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2016年6月15日 

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優秀な組織が
なぜ繰り返し失敗するのか?

久原 正治

久留米大学理事
経営学博士

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    ①規制の虜 グループシンクが日本を滅ぼす

    黒川 清
    講談社 2016年3月

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    ②福島第一原発 メルトダウンまでの50年

    烏賀陽 弘道
    明石書店 2016年3月

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    ③Drift into Failure:
    From Hunting Broken Components
    to Understanding Complex Systems

    Sidney Dekker
    Ashgate, 2011

 最近の東芝や三菱自動車の失敗を見るまでもなく、なぜ優秀な人材をそろえた伝統的な我が国の大企業が不祥事を隠したり、社内の異論を封じたりするところから、企業の存続にかかわる大きな問題を繰り返し引き起こしてしまうのか疑問に思うことが多い。また、このような不祥事は日本企業に独特のもののように言うマスコミ等の報道が多いが、欧米の企業や組織でも実は不祥事は繰り返し起きている。では、何が違うのであろうか。2011年3月の福島第一原発事故から5年がたち、もう一度事故の本質を見直そうとする本が出てきたので、これらの事例を欧米で進んでいる組織事故の理論と対比しながら見て、さまざまな組織の失敗に関する相違を考えてみたい。

 ①は日米の医学界で活躍し、日本学術会議会長や国会事故調査委員会委員長を務めた著者が、政府とは独立した国会事故調査委員会を動かす中から学んだ事実を通して、不都合な真実から目をそらす日本の組織に警鐘を鳴らしている。それは専門家の異見を排除し、データや事実によらない楽観的な思い込みでその場限りの対応を進め、最悪の事態に陥るまで右往左往する日本の組織やそのリーダーの問題である。国会事故調は2011年12月から2012年6月のわずか6カ月であったが、各分野の専門家をプロジェクトチームとして集め、プロのコンサルタントを調査統括として、国会図書館のリサーチチームの力を借りて、事実をベースに積み上げて問題点を解明し、今後の原子力政策やそれを扱う組織についての提言をまとめた。

 そこでは事故の根源を、事故は起こらないという規制の虜となった関係者の異論を許さない日本人特有のマインドセットに求める。専門家の情報の共有を避け、まれにしか起きない事故に備えた多重防護が必要だとする海外からの忠告も無視した。著者達の報告は海外から注目を浴び、貴重な情報として利用されているが、日本の政府はその後5年たち福島事故からの教訓を振り返ることなく、原発再稼働に向かって突き進んでいるように見えると著者は指摘する。

 ②は、原発事故後5年たち、当初から継続して取材を続ける記者もいなくなった中で、あまりにも未解明の問題が多いとして自費で取材を続ける記者の途中報告である。事故当初なぜ政府の意思決定は遅れたのか、マニュアルにもある緊急冷却装置がなぜ使われなかったのか、事故後の住民避難対策がなぜおざなりにされたのか、事故後の炉心溶解や放射能拡散予測は、事前のシミュレーションによりわかっており、その分析は首相官邸にも届いていたのに、なぜそれが利用されなかったのか、といった非常に重要な点が、いまだ十分に解明されていないとしている。

 著者は地道な取材により、これらの問題のすべてが、役所が縦割りで制度や法律の実効性が欠け、電力会社や政府が情報を公開しない秘密主義で専門知識の共有が妨げられるといった、日本の組織文化の欠陥と法律行政制度の問題、そして意思決定に必要な重要な情報を見逃したり、マニュアルを軽視したり、無駄な会議で即時の対応を遅らせるヒューマンファクターに帰することを明らかにする。そして、福島原発事故の徹底的な検証による原因究明と責任追及なしには、日本ではまた同じ失敗が繰り返されるだろうとしている。

 この福島原発事故5周年を機に最近出版された2冊を読むと、科学技術の先進国であるはずの日本が、専門家軽視、縦割り組織のサイロの中に閉じこもった集団思考(グループシンク)、あいまいな意思決定と責任といった組織の問題によって、危機に直面した際に判断を間違い、また過去の失敗の総括ができないために、同じ失敗を繰り返す可能性が大きいことがよくわかる。

 それではどうすればよいのであろうか。それは、同じような事故等による失敗を何度も繰り返しながらも、専門家のプロジェクトチームによる徹底的な原因解明と責任追及(場合によっては故意に責任を追及しない)により、同じ失敗を避けようとする米国等の事例が参考になる。とりわけ、災害社会学や組織論の学者を中心に、このようなヒューマンファクターによる組織事故をデータを積み上げて分析し、それを概念化することで、その後の事故防止や事故拡大を防ぐ組織の一般理論化が進められており、それらの多くが翻訳され、わが国にも紹介されている。

 ③の著者Sidney Dekkerは現在豪州ブリスベーン大学教授で、多くの論文や本を出版しているこの分野の第一人者である。本書はまだ翻訳がないが、複雑化した組織がなぜ自らは気づかないままで多くのヒューマンエラーを起こすような組織に変貌していくのかを理論的に解明しようとする。本書では、現代の複雑化する組織が、限られた資源で複数の目標を達成しようとして、それまでその組織を成功に導いた組織間の関係や意思決定の仕組み自体から、日々の小さな意思決定の間違いの積み重ねを通じて、組織の存続を危うくするような組織危機が導かれることを概念化している。題名が示すように「組織は失敗にいつの間にか陥っていく(drift into failure)」のであり、いかなる組織もそれを免れないとする。とりわけ現代の激しい競争環境下で、これまでと同じ業務をより効率的により少ない資源で行おうとする場合に、一時はそれが企業を成功に導いているように見えても、結局企業組織を破局に導くことを示す。つまり、組織は成功しているように見えること自体から失敗するのである。

 著者はこのような巨大で複雑化した組織が失敗を避けるための処方箋として、組織がredundant(重複し余裕と柔軟性を持つ)で、組織間の境界をあいまいにし、組織の構成員を多様にすることの重要性を指摘する。日本の閉ざされたサイロのような組織は、このような欧米の失敗組織に関する学術的な研究の成果から学ぶことが多いように思う。

2016年6月15日

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