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2016年12月15日 

赤、青、緑、
銀行はカネに色をつけろ

森本 紀行

HCアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長

 日本の三つの大きな銀行の看板は、赤、青、緑と、それぞれ異なる色をしているが、赤い銀行の扱うカネは赤く、青い銀行のカネは青く、緑の銀行のカネは緑というふうに、看板の色が各行の経営の差別化を象徴しているという事実はない。

 しかし、全ての銀行において同一の審査基準で融資を行っているのだとしたら、同一の諸属性をもつ債務者の企業に対しては、同一の融資判断がなされる、即ち、ある銀行で融資可能なら、他の銀行でも融資可能であって、その条件も同一となるはずだ。そうならば、どこに銀行の差別化があり得るのか。

情報の対称性と事業性の評価

 実は、融資とは資金の貸借である以前に、より根源的に、債権者の銀行と債務者の企業との間の情報の対称性の構築である。これは当然のことで、融資を与信と呼ぶように、債務者の利息支払い能力と元金弁済能力に対する信頼なくしては、銀行として融資できるはずもなく、そのような信頼は情報の対称性なくしては、構築し得ないからである。

 融資の基礎となる関係性とは、あくまでも情報の対称性なのであって、単に現に融資残高があるとか、長い付き合いであるとか、定期的に銀行の担当者が顔を出しているとか、財務諸表等の基礎データを入手しているとか、そのような表層的なことではない。

 情報が対称的になる真の関係性とは、企業の表層を超えて、事業性の次元にまで深く降りたところで成り立つ。故に、融資とは金融庁の用語でいうところの「事業性評価に基づく融資」のことでなくてはならないのだ。

 企業とは、事業を営むもので、事業とは、キャッシュを投入してより多くのキャッシュを回収し、ネットキャッシュを形成していくことの無限の連続である。融資とは、投入されるキャッシュを用立て、ネットキャッシュから利息の支払いを得て、回収されるキャッシュから元金弁済を受けることにほかならないので、キャッシュフロー創出の現場、即ち、事業の現場でのみ適正な融資判断がなされ得るはずなのだ。

 情報の対称性とはいっても、銀行は高度に専門的な事業の詳細を知り得るはずもない以上、それは、キャッシュ創出の構造を理解し、それが機能しなくなる可能性と、その要因、即ちリスクの所在を認識し、そのリスクを銀行として積極的に許容する、即ちリスクテイクするのに必要な情報の範囲において成立すればいいことであって、そうした意味での情報の対称性を成立させることをもって、事業性の評価というわけである。

リスクテイクの能力

 銀行と企業の関係が表層的なものになれば、企業の信用力に関する判断は、どの銀行でも同じようなものになり、与信判断が画一的になる、つまりカネに色がなくなってしまう。逆に、融資が真の融資である、即ち「事業性評価に基づく融資」である限り、カネにはその銀行固有の色があるはずなのだ。

 なぜ色がつくかというと、それは、情報の対称性の構築の仕方には、それぞれの銀行の流儀の差があり、経営理念の差、能力や経験の差がある、即ちリスクテイクには戦略的な差別性があるべきだからだ。リスクテイクの能力は、リスクの顕在化に対する対応力の関数として、それぞれの銀行の固有のものであり、経営の頂点にある戦略そのものなのである。

 ここで、リスク対応力というのは、静的な自己資本の厚み等の経営指標に表れる力のことだけではなくて、銀行として、できる範囲における経営支援、即ち動的な顧客への関与(エンゲイジメント)の力を意味する。つまり、カネに色をつけるとは、銀行間において、他の銀行では貸せなくても当行の戦略と能力のもとでは貸せるというような差別性が明瞭になることなのである。

バンカビリティの多様性

 銀行のカネに色がないことは、表層的な基準のもとでの画一的な融資判断になることであり、その結果、ある銀行にとって貸せる先は、どの銀行にとっても貸せる先となり、そこには不毛な金利引き下げ競争しかあり得ず、ある銀行にとって貸せない先は、どの銀行にとっても貸せない先となって、そこでは融資を受けられない企業を生んでしまうということである。

 ちなみに、銀行が貸せるということをバンカブルという。カネに色がないということは、バンカビリティが一つしかないということであり、カネに銀行固有の色があるということは、銀行の数だけバンカビリティがあるということだ。

 バンカビリティが一つしかないことは、金利が企業の信用リスクを反映しないものとなり、企業のコーポレートガバナンス改革を促す力をなくしてしまうことにもつながる。一定の条件を超えている企業の場合は、経営効率の改善を通じたバンカビリティの向上の努力をしなくても、簡単に銀行から資金調達できるので、少しもコーポレートガバナンス改革が進まないのだ。さらにいえば、簡単かつ低利に資金調達できることは、資産の取得や買収等において、不適当な事案が排除されることなく実行されてしまう可能性もあるわけである。

 故に、銀行が自己固有のバンカビリティの基準をもって企業の事業性を評価し、ガバナンス改革を促すような毅然たる態度で融資することは、日本経済の成長戦略にとって極めて重要なのだ。

カネの色と成長戦略

 どの銀行からも借りられない企業ができてしまうことも、成長戦略にとって大きな問題だ。金融庁が「事業性評価に基づく融資」といい出したとき、銀行界の人は融資条件の事実上の緩和を求めるものと受け止めたのではないか。

 しかし、「事業性評価に基づく融資」については、過去の静的な財務諸表の数値等に基づく画一的審査ではなくて、活きている企業の事業性の次元で動的に将来を見据えた審査を行うことで、表層的にはバンカブルでない企業も、実質的にバンカブルになる場合が少なくないはずだというのが金融庁の論点であったわけだ。

 こうしたバンカビリティの再定義は、当然に各銀行の個性が強く出るものだから、多くの場合、どこかに貸してくれる銀行があることになり、企業の経営状況の景気変動等による短期的悪化に対しても、個々の銀行としてではなくて、銀行全体として結果的に企業支援となるような融資姿勢を貫くことができる可能性があり、そのことは、経済の安定成長にとって非常に都合がいいことになる。まさに、ここに金融庁の金融行政の大きな目的がある。

 各銀行がカネの色を競うことで、産業界のコーポレートガバナンス改革を促し、産業の隅々にまで成長資本を行きわたらせて、経済成長に貢献していくこと、そのような銀行のあり方を実現することが金融庁の課題なのだ。銀行よ、今こそカネに色を付けて、金融庁の期待に応えるべきではないのか。

2016年12月15日

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