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2015年4月15日 

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グローバルM&Aが失敗する理由④

松田 千恵子

マトリックス株式会社 代表
首都大学東京大学院 社会科学研究科経営学専攻 教授
日本CFO協会主任研究委員

 グローバルM&Aが失敗する理由――「ガバナンス」、「左脳」のプラットフォーム構築、に続いて、今回は「右脳」のプラットフォーム=理念的な企業価値の向上を目指す仕組みや仕掛け、の充実に関して考える。といっても、今回はまず「企業理念」の“おさらい”に集中しよう。「企業理念」というと、何か大所高所の綺麗事のように聞こえる。だが、グローバルM&Aで最も問われるのは、実はこの「企業理念」である。

企業理念に合致しなければ買収しない

 一例を挙げよう。カゴメという会社がある。言わずと知れた一流企業だが、この会社の企業理念は「感謝」「自然」「開かれた企業」である。この三つの要素のそれぞれにまた深いメッセージが込められているのだが、今は先に進もう。同社は、トマトをはじめとする野菜を主原料としたジュースや調味料で有名だが、実は種子ビジネスにもグローバルM&Aを通じて事業を拡大している。端緒となったのは、2013年の米国種苗会社ユナイテッド・ジェネティクス・ホールディング買収だが、この際の意思決定は、まず企業理念ありきである。

 実際に買収に携わった責任者はこう語る。「まずもって『自然』ではない人たちとは、距離があります」(注1) 。安全に自然の恵みを消費者に提供しようとすれば、提供しているトマトや野菜はどんな種からできており、それはどこからきているのか、という疑問に行き着く。これが、カゴメが種子事業までバリューチェーンを伸ばした理由だ。

 一方、種子ビジネスといえば「遺伝子組換」技術が気になるところである。それが将来的に人類にどういう影響を及ぼすかはともかく、「自然」を旨とした時に「遺伝子組換」を行う種子会社を買収することはできるだろうか? 同社の企業理念に照らせばNOである。したがって、同社はこうした企業をそもそも買収対象から外している。企業理念に強く裏打ちされたM&Aの好例と言えよう。

企業理念は戦略の上位概念である

 実際のところ、企業理念にそぐわない買収は国内外を問わずまず失敗する。買収だけではない。現在、苦境に陥っているシャープは、一兆円を超える液晶への莫大な設備投資で規模拡大を狙ったことが敗因と言われているが、同社経営理念の“いの一番"に書いてあるのは「いたずらに規模のみを追わず」である。

 企業理念に反すれば経営も立ち行かなくなるのは、ある意味当然のことでもある。企業理念は、経営戦略の上位概念だからだ。日常業務を統括するために経営戦略があり、その実行を担保するための仕組みや仕掛け(マネジメントシステム)が存在する。それらが目指す中長期の将来像がビジョンである。そして、そのビジョンを何のために追求するのかが企業のミッションであり、どのように追求するのかがバリューである。ミッションとバリューを合わせて企業理念という。ピラミッド(図参照)の上部に反する行為を下部でいくら行っても無駄である(それでも行いたければ、別のピラミッドを作ればよい)。

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 また、企業はこのピラミッドの最上位概念である「企業理念の追求」と、前回見た左脳のプラットフォームが目指す「企業価値の向上」を以て、社会におけるさまざまな利害関係者と繋がっている。このふたつについて、企業が日頃発信している内容に反するような行為を行うことは、利害関係者の信頼を失うことに直結する。企業理念に反することの影響の大きさは、こうしたところにも表れる。

ご長寿企業はなぜ生き延びたか

 企業理念の話をすると、「いや、日本では理念型の経営は難しい」とか、「欧米企業が持ち込んだ綺麗事に過ぎない」などと揶揄する人々もいる。大間違いである。

 日本は、世界で最も、長寿企業が多い国である。以前調査(注2)した際には、こうした企業の8割近くが、企業理念にあたる家訓・社訓・社是等を有し、本質的な内容を変えることなくその重要性を認識していた。日本こそ、理念経営のご長寿大国なのだ。

 しかも面白いことに、企業理念自体は変えていない一方で、多くの長寿企業は事業内容などを時代に応じて柔軟に変えて生き延びている。色々な変化を実現しようとするほど、その変化の妥当性を的確に判断するための「不変の軸」が必要になる。これをしっかり持っていたからこそ、ご長寿企業の今があるともいえる。

PMIでまず語るべき「不変の軸」

 この「不変の軸」があることは、グローバルM&Aを行った後の統合において、より重要性を増す。自分が被買収企業の社員であった場合を想定してみてほしい。これから新しいグループの中で何とかうまくやっていこうと思ったら、まず考えるのは、「ここでは何をしてはいけないか」あるいは「ここでは何が求められるのか」ではないだろうか。したがって、さまざまなルールやマニュアルなども必要だが、それらを束ねる最上位のガイドライン、即ち企業理念が十分理解されることが何よりも重要である。「ウチの会社が最も大切にしているのはこれですよ」「これこそが我々の目指している姿なのです」「こういう価値観だけは守ってください」「迷ったらこちらの道に必ず進んでください」……こうした投げ掛けを持つ企業理念があればこそ、初めて出会った会社でも従業員は安心して働ける。グローバルM&Aで日本企業の傘下に入った企業の海外従業員がこぞって求める情報であるのは当然だ。最近は、企業理念を各国語に訳して配布するような企業も増えてきた。だが、配っただけでは不足である。むしろ、配ってから後の継続的なケアこそが、右脳のプラットフォームを力強くする。次回、より詳しくみていこう。

(注1)「企業理念が経営を動かす-花王・カゴメ2社の取組み」企業会計2015年5月号掲載予定
(注2)松田千恵子「世紀を超えた企業に学ぶ─全国の創業100年超え企業の横顔」産業経理Vol69、NO.4 2010年

2015年4月15日

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