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2014年9月16日 

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藤田 純孝

日本CFO協会理事長
元伊藤忠商事取締役副会長

コーポレートガバナンスの変遷

 私は2011年に相談役を退任するまでの約46年間、伊藤忠商事に勤務した。95年以降はボードメンバーとして、経営企画領域、あるいはCFOとして経営の執行に従事した。2010年頃からは、何社かの社外監査役、社外取締役を経験し、いま現在、3社の社外取締役を務めさせていただいている。ここでは、今日までの経験をベースに経営現場の視点からお話したい。

 最初にコーポレートガバナンスの主要国における変遷をたどってみると、二つの特徴点が浮かびあがる。

①国や地域によって相当に異なる制度や慣行、株式所有構造からスタートしている。
②どの国もグローバリゼーションを含む経営環境の激変による大型の経営危機や不祥事を契機に、改革が進んだ側面をもつ。その改革は市場によるガバナンス、あるいは基幹設計によるガバナンス、または司法プロセスを通じたガバナンスなど、多面的な形をとっている。

 同時に次のような四つの共通した傾向も見えてくる。

①監督機能と執行機能の分離を徹底する方向にある。
②英米を中心とした機関投資家が主導している。
③企業価値向上のための経営の追求に収斂している。
④経営の透明性の強化に向かっている。

 具体的な内容やスピード、強制の度合いは、国と時代により多様だ。従来の株主中心ではなく、さまざまな関係者、すなわちステークホルダーが企業経営に関与する傾向がある。現在、日本では政府による成長戦略が語られているが、価値を創り出すのは企業である。より強く、健全でしなやかな企業経営にするために、われわれは何をすべきか。日本が直面しなければならない論点から考えていきたい。

日本的経営の特徴とガバナンスを振り返る

 コーポレートガバナンスを考える際、戦後の日本企業の経営の特徴を理解しておくことが、極めて有益であると私は考えている。終戦から高度成長期においてはご承知のとおり、財閥解体や株式持ち合いなどを受けて、終身雇用をベースに従業員と一体で業容を拡大してきた。そこでは利益よりもシェアや売上拡大が追求された。同時にメインバンクの支えも相まって、長期的視野の経営を可能にした面もある。

 一方で、一般の株主や機関投資家の発言力は弱く、経営に対して高い利益率や資産の効率性を追求する力や、利益相反問題についての追求圧力は相対的に弱かった。やがて国内市場の成長力が衰え、グローバル競争激化のもとですべてが逆転し始める。90年代のバブル崩壊と、その後のデフレ、長期低迷は、日本企業の利益率、業績を引き下げ、日本の株式市場の低迷をもたらした。このことは、過去20年~30年間の日本と欧米の株式市場の趨勢を見れば明白である。

 長期低迷の中で、企業再編の簡易化、資本調達の柔軟化、連結決算、時価会計等の改革があり、ガバナンスの改革もその一環として進められてきたことは、ご承知のとおりである。株式持合いの解消、経営と執行の分離、物言う株主の出現、独立役員の拡大等の流れの中で、日本の株主あるいは機関投資家は、欧米の機関投資家のように企業業績の追求やガバナンスの改革をリードする役割を十分に果たさなかった、または弱かったのではないかと言える。

 そうしたことが、日本企業のコーポレートガバナンスに与えた影響は少なくない。日本の企業経営の特徴をガバナンスの視点で見ると、企業内部においては、終身雇用・年功序列をベースに、ムラ社会的、同質的側面が挙げられる。大企業においては、従業員の他社への転職はほとんどなく、社内から長年の勤続と昇進をした人が、取締役あるいは経営者となるのが慣行であり、特徴である。結果的に会社は、従業員と、従業員から昇進した経営者から構成され、一種の“会社共同体”の側面を持ったと言える。これによって日本企業は長期安定型の経営を可能にしたが、同時にもたれ合いや問題隠蔽につながるリスク要因にもなった。これらの底流に流れる共通点は、外国人投資家をはじめとしたステークホルダーの指摘や要求によって変化しつつあるが、今後の方向を探るうえでは重要な特徴であろう。

企業不祥事とコーポレートガバナンス

 日本においてガバナンス改革への動きが出てきたさなかの2011年、オリンパスや大王製紙の事件が発覚した。もちろん企業不祥事は日本企業だけの問題ではない。日・米・欧各国で起こる不祥事は、ガバナンスの構造が形式的に整っていても、実効性がなければ機能しないことを証明した。そこからは、社外取締役の導入を含めた、今後のガバナンス設計と運営に対するヒントが読み取れる。

コーポレートガバナンスの論点

 そもそもコーポレートガバナンスとは、①「経営の目標が企業価値の向上・極大化に正しく向けられるようにする」、②「粉飾などから企業資産を守る」こと等「少数株主の利益が経営者の怠慢や経営者・支配株主によって棄損されないように保護する」ための仕組み、すなわち株主側から経営者を規律する仕組みであると言える。

 日本企業のガバナンスには、①監査役会設置型と、②委員会設置型の二つのパターンがある。①監査役会設置型は、ある意味、日本独特のガバナンスである。株主総会で選任する常勤の監査役と非常勤の監査役を置いて、経営を監視する仕組みは、極めて実効性が高い側面がある。②の委員会設置型は、2003年4月に日本にも導入された制度で、指名・報酬・監査の3委員会が設置され、各委員会は過半数が社外取締役でなければならないという仕組みだ。取締役会は、経営の監視・監督により特化するという特徴があり、経営執行権限を執行役に委任する形態をとる。執行の監視・監督の実効性は、内部統制システムを通じて担保する考え方である。ある意味で経営の透明性が高まる効果が期待される。一方で、日本で委員会型を導入する上場企業はわずか50社余りで東証上場企業の2%程度に過ぎないという現実がある。この数字の意味するところは何か。日本の多くの経営トップが、基本的に社外取締役が経営に入ってくることを望まない。特に指名委員会への関与について、同時に運営面からみても非常に難しいと考えている。50社という数字は、そうした現状を物語っているのではないか。

 監査役会型、委員会設置型ともに、日本、欧米それぞれの経済発展の過程で発達してきた。しかし、その双方で不祥事が発生している。繰り返すが、ガバナンスは外形ではなく、制度の実効性がカギであることは明らかだ。

 監査役会型を採用している日本企業でも、複数の社外取締役を入れ、指名委員会や報酬委員会をつくって運営する、いわゆるハイブリッド型のガバナンスを設計し、運営する企業が出てきている。これは、今後の日本におけるコーポレートガバナンスの方向性を示唆しているのではないかと私は考える。私見を申し上げれば、法律で社外取締役を義務化するのではなく日本のベストプラクティスを打ち出し、それに対して各企業が独自に自社の仕組みをつくり、“COMPLY or EXPLAIN”で説明していくのが最善ではないかと考える。ちなみに、委員会設置型の会社も監査委員会の委員に社外の非執行取締役を起用して機能強化を工夫する会社もある。いずれのタイプも自社に適した実効性のある仕組みを追求していった結果である。

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取締役会の機能とガバナンス

 取締役会の基本機能は、会社の業務執行を決し、取締役の職務の遂行および監督をすることにある。日本では通常、取締役は経営を行うと同時に、業務執行も行うことになっている。

 一方で、取締役会と経営会議(執行役会)の棲み分けは、執行と監督の分離の観点からも論点の一つとなる。取締役会に付議される案件は、多くの企業で経営会議でほぼ審議済みであるという事実がある。もちろんそれぞれの機能と役割をきっちりと設計している会社もあろうが、社外取締役のいない会社の取締役会では、同じ案件を両方で審議しているケースが多く、取締役会の審議が形骸化する恐れもある(すなわち執行役会で同じ要件が審議済みである)。

 他方、経営会議は、社外取締役はいなくても、常勤の監査役が出席し、また取締役会には非常勤も含めて監査役全員が出席するので、社外取締役のいない会社では、監査役の機能が極めて重要になってくる。後述する社外取締役の機能に鑑みて、取締役会付議事項の設計に留意して、社外取締役が入った取締役会での審議の充実を図る必要がある。

日本企業の特殊性

 戦後の日本企業は、先に述べたようにムラ社会、終身雇用、年功序列といった“会社共同体”的な側面をもつ。もちろん取締役の選任は株主総会で決議されるが、多くの場合そこに至るプロセスは委員会等の仕組みではなく、実質的には経営トップである社長が決めるのが実態である。つまり取締役側から見れば、株主総会で決められたというよりも、社長に選ばれたという意識を潜在的に持つ側面がある。これは監査役も同様である。社長に選ばれた取締役や監査役がどこまで社長の経営執行に物申せるか。これらの日本的慣行が常に問題になるわけではないが、少なくともこの点も日本企業のガバナンス上の潜在的な問題として理解しておく必要があろう。つまり、日本では多くの企業で社長の解任や退任を迫るメカニズムが不在で、次期社長も現社長が選任することにより社長の権限は極めて大きくなっている。それがコーポレートガバナンス上の潜在的な問題になっているということだ。取締役、監査役が社長に選任されるという仕組みからの脱却が重要ではないかと私は考える。

企業経営者の意識と社外取締役の機能

 一般的に日本企業の経営者は、真に株主を意識しているであろうか。または株主から経営を委任されているという意識はあるだろうか。株主主権論やテークホルダー主権論といった議論以前に、「会社共同体」的な日本企業の経営風土の中で、「会社は自分たちのもの」と無意識に思ってはいまいか。企業共同体的体質によって、会社を「現従業員と元従業員の経営者から構成される共同体のものである」と、無意識に思ってはいまいか――という疑問である。

 このことは、戦後の長きにわたって経営の効率、企業価値の向上、利益相反問題、株主利益の保護等を厳しく追求する株主や機関投資家の圧力が弱かったという側面が日本においてあるだけに、あえて疑問を呈するものである。換言すれば、株主から委任を受けて経営しており、忠実義務、善管義務を持っているということを日本の経営トップは真に意識しているかという疑問である。

 次に社外取締役の機能について見ていきたい。取締役会が社内取締役のみで構成されている場合、前述した日本企業の内面的な体質、いわゆる“企業共同体”的なものと、取締役選任の慣行という二つの要素も相まって、企業経営の方向性を間違えるリスクがつきまとう。それゆえ、独立性の高い社外取締役の存在は極めて重要である。すなわち、株主をはじめとしたステークホルダーの利益を損なうような決定や、不十分なリスク判断で企業価値を損なうような決定、さらにはコンプライアンスに反する決定等が起ころうとした場合、この問題は顕在化する。そうした面でも独立性の高い社外取締役は極めて重要な要素となるのである。

 社外取締役の「基本機能」は、牽制・監督機能、助言機能、経営をプッシュする機能がある。中でも私が極めて重要な機能と考えるのは、社外取締役がその会社以外で育ち、育んできた知見や判断を、その会社の経営に意見・助言としてもたらせることだ。

 一方で「究極的機能」も重要である。普段発揮される機能ではないが、場合によっては最終的にトップの解任を迫るという役割だ。社内取締役だけであると、この機能を果たすことは現実至難である。歴史の中で皆無ではないが極めて希有だ。その意味では、やはり社外取締役の重要性を物語る機能であると考える。

日本企業における社外取締役の起用

 ここで、日本企業における社外取締役の起用状況を見ると、2012年の6月時点で、東証上場2300社のうち、社外取締役を選任した会社数は約55%であった。それが2013年6月末は62%と増加傾向が加速している。日本のコーポレートガバナンスに関する内外の議論を反映したものである。「社外取締役は入れない」と公言していた有名企業が、何社もその方針を最近転換したことはご承知のとおりである。この傾向は今後も明らかに続くと考えられる。

 社外取締役の導入がコーポレートガバナンスの観点から重要であることは間違いないが、社外取締役を起用したからといって、即機能するわけではない。期待される役割を果たすには一定の前提がある。それは社内の経営トップの基本姿勢のあり方である。経営トップが社外取締役の機能を真に理解することが、何より大事である。社内だけの判断では不十分で誤る危険性がある場合こそ、社外取締役を機能させるときだ。牽制機能、助言機能を引き出し、意見を述べてもらう。社外取締役の見識、能力を活用しようする姿勢が重要だ。こうして初めて社外取締役は機能する。形式的に何人社外取締役を起用しても、社外取締役を活用し、機能させる姿勢がなければ意味がない。私が法律による義務化に疑問をもつのは、形式だけ整える恐れが極めて高いと思われるからだ。義務ではなく、自ら必要性を認識してこそ、実効性ある制度となるのではないか。

 次に執行と社外取締役の関係について簡単に触れたい。独立性の高い社外取締役や社外監査役が入ったガバナンス構造をつくり、「執行する側」と「牽制する側」で根本的な信頼関係を築くことがまず重要だ。そうした信頼関係の基盤の上で、建設的な緊張関係を築きながら経営を実行していくことが望ましいと考える。

内外の機関投資家と日本のコーポレートガバナンス

 先ほど、これまで日本の機関投資家の役割または圧力が弱かったと述べたが、各種の研究ではコーポレートガバナンスと企業業績の間には強い相関関係はないという見解が支配的である。日本の企業経営の特徴の中で、前述のとおり、企業の利益、資産効率の向上に強い圧力をかける機関投資家の弱さが日本にはあった。それが日本企業のROEの低さを招き、株主市場の低迷につながるという悪循環になったことは、過去20年、30年の市場の状況やROEの日欧米比較でも明らかだ。

 一方、英国では1992年に、キャドベリー委員会によりコーポレートガバナンス・コードが導入済みであったが、2000年代の金融機関の経営破たんを契機に、機関投資家が特に金融機関への投資について、委託者の利益を守る、受託者としての責任を追及するシステム、いわゆる「スチュワードシップ・コード」が導入された。これはイギリス流のアプローチであり、ソフト・ローで強制力はない。いわゆる“COMPLY or EXPLAIN”の考え方である。日本でも2014年2月、金融庁の有識者検討会が、日本版スチュワードシップ・コードを公表した。投資家の力が極めて弱かった日本において、明らかな前進と言える。しかし、私はまずはコーポレートガバナンス・コードがあって、その上でスチュワードシップ・コードがあるのが本来の姿であろうと思う。敢えて、その点を問題提起しておきたい。

 そして、海外から見た日本のコーポレートガバナンスを考えれば、海外の機関投資家が、日本企業のコーポレートガバナンスの改革を促すドライバーの役割を果たしたことは明白だ。海外の機関投資家は株式市場で、フローベースでは約60%、ストックベースでは30%と、極めて大きなウェイトを占める。メインバンク制や持ち合い株によって内部からのガバナンス改革の力が弱かっただけに、日本企業のコーポレートガバナンス改革の圧力となったことは間違いない。一例としては、日本企業の98%を占める監査役型の機能についても、監査役が議決権を持たないことへの問題提起や経営執行を監視する社外取締役の導入を強く促す等、海外投資家が大きな影響を与えている。

コーポレートガバナンスの設計・運営上の留意点

・実質・実効性を重視した最適体制

 経営の透明性を高めて企業価値を向上させるには、固定的な仕組みではなく、それぞれの企業に最も適したコーポレートガバナンス体制の設計と運営が求められる。各企業で設計されたコーポレートガバナンスの体制と、経営を規律する内部統制の下で、最終的には経営会議あるいは取締役会で意思決定され経営が執行される。

 その中で社外取締役の起用は、ここまで述べてきた機能に鑑みて、その大前提になると考える。

・総合的経営能力の整備

 しかしながらそれは、経営トップの力だけで可能になるわけではない。意思決定・執行をサポートする組織の存在と、組織の職能専門能力がカギとなる。財務報告書の正しい作成、経営計画の立案、成長戦略、財務戦略、リスクマネジメント等々を企画・審査・推進する機能であり、組織として経営企画あるいは経理財務、リスク管理、法務・人事、内部監査等の組織とスタッフを整備し、それを支える人材を育成・確保する。それが、最終的に企業の総合的な経営能力につながっていくのである。

 この意味で、企業の総合的経営能力が整っていなければ、コーポレートガバナンスの体制や内部統制システムが仕組みとしてできていても、不祥事の防止を含め、企業の持続的発展は望めない。

・企業風土・価値観・人材

 それらを支える根となるものが、企業風土、価値観、あるいは人材であろう。問題を問題と言う風土や自由な意見が言える風土は仕組みではなく、その企業の根底にあるものだ。また経営を担う、あるいは将来を担う人材を大切に育てていくことが、最終的には高い倫理観、使命感を持った、有能な経営陣、執行陣の育成につながっていく。これは仕組み論を超えた、極めて根源的で重要な課題である。

企業の中長期発展に向けて

 ガバナンスの目的は、短期的ではなく中長期に企業を発展させることにある。これがベストという固定的な仕組みはない。各企業に最も適した仕組みを各企業が設計すればよい。日本的企業の内面的な性格、選任の慣行等を頭に入れて、最適な設計と運営を行っていただきたい。

 その意味においても、ベストプラクティスを打ち出したコーポレートガバナンス・コードをつくることが、日本にとって重要な課題であると考える。

※本稿は、2014年5月22日開催の「グループ経営統治力の強化とその実践セミナー~改訂COSOフレームワークを活用したグループ経営統治力の強化と経営管理体制の見直し~」の講演内容を編集部にてまとめたものです。

2014年9月16日

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