2017年12月15日
映画は時代を映す鏡
―2017年のヒット映画から考える─
久原 正治
久留米大学理事
昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員
2017年世界でヒットし日本でもヒットした戦争映画「ダンケルク」と、大ヒットまではいかなかったが佳作の「ハクソー・リッジ」の主人公はいずれも若く、か弱い男性であった。一方でスーパーマンやバットマンの系譜のDCコミックスの映画化で「ワンダーウーマン」という女性をヒーローとする映画が世界で大ヒットとなった。この3本の主人公たちはそれぞれに時代の状況を映している。
戦争映画ではその主人公の姿に制作された時代が反映されてきた。まだ第2次大戦後間もない1960~70年代ごろまでの戦争映画では、例えば「パットン大戦車軍団」(1970年)のように、カリスマ的なリーダーが主人公であった。ベトナム戦争の時代に入ると、「地獄の黙示録」(1979年)や「プラトーン」(1986年)のように、大義のない戦闘の中で精神的に病んでいくような主人公も出てきた。90年代に入り世の中が少し落ち着くと「プライベート・ライアン」(1998年)のように戦場の中で一兵卒の救出に向かうヒューマンなリーダーが取り上げられたが、局地的なテロに対する戦闘が中心の2000年代に入ると「ハート・ロッカー」(2008年)や「アメリカン・スナイパー」(2014年)のような爆弾処理や狙撃の孤独なプロフェッショナルが主人公となってくる。そして、「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(2016年)のように、戦場をはるか離れたネバダ州の基地から、あたかもゲームのようにボタンを操ってテロリストをドローン爆撃する孤独な兵士が主人公となってきている。
2017年6月に日本で公開されたメル・ギブソン初監督の沖縄の激戦を扱った「ハクソー・リッジ」では、人を殺してはいけないというキリスト教の教義に従う良心的兵役拒否者が主人公である。入隊後武器の所持を拒否するので最初のうちは組織の中で迫害を受けるが、やがてプロフェッショナルな衛生兵になって沖縄戦に派遣され、そこで何人もの負傷者を助けることで勲章を貰う。他方敵となる日本兵にはそのような専門性はなく、司令官であろうが衛生兵であろうが塹壕の中から次々と突撃し死んでいく。この映画では戦闘でのヒーローではなく衛生兵を主人公とすることで、アメリカの戦闘組織の多様性と専門性がよく描かれている。
2017年9月に日本で公開された「ダンケルク」は、第2次大戦の初頭、イギリス軍とフランス軍合わせて40万人がドイツ軍の攻撃でダンケルクという英仏海峡の小さな町に追い詰められ、そこから海を渡りイギリスに撤退する映画である。チャーチル首相は、何とか虎の子の軍隊をイギリスに戻して、そこで戦陣を立て直そうとした。本作は撤退作戦の中で戦場から逃げる若い兵士たち、イギリスから救助に向かった漁船の船長と乗組員、空爆で支援に向かう英空軍パイロットの動きを、陸海空の三方から重層的に描くことで観客にまるで自身が戦場にいるような臨場感を与える優れた戦争映画になっている。この中で真の主人公は、まだ十代で何も分からず戦場に送られ、自分の部隊からはぐれて一人爆撃から逃げ回りながら自力で何とか生き延びようとするごく普通の若者である。
このように、戦後の戦争映画は時代とともに、戦争のヒーローリーダーを賛美する内容から、戦場で精神的に疲弊する兵士、戦場で孤独に振る舞う兵士個人、戦闘行為から離れたところで生き抜こうとする個人へと、取り上げられる主人公が時代とともに変わってきている。
次に、女性リーダーの話を取り上げよう。スーパーマンやバットマンなどのDCコミックス(米国の漫画雑誌)原作系譜の「ワンダーウーマン」は8月に公開され、2017年の夏一番のヒットとなった。女性のスーパーヒーローが男性の専門家を率いて敵の男性を次々に倒していくというストーリーで、パティ・ジェンキンスという女性の監督が作っている。現実の世界でまだ十分な活躍の場を得ているとは言えない日本の女性は、この映画を見ることでワンダーウーマンの活躍に胸を躍らせることになる。男性の目で見てもこれからの組織にはこういう女性のリーダーが出てくることが予感される。年末に入り、バットマン、アクアマン、スーパーマン、ワンダーウーマンそろい踏みの「ジャスティス・リーグ」が公開されているので、⼥性リーダーが、男性のスーパーヒーローたちをチームリーダーとして率いた胸のすくような活躍を再び⾒ることができる。
最近の組織で働く若者には、組織にとらわれずに専門性を身につけ自分の力で生きていくことを考えている傾向が強くなっていて、リーダー像や組織のチームワークのとらえ方が変わってきている。2017年のヒット映画を振り返りながら、そんなことを考えてみた。
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『ダンケルク』
12月13日デジタル先行配信開始
12月20日ブルーレイ&DVDリリース
ブルーレイ&DVDセット(3枚組)¥3,990+税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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『ハクソー・リッジ』
Blu-ray&DVD好評発売中
スペシャル・エディションBlu-ray ¥5,800+税
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:バップ
©Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016 -
『ワンダーウーマン』
ブルーレイ&DVDセット(2枚組) ¥3,990+税
デジタル配信中
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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2017年12月15日