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CFOFORUM

2014年10月15日 

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直川 紀夫

株式会社資生堂
執行役員最高財務責任者、財務・IR・情報企画・内部統制担当

海外展開の実際

 1872年、日本初の洋風調剤薬局として資生堂は創業した。創業142年を迎える2014年現在、資本金645億円、グループ会社数104社、全世界で4万6,000名の社員とともに化粧品、美容食品、医薬品を製造販売している。2014年3月期の売上高は7,620億円となり、この期初めて海外の売上が国内の売上を上回った(海外売上比率50.5%)。

 私が入社した1989年、海外売上比率が一桁前半であり、グローバル化の進んだ会社というイメージはあまりなかった。グローバル化の契機は、1997年にさかのぼる。この年、1,000円以下の化粧品に敷かれていた再販売価格維持制度(再販制度)が撤廃。国内の化粧品市場が成熟化していく中、海外展開が急務となった。1995年わずか9%だった海外売上比率が2000年に入ると20%を超えた。2005年、前田新造前社長の改革スタートでさらに拍車がかかった。海外の売上比率が高くなる一方で国内売上が縮小。そして2013年、ついに海外売上が国内売上を上回ったのである。

 現在、販売はグローバル「SHISEIDO」ブランドで89の国と地域に展開。化粧品は国民性や文化、気候や法律、肌の色や骨格の違いによって相当変わってくる。そこで、研究開発も全世界9カ所の研究開発拠点で、約1000名の研究員が日夜研究を重ねている。工場は地産地消を基本に、全世界で14カ所(日本、中国、台湾、ベトナム、フランス、アメリカ)に拠点を据える。

 私は入社後、大阪の営業担当で化粧品店やドラッグストアを営業して回った。2年間大阪で商いを学んだ後、1991年本社異動となり、国内のブランドマーケティングと店頭のオペレーションマーケティング担当となる。当時、全国の有力なお得意先さまの店舗改装に走り回って築いた、お得意先さまや社員とのネットワークが今でも貴重な財産となっている。その後、1999年からは海外の商品開発とグローバルマーケティングを6年、経営企画部を6年、国際事業企画部の責任者を3年、2013年に経営企画部の責任者を1年務め、2014年4月より経理・財務の専門的な経験がない私が、CFOを務めさせていただいている。経理・財務の経験がないからこそ、参考にしていただけるお話ができれば幸いだ。

CFOの役割とは

 「CFOは経営管理者ではない。経営者である。チェンジ・リーダーでなければならない」。私がCFOになるとき前社長と現社長からそう言い渡された。「会社を成長させていくためには、社長・CEOのブレイン、かつ良き相談相手、戦友になってほしい」とも。「外資系の会社におけるCFOの役割が求められている」――私はそう思った。

 多くの日本企業には、経営企画部という機能があり、事業の経営管理やコントロールをしている。しかし、外資系のCFO的な機能を果たそうと思えば、従来経営企画部の機能と認識されてきた領域までをCFOの機能としていかなければ、期待される役割を果たすことは難しい。資生堂では、海外売上比率が50%を超えたタイミング(2014年4月から)で、経営企画部が担当していた事業コントロール機能、事業経営管理をCFOの領域に変更した。社内外へのコミュニケーションとコントロールに欠かせない、IRとITも同時に私の担当となっている。

 4月からこうした領域を任せられるにあたって多くの先輩方に話を伺った。役割を整理して取り組まなければならないと思ったからだ。そして、「CFOとして重要なことは、CEOがどのような方向を目指しても企業が揺るがない状態をつくる」ことであるとの考えに至った。資金面はもちろん、製品、人材、組織も含めたさまざまな側面をCFOは考え、事業をサポートする立場でもあらねばならない。ただし、これ以上事業が進んで会社全体を大きく毀損するようなときは、ブレーキをかける(リスク防止)のもCFOの役割だ。事業を深く理解する一方で、過度の感情移入もしてはいけないという整理をして、CFOの仕事に臨んだ。マーケティングや経営企画部の目から見た、あるべきCFOの姿を考えてきたことで身についたものであろうと思う。

 事業は拡大だけではなく撤退もある。その経営判断で社内での意見対立も出てこよう。CFOの真価が問われるのはそうしたときと思う。CFOは事業活動が企業価値にどう影響するかを数字で判断して、つねにCEOとしっかりと議論できることが大事だと思う。ベースにCEOや事業部門との強いパートナーシップと相互理解があってこそ、ぶつかり合うことができる。お互いのリスペクトの重要性を強く感じ、CFOとして最初に行うべきことという認識で常に情報を共有するなど、信頼してもらえるよう取り組んでいる。

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CFOのミッション、三つのフェーズ

 CFOの具体的なミッションは大きく三つのフェーズがあると考えている。一つは戦略や計画立案のフェーズ。二つ目は実行のフェーズ。三つ目は環境整備と人材育成のフェーズである。すべてのフェーズにおいて共通するのが、ストーリーあるものを数字に置き換えることが求められるということだ。数字に置き換えたときに、ストーリーとしっかりマッチしていることが重要だ。数字に置き換え、成功確率の高い判断、実行をリードする。正確かつ効率的な会計処理の実行はもとより、必要な投資費用・資金を効率的に調達し、正しい状況・情報をタイムリーにステークホルダーに発信すると同時に声を収集する。三つのフェーズでこうしたミッションを果たしていかねばならないのだ。

戦略・計画立案フェーズのミッション

 第一フェーズでは、現状の客観的分析と戦略の妥当性をいかにして数値化していくかが求められる。単に数字を並べて会計的に指摘するだけでは本当の意味でのソリューションにはなりえず、事業部門も動かない。「この人たちは本当にビジネスの中身がわかっているのだろうか?」――事業に携わっていたころ、経営企画や財務部門の方々から数値の指摘を受けた時に私自身がそう感じてきた。だからこそ、事業とビジネスと数字を連動させることの重要性を肌身で感じるのである。ビジネスの理解に加えて、その現場で起きている事象を見抜いて、そこに「真の情報」を導き出していく。どれほど素晴らしいデータも、それだけではただの数字の塊に過ぎない。CFOに期待されるのは、ビジネスと数値を有機的に結び付けて読み解き、データから企業の意思決定を左右する「真の情報」を導き出すことであろう。

 戦略の妥当性については、「戦略評価」の実現に向けて取り組んでいる。簡単に言えば、M&Aのバリュエーションを思い浮かべていただきたい。複数の戦略オプションの中からAという戦略を選んだとき、「戦略評価」を実施し「企業価値が向上するか」という視点で判断する。持続的に成長し、利益が上がり、キャッシュフローが増え、企業価値が上がる。そのための戦略である。そのための判断の妥当性をいかに示すことができるか。海外の投資家はそこを指摘してくる。「戦略の正しさを数字で示せ」と。そして、売上、利益だけでなく、「キャッシュはどうなのか」と必ず問われる。そこで説明責任を果たす意味でも極めて重要なポイントであろうと思う。

 意思決定の基準は「企業価値向上」にあり、経営戦略を反映したフリーキャッシュフローの計画を立案して、それをバリュエーションして戦略を評価する。M&Aではバリュエーションを行う中で、価格の妥当性について厳しい検討を行う。戦略判断でも資本の論理からして同様の厳しい検討がなされるべきだと感じている。

実行・オペレーションフェーズのミッション

 戦略、計画の立案の段階ですべてを見通すことは難しい。企業を取り巻く環境は複雑化し不確実性が増していく中で、先を見通す困難さはさらに増す一方だ。より早く効率的にスピーディーな対応が求められるいま、事業の実行段階のCFOのミッションはとても大きいものだと考える。CFOは事業目標達成のための、企業価値創造のためのナビゲーターであって、コントローラーの機能を果たさなければならないと思う。

 CEO、COOのブレインとして財務機能の専門性を活用した視点で提言、サポートしていくことが求められていると思う。そのためにも前述のとおり事業、ビジネスモデル、事業の課題に対する深い洞察が必要であるし、成長にドライブをかけるような経営管理やKPIの設定や期中での資源をシフトといったスピーディーな対応が求められる。これを実現するには、内部情報にスピーディーにアクセスできる環境整備、見える化、透明性が欠かせない。

 2014年4月から、資生堂(国内)はデイリーの店頭売上管理に変わった。それまでもデータとしてはさまざまなデータが蓄積されていたが、月次、四半期、半期、年間、の期間でデータ集計され、分析されて、対策を打っていくのがつねであった。しかも分析には2週間ほどの時間がかかり、4月末の実績を5月末頃に議論していた。4月に入り1週間経ったとき、魚谷雅彦社長に呼ばれた。「これでは遅い。毎日何が起きているか知りたい。徹底して見える化したい。2週間でやってくれ」と言われた。

 店頭ではPOSもあり、お得意先さまからもデータをもらっていた。会社の中に7割ほどのデータは蓄積されていた。しかし、これまでそれを経営陣が毎日見ているわけではなかった。この4月からは、毎日、店頭でお客さまがどのチャネルで何をどれだけ買ったかが、デイリーでわかるようにした。繰り返すが、出荷ではなく店頭である。店頭在庫を含まない、最終セルアウトのデイリーの数字を、社長を含めた全役員、国内の事業責任者、管理職、国内の販売会社の責任者全員に毎日配信している。集計だけして、見たい人が見るようにすればいいと考える人もいるかもしれない。しかし、毎日、配信することに大きな意味がある。4月にCFOになったとき、社長の勧めで、私はスピード経営と言われるいくつかの会社に話を伺いに行った。みなさん口をそろえて、おっしゃった。「毎日配信することが大事だ。その数字をトップが見ていることが大事だ」と。要はトップが見て、そのメールに「返信する」ということだ。例えば、国内売上が計画を下回って推移しているとしよう。トップが「この売上はなんでこんなに悪いのか」と、一言返信する。これで社内に緊張感がいきわたる。この運営が大事だと言う。関わる人たちが、リアルに数字や事実を認識して、その事実をもとに議論ができる風土、土壌をつくっていく。それが極めて重要なのだ、と。

 いま当社の役員会議で交わされるのは、結果の議論ではなく見通しの議論だ。当月の実績の話もするが、全員が会議直前までの実績を知っている。実績と見通しにかい離があった場合は、「なぜかい離があるのか」という議論になる。前日までの数字がわかっているから可能な議論だ。こうした運営が社内の数字に対するリテラシーを高め、緊張感をもたらす。事業部門にとっては厳しいが、社内で数字をガラス張りにして議論ができる会社にしていくことは極めて重要だ。そのためにも、我々も数字の背景を含めてしっかり理解し、「数字の課題はどこにあるか」「改善点はこうではないか」まで話をする。CFOは一番早く全社的な数字を知る立場にある。重大なリスクなども最初に認識できる立場にある。認識する以上は、一番に対応しなければならない。事業部門に対して判断の根拠となったデータなどを共有しながら、いかに行動すべきかを考え動く。分析結果はアクションにつなげはじめてビジネスにインパクトを与えることができる。そのとき分析ははじめて価値を得る。

 さらに、当然、自分たちが価値をつくっていかなければならない。財務、税務のリスクのコントロールしかり、資金コストの低減しかり、資金の運用しかり、オペレーションコストの低減しかりである。これらはダイレクトに価値として創出できる部分である。これらは日本の企業のCFOの機能として比較的実行はされていて、リスクコントロールができていると認識はしているが、一つ弱いと感じるのは税務だ。税務を戦略的に低減する。外資系企業では当たり前となっている税金を低減するところまでは、残念ながら我々も至っておらず、今後の課題の一つである。

 いずれにしても「いかにキャッシュを生み出すか」という視点が重要だ。事業が生み出すフリーキャッシュフローに対する低コストで最適な資金調達、キャッシュマネジメントシステムを通じた投下資本のコントロールなどがポイントになってくるだろう。

環境・基盤整備+人材育成フェーズのミッション

 効率的な計画・立案・実行、オペレーションには環境・基盤整備は必要不可欠だ。スピーディーかつ効率的に内部情報にアクセスするポイントは、最低限、国内・海外に展開する104社のデータベースを一つに統一することだ。

 システム改変には若干の時間がかかるが、その間にもなすべきことは多い。営業部門とブランド担当のマーケティング部門が分析するデータの統一もその一つである。それぞれがKPIを設定して責任を明確化する。どの国で何にいくらのお金を使って、あげた売上や利益を、トップから現場までできる限りリアルタイムで同じデータを共有しながらやっていくことが大事だ。

 CFOのミッションはあと二つある。一つは正しい状況、情報をタイムリーにステークホルダーに発信することだ。財務データを事業戦略とともにストーリーとして組み立てて、分かりやすく投資家やアナリスト、格付け機関やステークホルダーに説明することが大事だ。戦略の理解だけではなく、戦略の構築力、事業経験、ビジネスモデルの理解も含めて、ビジネス言語で話をする。適切なIR活動による情報開示は、適正な株価の形成、資本コストの安定性を通じて資金を調達しやすい状況をつくる。経営トップは戦略のストーリーを語る。投資家は企業を評価する。この過程で経営が進化して、経営陣と社員とのディスカッションが深まり、企業は成長していくのだと思う。いま、この循環を回していくことが極めて大事であると認識している。

 IRの目的の一つは、投資家、アナリストに私たちの取り組みを理解してもらうことにある。同時に、市場の要望を確認する場でもある。トップとともに確認した要望を社内にフィードバックし、いかに経営に反映していくか。重要なのはその部分だ。

 最後のミッションは、当然、人材育成である。大事なことは、財務専門のプロフェッショナル領域の人材だけを育成するのではなく、ビジネスパーソンを育成することだ。グローバル化の進展で、CFOの機能は多岐にわたり、今後、さらに拡大することも想定できる。CFOの機能を担う人材は、財務会計の専門知識を持った人材、戦略構築力や現場での戦略実行経験のある人材、どの領域からスタートしてもいいが、「財務・会計・税務の知識」「経営戦略の構築力」「事業、ビジネスの実行経験」、そして「コミュニケーション能力」の四つのスキルと経験を基本に置くことが必要だ。ことに、社内外でのコミュニケーション能力は極めて重要である。戦略的にストレッチをさせて人材を育てることを考えていかなければならないと思っている。必要な機会を提供し、優秀な人材を自部門の中に囲い込むことなく、修行に出す。優秀な人材が育つ企業になれば優秀な人材が入ってくる。そうした循環を回すことが大事だと思う。

 4月に初めてCFOというミッションを任されて、さまざまな先輩から話を聞いて経験をした。日々のオペレーションを進めながら、今日お話しした内容を自分の中で整理しつつ、改めて目標設定していると思う。発展途上ではあるが、経営管理者ではなく経営者だと常に認識をしていかなければならないし、革新していくリーダーでなければならないと心している。当然まだ100%はできていない。50%にも満たないと思っている。ここから、後輩たちに今の会社をさらに輝かせて渡すために、企業の成長に貢献したいと思っている。そのためにも、あるべき姿、ありたい姿をしっかり胸にとどめて実践していきたい。

 本日はご清聴ありがとうございました。

※本稿は、2014年9月3日開催の「エグゼクティブフォーラム特別号」の講演内容を編集部にてまとめたものです。

2014年10月15日

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