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2014年10月15日 

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財務マネジメント・サーベイ

経理・財務部門の組織と
人材面の課題を探る

会計制度や資本市場の国際化が進展しビジネスの海外展開も加速する中、企業の経理・財務部門はその組織や機能が大きく変化している。
シェアードサービスやアウトソーシングを実施したものの、わが国の制度・慣習との狭間で様々な課題を抱える企業も多く見受けられる。
より本格的な国際競争に向けてマネジメント体制を固める日本企業にとって、経理・財務組織や人材面でどのような課題を抱えているか、今回の財務マネジメント・サーベイは「経理・財務部門の組織・人材」をテーマに調査を行った。

[調査の概要]

経理・財務部門の組織・人材に関する調査
実施:日本CFO協会
調査実施期間:2014年7月~2014年8月
総回答者数:757名(WEBアンケート)

[回答者のプロファイル]

職種:経理・財務84%、経営企画8%、総務人事2%、その他6%
役職:役員12%、部長28%、管理職27%、その他33%
売上高:1000億円以上57%、500億円以上1000億円未満11%、その他32%
従業員数:5千人以上43%、千人以上5千人未満24%、その他33%
業種:製造業48%、情報・サービス11%、商社・卸売10%、小売5%、その他26%

経理・財務業務が大きく変化

 リーマンショック以降の世界経済金融危機、東日本大震災、そして円高といった厳しい経営環境を乗り越えてきた日本企業は、企業の規模を問わずその多くがアジア新興市場を中心とした海外成長戦略に邁進してきた。欧米企業と比べて低い利益率やガバナンスに対する不透明さを指摘する資本市場と向き合う一方で、海外M&Aやアライアンスなど、積極策に対するリスク管理、グループマネジメントなど、より大きなプレッシャーがかかるCFOや経理・財務部門であるが、果たして人材・組織の面でどのような課題を抱えているのだろうか。

 経理・財務部門のスタッフに求められる実務知識や経験値が過去5年で変わってきたかという質問に、46%の企業が「大きく変わっている」と回答した(図1)。どのように業務が変化してきたのだろうか。専門性が高いため外部人材を活用していきたい業務を質問してみるとこれは明らかだ(図2)。上位3つが「国際税務」39%、「M&A」37%、「IFRS対応」32%となっている。外部人材を活用する主な理由は「自社に専門知識を持つ人材が不足している」が61%と多くを占め、事業展開の急速な国際展開に対応できる人材が不足していることがわかる(図3)。しかも、「経理・財務部門の要員が絶対数として不足している」という回答も26%となっており、経理・財務部門の人材不足は質量ともに不足していることがわかる。「失われた20年」の間に経理・財務部門への人的投資がいかに不十分であったかが見てとれる。

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 ほぼ5年前に相当する2009年、2010年にも人材・組織に関連した調査を行っている(注1)。2000年以降の連結決算業務をきっかけとして約8割の企業で経理・財務部門の中途採用を行っていたが、中途採用は連結決算対応でひと段落ついたのか、その後の体制をどうしていくかという質問には「自社のスタッフを育成して社内体制を拡充する」の回答が92%に達するなど「自前主義」の根強さが目立ち、外部の活用や中途採用の意欲はそれぞれ26%、23%に下がっていた。しかし、今回の調査では、その後5年間の施策として中途採用をあげた回答が49%に再び上昇し、外部専門家の活用も48%とほぼ並ぶなど、「自前主義」が限界を迎えてきたことがわかる。

 専門業務における外部人材の活用は今後も増えていくようだが、「M&Aにしても、財務デューデリ、企業価値評価などは外部人材・プロジェクト人材を活用すればいいが、M&Aの後で管理会計やデータインフラを強化できる内部人材も少ないのが実態であり、この分野まで外部人材にお任せというわけにはいかない」(松田千恵子氏・首都大学大学院教授)という指摘もあるように、経理・財務部門におけるグローバル化への対応は、外部専門家を活用したとしても、丸投げはできない。従来とは違う新しいスキルセットに対応できる内部の人材強化が不可欠である。

標準的業務の集約化・外部委託

 専門性の高い業務とは別に標準的なオペレーション業務についての動向はどうだろうか。

 「会計・税務の複雑化・高度化が進む一方で、固定費の抑制・低減を図るためには、単価引き下げ目的でシェアード化・アウトソーシング化を進めるしかない」(大手食料品)という意見に代表されるように、今後も集約化、外部委託が進んでいきそうだ(図4)。集約化、外部委託について「かなり大幅に取り組みを進めている」は9%とまだ少ないが、「取り組みを進めているがまだ改善の余地が多くある」が47%、「必要性は感じているが取り組みが思うように進んでいない」が25%と、集約化・外部委託への取り組みは、まだまだ課題を多く抱えていることがわかる。

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 シェアードサービスについては、「単価の差によって短期的にはコスト抑制が実現できようが、持株会社・シェアード会社・事業会社との間における業務の切り分けや、キャリアパスやモチベーションなど人材面での課題も多く、中長期的に見て有効かどうかは疑問」(大手食料品)という意見があったが、これは他の多くの企業からも寄せられる悩みであり、実際にシェアードサービスを解消したという会社も見受けられるようになってきた。しかし、「経理基礎業務の経験不足・ブラックボックス化や若手社員育成問題などの課題はあるが、コスト削減、人員確保・管理、業務高度化を優先して取り組みを開始した」(大手石油)というように、取り組まなければいけない課題要素が多々あるものの、集約化・外部委託が今後進んでいく傾向にあることは間違いないようだ。今後5年後の外部委託の見通しを聞いたところ、「委託の範囲が現在より拡大されていく」が73%に及んだ(図5)。

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 図6と図7からもわかるとおり、外部委託については「決済・現預金管理」「購買取引」「販売取引」といったマニュアル化すれば定型業務として実行できるような標準業務だけでなく、今後さらに高度化が進み重要性が増していく「制度決算」「法人税・消費税」といった業務も増えていく模様であり、コスト削減だけでなく、高度化・専門化への対応としても位置づけられていることがわかる。もっとも、法人税・消費税については「法人独自の項目もあるほか、ある程度決算数値が確定しないとできない項目もあるため、慎重に項目を検討しないと決算確定遅延につながる可能性もある」(大手化学)とのコメントもいただいた。

 一方で、外部委託先のパフォーマンスについて「満足している」企業は20%と少なく(図8)、その理由として挙げられたのは「業務の成果が十分でない」が52%、「改善の提案がない」が50%、「自社組織との業務連携がよくない」が43%であった。外部委託が必ずしもうまくいっていない状況が現実であり、どのような方針、方法で外部委託を行うかについて十分に検討する必要があるのだろう。「外部業者に業務委託する際に明確に期待値を具体化していたかどうか疑問であり、また委託先に改善提案などを期待してよいものか」(中澤進氏・ビジネスブレイン大田昭和会計システム研究所所長)との厳しい指摘もある。

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経理・財務部門で働くスタッフの意識調査

 今回は企業としての立場だけでなく、経理・財務部門で働く個人の方々にも別途調査を行い(注2)、626名の方から回答をいただいている。「会社から期待されている役割が明確に示されていると思うか」の質問に対して「明確に示されている」と回答した人は正社員で37%しかいなかった(図9)。比較的に業務が明確であるはずの経理・財務部門においてすら業務職掌が明確になっていないことが見てとれる。しかも、委託内容が明確にされているはずの派遣社員に至っては24%ともっと少ない。自社の正規社員に対しても期待する役割すなわち業務職掌が不明確なのだから、外部委託の際にも適切な業務の切り出しができないことが想像できる。

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 外部業者のパフォーマンスに満足していないと回答した企業からの回答で、恐らく海外・外国人へ業務委託をしているところからと思われるが「日本人は言わなくても改善活動や付加価値のある作業をやってくれる」「日本人並の以心伝心が期待できない」というコメントもあったが、標準的な業務においてもこのような多能工的な働きを期待しているマネジメントが多いのだとすると、その裏返しとして役割分担や指示が不明確であり、それゆえ何かにフォーカスしてスキルを磨いたり、あるいは単純業務を割り切ってアウトソーシングして結果を出すことができにくいのではないだろうか。この結果に対し、前出の中澤進氏は「ジョブ型雇用でなくメンバーシップ型雇用が基本である日本企業に共通したものと言えるが、多様性への対応が前提になるグローバルオペレーションを実現する場合の阻害要因」になると指摘する。

 ちなみに、図にはしていないが「実務経験やキャリアパスが配属や職務分担に適切に反映されているか」という質問に対して「適切に反映している」と回答した人は正社員で36%、派遣社員で31%となっており、これは「役割が明確に示されている」との回答とほぼ一致している。職務規定が明確であればキャリアパスや配属との連携も取れることを証明していると言えるだろう。

今後の展望

 さて、今後の経理・財務部門の人数の増減について聞いたところ、正社員・派遣社員ともに増加傾向、減少傾向と答えた企業は拮抗しており、特に人数の見通しについては主だった傾向は見られなかったが、派遣社員に委託している業務の範囲については45%の企業が今後拡がっていくと回答しており、明確に拡がりを否定した企業は19%しかなかった。具体的に今後派遣社員に委託していきたい業務範囲について聞いたところでは、図10にあるように、仕訳伝票入力、帳票や証憑などのファイリング、データ収集等の標準作業と思われるものが上位にあり、難易度の高くないものが主流を占めることには変わりはない模様であるが、それでも、報告書の作成、取引や他部門との連携が必要な業務、海外拠点・取引先との連携が必要な業務なども新たに委託したい業務に含まれてきていることは注目される。

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 個人の方々の業務別のスキルレベルについて回答してもらったのが図11である。

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 派遣社員に委託していきたい業務範囲としてトップ3だった「決済・現預金管理」、「販売取引」「購買取引」は、やはり派遣社員ができると回答した業務のトップ3と全く同じであったが、派遣社員が「自ら進めることができる」比率は相当限定されており、「サポートのもとで進めることができる」を含めた比率が、正社員が「自ら進めることができる」とした比率とほぼ同じレベルになっている。派遣社員が正社員のサポートのもとでやっているという姿が浮かび上がるが、企業はこの仕事を派遣社員だけでやってほしいと期待しているということだろうか。「経理・財務部門における派遣社員ニーズはここ数年強くなっており、特に月次管理業務などかなり難易度の高い業務内容について、業務経験のある派遣社員を要望する企業が多くなっている」(大手人材派遣)のが現実で、標準的な経理・財務業務においては、ますます派遣社員の活用が進んでいく可能性がある。派遣社員にとっては、より質の高い業務に進出するチャンスでもあるが、正社員にとっては、今後より付加価値の高い仕事が求められるだろう。「外部人材の活用と自社人材の育成をバランスよくミックスさせることが、ダイバーシティの観点からも重要である」(大手製薬)というように、派遣社員に積極的な意見もあるが、期待に応えられるだけのスキルを持った派遣社員の確保が難しいのも現実であることを考えれば、「正社員と派遣社員では、仕事に対する意欲、専門能力、給与体系などに大きな乖離があるため、正社員のスキル向上に努め、正社員で業務を回していけるようにしたい」(大手石油)という意見や、「求められる経理知識・経験値が大きく変化し、かつ専門性が高まっている中、外部委託する前にシステム化・標準化などで業務環境を整備し、正規社員の効率活用が先決」(前出・中澤進氏)という意見があるのもうなずける。

 参考までに個人の給与についての満足度であるが、正社員では「大変満足している」10%、「満足している」が37%で、給与に関してはある程度満足しているように見える(図12)。この数字は、一般的な給与の満足度調査から比べるとかなり高い満足度のように思うが、今やっている仕事が今後は派遣社員にとって代わられるかもしれないという可能性を謙虚に受け止めての結果かもしれない。一方で、派遣社員は「大変満足している」が3%、「満足している」が26%と正社員に比べるとかなり低い満足度となった。「将来、アウトソースの賃金上昇が予想され、外部委託のコスト優位性がなくなるのでは」(大手自動車)というコメントもあった。

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 最後に、社内の教育研修や自己啓発支援の仕組みについては、正社員で「充実していると思わない」が56%に及び、派遣社員では派遣元の派遣会社については「充実していると思わない」は23%と少なかったものの、派遣先企業の仕組みについては「充実しているとは思わない」が47%に達した(図13)。経理・財務部門に求められる仕事が大きく変わっている中で、そこで働くスタッフもこれからの仕事に求められるスキルがレベルアップしていることを感じているのではないだろうか。スキルアップを支援する教育・研修機会が足りないことに不満が高まっているようだ。

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 5年前に実施した調査でも、社員のスキル教育については「OJT重視」が76%、「社内試験・研修を重視」はわずか17%と「勉強なんかしないで仕事をしろ」という考えがはっきりと出ていたが、この傾向は変わっていないのであろう。現場での経験重視というのが日本企業の伝統的な考えであろうが、質量ともに人材が不足しているという経理・財務部門では職務のローテーションも思うように進まないはずである。現場のスキルの伝承すらままならない脆弱な体制の中で、従来通りのOJT任せではなく、教育・研修にももっと目を向ける必要があるのではないだろうか。
(日本CFO協会 谷口宏)

(注1)財務マネジメント・サーベイ
   2009年「IFRS時代の経理・財務人材の育成」
   2010年「会計プロフェッショナル人材の活用と課題」
(注2)「経理に携わる方々へのスキル・給与に関する意識調査」

2014年10月15日

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