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CFOFORUM

2014年9月16日 

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映画を見ながら
世界の経済や経営の問題を考える

久原正治

昭和女子大学 グローバルビジネス学部長

 CFO FORUMでこのBOOKS欄を担当し、もう10年以上が経った。その時々のトピックに合わせた日米の本を紹介し、日米の経済や経営の比較をするというのが、この書評欄の目的であった。筆者はアメリカの西部、東部、中西部の3ヵ所で生活することができ、その生活の中でアメリカのノンフィクション、特に経済・経営関連書を原書で読む癖がついた。アメリカのノン・フィクション経済・経営物は、細かなインタビューなどを通じ詳細が現場にいるように再現され、例えば金融危機時の金融機関経営者の行動といったテーマになると、ドラマのようにワクワクして読める。これらを、日本のどちらかと言えば著者の個人的独白や感慨にふけることが多い同種の本と比較することで、これまでにない視点が得られることが多く、この書評欄ではそれらを中心に紹介してきた。

 今回、CFO FORUMがデジタル化されることになったので、日米比較に中心テーマを置いて、経済・経営からやや広がったテーマについても紹介していきたいと思う。特に、筆者は最近高齢者の仲間入りをしてから、洋書の細かい字を読むのがやや億劫になってきて、代わりにアメリカなどの外国映画を映画館やビデオでこれまで以上に見るようになった。そこで、このような映画を通じた日米の比較も時に交えて本欄を進めていきたい。

 その手始めに、映画の日米比較がなぜ面白いのか、同世代の映画批評書を紹介する形で、所論を述べてみることにする。筆者は金融機関に20年以上勤めた後、大学で経営学を研究するようになったが、その過程で、経営学の理論書に書いてあることのほとんどは、映画でその事例を見たことがあることに気付いた。あらゆる映画が組織の運営や個人の働く姿をとらえており、世界の映画を見ることで、それぞれの国で働く人と組織との関係が目の前に繰り広げられる。過去の映画をビデオで借りてもよい、また、現在上映中の映画でもよい、暗闇の中で人の働くさまとそこでの組織のありように焦点を合わせて映画を見ていると、経済や経営に関する貴重な知見が得られるのだ。

 例えば、この7月に見た新作映画を2つ挙げよう。一つは中国映画「罪の手ざわり」、中国の受託製造業で働く若者の貧しく将来の見えない生活がよく分かる。もう一つは日本の時代劇「超高速!参勤交代」、東北の弱小藩のサラリーマン侍が藩主と運命を共にして忠勤に励むさまがおかしく描かれる。日本の現代につながる等身大の忠勤サラリーマン映画だ。

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    罪の手ざわり

    (c)2013 BANDAI VISUAL, BITTERS END, OFFICE KITANO
    公式サイト:http://www.bitters.co.jp/tumi/

  • 201409_cine02

    超高速!参勤交代

    (c)2014「超高速!参勤交代」製作委員会
    ※商品仕様、特典等については変更となる場合がございます。
    2014年11月12日(水)発売
    ブルーレイ価格:3,800円+税
    発売元:松竹 販売元:松竹

 そこで、皆さんがこのような映画を選ぶのに参考になる本を紹介しよう。邦書では最近出た②がよい。著者の芝山幹郎は筆者と同じ団塊の世代で、映画だけでなくワインや野球など多様なジャンルで評論を手掛ける。映画評では、日経新聞土曜版に長年『今週の一本』を連載していたのでおなじみの方もいると思う。忙しい人が一目で読めるように、1本の評が約600字、短いが映像が目に浮かぶような端的で鋭い批評家である。この少し分厚い新書版には、戦前の名作から最近の話題作まで、多様な映画が365本取り上げられている。第2次大戦の有名なパットン将軍を描いた「パットン大戦車軍団」の評を見ると、「強くて、もろくて、孤独な男の姿を重層的に描く」とある、まさに現代のCEOの姿である。この365本の中から面白いと自分が感じる映画をビデオ借りてみる。西部劇や組織犯罪、スリラー映画は評者のお手の物なので、まずこのあたりから見てみると、日米の組織の違いがよく分かるようになる。

  • 201409_cine03

    パットン大戦車軍団

    (C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
    ブルーレイ発売中
    ¥2,381+税
    20世紀フォックスホーム エンターテイメント ジャパン

 英語の映画評論では、評者のもっとも尊敬する映画批評家で、昨年惜しくも71歳で亡くなったRoger Ebertがよい。シカゴ・サンタイムズをベースに全米に毎週映画評を配信し、テレビでも映画評番組を長年やっていたので、アメリカ人の映画好きで知らない人はいない。個人的にもシカゴで一度直接話を聞くことができた。映画を本当に愛する人であった。彼はその代表的な映画評を集めたThe Great MoviesⅠ,Ⅱ,Ⅲの3分冊を出している。それぞれ約100本の歴史に残る世界の名作が取り上げられている。これは映画を見た後でじっくり読むのに適する批評だ。今はアマゾンで簡単に手に入るので、この中のⅠだけでも手元に置くとよい。英語の映画題名と日本語の題名とが違うので少し戸惑うが、幸いに芝山氏の②には日本語題名に原題が併記されている。気に入った映画をEbert氏の名批評でも読んでみると、味わいが必ず違ってくる。なお、この本を買わなくてもネット上にEbert氏の全映画評を入れたホームページがあるので、こちらで探して読むという手もある。

 忙しいビジネスパーソンには、洋書を読むより外国映画を見る方が、世界の経済・経営を理解する近道だと言える。

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    ①The Great Movies

    Ⅰ(2003)

    Roger Ebert
    Three Rivers Press

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    Ⅱ(2006)

  • 201409_books_03

    Ⅲ(2011)

  • 201409_books_04

    ②今日も元気だ映画を見よう

    芝山幹郎

2014年9月16日

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