定株主とは何なのか。これが経営者にとって大きな問題になっている。株主の過半が海外投資家という例も増え、海外株主を無視することはできなくなった。

 だが、海外投資家といってもさまざまで、年金基金のように長期投資を旨とする投資家は、長期にわたって企業が成長することを期待し、株価が持続的に上昇することで基金の財産を増やそうとする。ところが、ヘッジファンドなどは比較的短期間に株価を上昇させ、売り抜けて利益の確保を狙うケースが多い。配当の積み増しや自社株消却などさまざまな要求を突きつけてくるが、多くは短期間に株価を上げるのが狙いだ。

 そうなると、長期志向で経営の舵取りができなくなる懸念が強まってくる。結果が出るのに時間がかかる研究開発などに資金を回すような経営がやりにくくなるのだ。トヨタ自動車が6月の株主総会で発行を決めた種類株は、そのような「苦心」から生まれたものだろう。5年間売却できない代わりに、5年後に発行価格で会社が買い取るか、普通株に転換することを選べる。つまり、株価が発行価格を上回っていれば、普通株に転換して売却して利益を得られる一方、値下がりしていた場合には元本が戻ってくる。つまり、価格下落リスクがない株式というわけだ。

 配当は当初は発行価格の0.5%と低いが、徐々に引き上げ、5年後には2.5%と現在の普通株並みになる。5年にわたって長く保有してくれる株主を作るというのがトヨタの狙いだ。

 この試みには賛否両論ある。元本保証の株式では株主が真剣に経営者に経営努力を求めない、という主張もある。議決権行使助言会社大手のISSが種類株の発行に反対したのもそのような理由だ。

 どうやって長期にわたって株式を保有してくれる安定株主を作るか。経営者が創意工夫することには意味がある。長期保有した場合にインセンティブを与えるような種類株を発行するのは面白い。すでに株主優待などでは長期保有すると恩典を上乗せするケースが出ているが、配当を上乗せする種類株などが生まれてくるかもしれない。

 もっとも経済的な利益だけでなく、いかに会社のファンになってもらうか、という視点も大事だ。それには個人株主が自由に発言できる株主総会なども意味がある。かつてのようなシャンシャン総会はめっきり姿を消し、個人株主の質問に丁寧に答える経営者の姿が目につくようになった。

 日本企業の株主総会では、経営者は自社のことを「当社」「わが社」と言うことが多いが、欧米では「ユア・カンパニー(あなたの会社)」「アワ・カンパニー(私たちの会社)」と言うことが多い。株主も一緒になって会社の将来を考えてほしい。そのようなWin-Winの関係の構築が安定株主づくりの基本ということだろう。

2015年7月15日

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