2017年4月17日
- パネリスト(ご氏名50音順)
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猪井 昌彦 氏
伊藤忠商事株式会社
財務部コーポレートファイナンス室長井上 隆敬 氏
パナソニックヘルスケアホールディングス
株式会社
経理部 経理企画課 主席大森 弘之 氏
コニカミノルタ株式会社
財務部部長大山 達也 氏
株式会社ファーストリテイリング
計画管理部 財務部長萬成 力 氏
株式会社ニフコ
管理本部 財務・経理部部長山中 雄司 氏
コニカミノルタ株式会社
財務部 資金管理グループリーダー
- モデレータ
-
川上 真希 氏
株式会社リコー
GCMセンター シニアマネジメント
はじめに――第二期部会の総括と第三期部会の開催に当たって
川上 グローバル財務部会の第二期をアンケートで振り返ってみますと、「非常に良い」57%、「良い」39%、「欠席」4%と、好評をもって終わらせていただきました。
「財務部会に参加してよかったこと」「第三期に期待すること」として、「もっとさまざまな人の意見を聞きたい」「もっと議論したい」という意見を多数いただくと同時に、「先進的な取組みを行う企業が集まる“村”を作るのではなく、日本企業の財務に関わる人たちの輪を広げていきたい」という興味深い意見もいただきました。
第一期では先進的グローバル企業の事例紹介を、第二期では「実行に繋げていく」をテーマに日系企業の事例紹介をさせていただきました。そして、第三期はさらに高度なテクニックに議論を進めるのではなく、いったん立ち止まって「財務とはどうあるべきか」について考えていきたいと思っています。テクニックの部分に関しては、企業間でレベル感に差があろうかと思います。非常に進んでいる企業もあれば、これからどうやって始めようかと模索している企業もあるでしょう。そういう意味でも、皆さんに満足いただけるような財務部会のテーマとして、「財務とはどうあるべきか」に立ち返って、話を進めていきたいと考えております。
第三期は4月、6月、7月に3回の部会を、9月には合宿を予定しています。第1回(4月)は「財務の価値」について、第2回(6月)は「財務人材」に関して、第3回(7月)は「多様化への対応」をテーマに部会を開催します。本日は、この3つのテーマの概要をディスカッションしていきたいと思います。
財務部門の価値と位置づけ
川上 それでは、最初に「財務の価値と位置づけ」について。日本の財務は欧米企業の財務とはまったく形態が異なると考えています。そうした中で、「財務部門をどう位置づけていくのか」「その価値をどう考えていくのか」について、まずはお集まりの皆さんのご意見を伺いたいと思います。お手元の赤と青の色紙をご確認ください。今まで、財務業務で社内表彰を受けた経験のある方は青い色紙を、ない方は赤い色紙を挙げてください――。赤が9割ほどでしょうか。青の方、どのような表彰を受けたか教えていただけますか。
―― いわゆる金融収支の削減を評価してもらいました。
川上 どの程度、削減されたのでしょうか。
―― 半減しました。
川上 ファーストリテイリングの大山さん、コメントをお願いします。
大山 素晴らしいですね。財務がきちんと評価される素晴らしい会社だと思いました。表彰されていない=評価されていないということではないと思いますが、金融機関からの融資環境が整っている日本では、資金調達は「できて当たり前」というところがあります。万年並の評価で、大きなエラーを出すと評価を下げられる。そういう感じではないでしょうか。「財務部の価値」を、皆さんと掘り下げていきたいと思っています。
川上 ありがとうございます。確かに大山さんがおっしゃる通り、財務は普段は影の存在でありやって当たり前の世界です。が、いったん事が起きれば常に財務が会社経営の最先端で外部との繫がり部分を担う。苦労が多いわりに、評価されないという非常に残念な組織です。
この組織の考え方を見直して、財務が会社の中で中心的な存在となって動けるようなトレジャリーの仕組みをつくり、規律をつくっていくことが重要だと思っています。
もう一度、アンケートさせていただきます。社内のシステム投資についてです。財務のトレジャリーマネジメントシステム(TMS)に経理のERPよりも多額の投資をしている方は青、ERPのほうが多いという方は赤を挙げてください――。95%ほどが赤ですね。青を挙げた方、コメントいただけるでしょうか。
―― 外為関係のシステムに大きな投資をしています。各取引先、支社がグローバルにありますので。
川上 大山さん、これについてはいかがでしょうか。
大山 100%赤だと思っていたので、予想外の結果です。素晴らしい。本当に経営の理解があるのだと思いました。弊社も含めて大多数の企業の財務がそうだと思うのですが、人的なリソースも含めて、なかなかERPを超えて予算をとるのは難しい。特に上場企業は四半期決算を集中的にグローバルに行う必要性から、ERPを中心とした会計システムに投資が先行されます。財務はいつまで経っても表計算ソフトという感じがほとんどだろうと思います。そんな中で財務投資が上回っているというのは本当に素晴らしい。そういう方向に会社全体が向かっていかなければならないと思います。
川上 ありがとうございます。それでは、最後の質問です。CFOの財務部門に対する関心度が経理より大きい、あるいは経営企画より大きいという方は青の札、そうでない方は赤の札を挙げてください――。ありがとうございます。先ほどとほぼ一緒で、95%ほどは赤です。青い札を挙げた方、コメントいただけますか。
―― 弊社の場合、CFOが財務のフロアに直接来ていろいろ聞いて、一人納得して帰っていくことがよくあります。個人的にはかなりプレッシャーを感じますが、関心の強さは日々感じております。
川上 大山さん、コメントをお願いします。
大山 全く素晴らしいですね。全体の構成比は予想どおりですが、まさか青の会社がいらっしゃるとは思いませんでした(笑)。
弊社の場合、CFOの財務に割く時間は経理や経営管理に及びません。それは関心がないからではなく、何も起きていなければ「任せて安心の財務」、いざ危機が起きたときに「強い財務」でありたいと考えています。突然業績が悪化したり、市場が激変したり、突然環境が変わることも起こりえます。そうした有事のときこそ真価を発揮できる体制を日ごろから作っておくことが重要だと思います。具体的には、ガバナンスでもシステムインフラでもいいので、不正やエラーが起こりにくい仕組みを日ごろから時間をかけて構築していくことが大事だと思っています。
川上 ありがとうございます。
・経理と財務の関連性
川上 ここまで財務と経理が区別されているという前提で進めてまいりましたが、日本企業の中には、経理と財務の区別がない企業も多々あります。経理と財務の在り方、関係性についてニフコの萬成さん、コメントをいただけますか。
萬成 18カ月前、私が入社したとき、当社には財務機能はありませんでした。CFOの頭の中に財務が詰まっていて、CFOの指示通りに動くことで経理の中で資金もやっている。そんな感じでした。私が入ってから、CFOの考え方の見える化を進めてきました。
「経理」の定義はアカウンティングではっきりしていますが、「財務」の定義は少し曖昧でコントローラー機能を指す場合とトレジャラー機能を指す場合があります。その三つを束ねているのがCFOでしょう。CFOや財務・経理部長が描く会社の将来像を達成するために、コントローラー機能、トレジャラー機能、アカウンティング機能がどんな役割を果たしていくかを考えていく。例えば、我々は「2020年、レーティングAプラスを目指したい」と考えて想定B/Sを作っています。想定B/Sを実現するために、トレジャラー機能は、資金をどう集中し、自己資本比率をいかに上げていくか。あるいは為替ヘッジをどうするか等を考える。アカウンティング機能は、会計処理としてどう落ちてくるのかを考える。そしてコントローラー機能は、計画を立て実行をモニタリングしていく。そうした関係性を保ち、連携しながら機能していくのではないでしょうか。
多くの会社は財務部門全体がかなり大きな組織になっておりサイロ化しているケースもあろうかと思います。幸いにも当社はまだ所帯が小さくワンフロアでやっております。できればこうした形を崩さず、しっかりと連携しながらCFOを支えていきたいと思っています。
萬成 力 氏
株式会社ニフコ 管理本部 財務・経理部部長
川上 ありがとうございました。経理・コントロール・財務の三つが連携して、初めて相乗効果が出る。必ずしも組織が分かれている必要はなく、情報がきちんと行き来し、戦略的に活かせる状態にあることが大事であると、私も考えております。
・変化する経営環境への対応
川上 経営環境の変化によって、財務部門の役割やミッションは変わってこようかと思います。変化へ対応できているか。対応できているとすれば具体的に何を実施しているのかについて、伊藤忠の猪井さん、コメントをお願いいたします。
猪井 マネジメントから求められる財務部門の機能は、自ずと変化していると思います。安定的な調達という伝統的な財務の機能から、社内でのさまざまな付加価値の提供を求められるようになってきました。
そうした財務部門に求められる価値の変遷を、財務部門が経営計画で掲げてきた目標のキーワードからたどってみると、10年前から変わらないものが二つあります。安定的な調達と、金融費用の削減です。
2000年初頭、弊社の有利子負債は5兆円から2兆円に、DERも13~14倍から4倍程度まで回復しました。財務環境が急変する中での財務部の目標のキーワードは、「最適資本・負債の構造」「有利子負債の予測精度の向上」等でした。当時は、グループ各社が財務機能を個別に保有しており、財務機能が集約化されておらず、必要なお金の予測ができず余分な借金をしておく必要がありました。そうした経緯もあって、その後、グループ金融制度を国内外で導入して、今に至っています。
その後の大きな変化は、マーケットとしてはやはりリーマン・ショックです。当時は「金融環境の激変への対応」というキーワードがありました。さらに、M&Aが大きな事業の拡大の柱になっており、また資産の入れ替え等を行ったタイミングでは、「社内のM&Aを積極的にサポートする」というキーワードがあがっています。
足元のところでは、「資金効率の向上」や「キャッシュフローの改善」につながる各種施策、金融環境を反映したところの「ドルの安定的調達」、「ドル金利上昇に伴うコスト(金融費用)の削減等」がキーワードになっています。
今後、付加価値機能としては、「金融マーケットの情報の提供」、各インダストリーの部分も含めてのさまざまな「マクロ情報の発信」、「新興国通貨のリスクマネジメント」に関する情報発信やソリューションの提供を求められると思っております。
川上 ありがとうございます。銀行から多額の融資を受けていた時代から、有利子負債の精度を高めて削減する時代となり、金融危機対応があり、現在、グローバル化に伴うキャッシュの管理が求められているというところで、時代に応じて財務の在り方を変えていらっしゃることが理解できます。猪井さん、環境変化への対応について、マネジメントと現場ニーズとの整合はどのようにとられているのでしょうか。
猪井 弊社では我々財務部門も含めて、各管理部門が経営計画を立てる際、各部署の部長が社長と膝を突き合わせて議論するというセッションがあります。1年間の目標を決めて1年後にレビューしていますので、マネジメントとの意思疎通、財務としての課題も共有されていると思っています。
猪井 昌彦 氏
伊藤忠商事株式会社 財務部コーポレートファイナンス室長
川上 ありがとうございました。
財務人材について
川上 二つ目のテーマは「財務人材」についてです。財務の業務は、金融機関の対応、テクノロジーの進化、企業のビジネス展開等内外の環境の変化に柔軟に対応していく必要があります。現時点で、日本企業にとって「グローバル対応」が大きな変化であり、「英語」「ファイナンス」の能力を持った人材の確保・育成が課題だと考えています。
M&Aが活発に行われる中、キャッシュマネジメントの面では欧米企業のほうが進んでおり、海外の人材マネジメントは課題の一つだと思っています。パナソニックヘルスケアホールディングスの井上さん、PMIのご経験を踏まえて、グローバル化に伴い工夫されていること、また今後目指していく人材育成についてコメントいただけますか。
井上 昨年まで在籍しておりましたリクルートでの話を振り返りながらコメントさせていただきます。前職では5~6年ほど企業買収のPMIに財務部門として関わり、「PMIの中で財務部門が何を実現していくのか」を考えてきました。買収した海外の子会社の中には、おっしゃる通りTreasury Managementが進んでいる会社もありますし、日本の中小企業と変わらないようなベンチャーもあります。ステージはさまざまですが、現地の方々とコミュニケーションをとり、彼らの考えを理解しつつ、全社統制プロセスにいかに組み込んでいくかが肝だと思います。
今後、目指していく人材育成についてグローバルを見据えたとき、大きく二つポイントがあります。一つ目は、現場と経営の両輪の肌感覚を持った人材の必要性です。各国の被買収会社の財務感覚を肌でリアルに感じられる人間でありつつ、全社経営のCEOやCFOが取り組んでいる事業成長に向けた課題に対して、財務として何が貢献できるのかをしっかりと考えられる――そういう人材が求められる。経営の目指すところに向けて財務がどう貢献できるかを考えていく力が必要なので、有事の際に備えた啓蒙も含めてCFOと対話し、CFOが今、何を全社課題として捉えているかを知り、意思決定に資する打ち手を財務部門から提案をしていくということが、おそらく現場を知る財務マンに求められるのではないかと思っています。
二つ目は、そうした財務パーソンをどう育成するかです。人が成長するポイントはそれほど多くはありません。成長を感じる瞬間というのがあって、特に大きな変化を乗り越えてきたとき人は短期間で成長します。私自身や私のメンバーたちもそうでした。会社が成長するときは、さまざまな未経験のチャレンジに直面します。前職のリクルートも2011年までは売上高の99%は国内でしたが、2016年には35%が海外になり、マインドセットを大きく変えなければなりませんでした。それまでやったことのないトレジャリーや海外の資金管理の先陣を誰が切るかというとき、それを未経験の人材にトライさせていくことが必要になります。「やったことはないけれどもチャレンジする」というストレッチゴールをマネジメントや上司が与えて、それに応えられるようにメンバーが切り拓いていく。それを成し遂げた後、人はもう一段上の視座を持ち、もう一歩前に進んでいけるスタンスが身につくと思っています。
スキル面で言えば、Off-JTや勉強会で知識を身につけることはできますが、大事なことは、それをどう経営意思決定につなげるかです。日本企業の財務パーソンは、CFOが課題や優先順位を頭の中でどう整理しているか、について意外と知っている人が少ないように感じます。現場を知り、経営を知る――この二つを意識していけば、日本企業の財務はもっと幅が広がるし、貢献できる余地が出てくると思います。そうした中で、買収先の海外の人材の意見も吸い上げながら、経営に新しいソリューションもあることを提言していく。その繰り返しで人は成長し、買収先の会社の人材も活きていくと感じています。
井上 隆敬 氏
パナソニックヘルスケアホールディングス株式会社 経理部 経理企画課 主席
川上 ありがとうございました。買収先の人材とコミュニケーションをする日本側の人材は、十分いらっしゃいますか。
井上 いい質問ですね。ほとんどいないのが現状だと思います。だから、先ほど申し上げたように、ある程度のストレッチが必要になると思います。そこにチャレンジしていくことが大事なことで、チャレンジを讃えるような組織文化が求められると思います。最終的には、失敗も成功もある程度織り込みながら、アクションプランを設計していくことが肝かもしれません。買収した会社でいきなり「財務ポリシーとは」という杓子定規の説明をしてもなかなか響かない。英語力の問題ではなく、経営層が財務観点で何を大切だと考えているかを自分自身の言葉でいかに語れるかが、相手の心に響き、動かす力になるのではないでしょうか。そういう人材の育成が非常に大事だと思っています。
川上 ありがとうございました。グローバル化に対応した「人材の育成」といえば、やはり商社のお話を伺いたいと思います。伊藤忠商事の猪井さん、工夫している点、苦労している点 またグローバル財務を構築していく上での人材育成についていかがでしょうか。
猪井 実はグローバルな財務人材を育てるのは難しいと感じています。グローバル企業の成長を表現するとき、ドメスティックからローカルへ、ローカルからグローバルへという3段階で表現することがありますが、おそらく弊社の財務のオペレーションは、ドメスティックからローカルに移行した段階にあります。資金調達や資金融通は、各グローバルのリージョナルではかなり効率化しています。ただし、グローバルのレベルでの効率化は今後の課題と言えます。商社の場合、有利子負債のほうがネットで多くなりますので、資金効率をどこまで上げればいいのかという問題もあります。今、流行の“見える化”することによるコストや事務負担も出てきますから、必ずしも世の中のトレンドに合わせたほうがいいというものでもありません。
そうした状況にあって、私どもの財務の人材育成の取り組みについて少し紹介させていただきます。私どもは人材育成を2段階に分けています。「財務の現場を知る」ことからスタートし、その後、「銀行取引」段階に入ります。財務に入ってきた新入社員が最初に配属されるのは、お金に直結する部署です。財務部のバックオフィスをお願いしているシェアードサービス会社に配属され、いわゆる出納や外国為替の送金受け取りといった実務に当たってもらいます。そこで数年財務取引の勉強をして、銀行と取引する部署に異動します。
財務部の人事のローテーションは実はCFO傘下の組織の中で行われることになっており、他には経理やリスクマネジメント(投資管理、クレジット管理)を含めた領域で回っています。そのため財務経験のない中堅社員が、いきなり財務へ配属されることもあります。そうした場合も、新入社員と同じようなローテーションで、まずはバックオフィスのミドルのポジションで仕事をしてもらい、そのあと銀行取引を行う部署に異動します。この経理・リスクマネジメントを含むローテーションが財務の人材の育成にとってプラスかマイナスかと問われれば、総じてプラスだと思っています。財務業務を行う上では、経理の基本的な知識やリスクマネジメントが必要ですし、私どもの人材育成の柱である「CFOの育成」という意味からも、こうしたローテーションは必要だと思っています。
先ほど、経営の目標におけるキーワードを紹介しましたが、人材育成は毎年、必ず入っています。例えば、資本構造が変わり、最適な資本構成や負債を考えるタイミングであれば、コーポレートファイナンス理論に長けた人材をいかに育成するか、グループ金融導入の段階では、金融機関との取引がしっかりできる人材を育てる必要性が生じ、そうしたキーワードが入ってきます。近年では、事業のアジア、中国へのシフトを視野に、財務人材も、アジア、中国でしっかり財務オペレーションができる人材の育成を意識しています。
川上 ありがとうございました。
多様化への対応
川上 最後のテーマ「多様化への対応」に入ります。グローバル化によって、既存の国内・輸出入を中心とした財務の仕事だけでなく、海外の子会社や銀行と直接やり取りをして業務を進めるケースが増えています。財務データの取得も、国内中心の全銀システムでは全世界はカバーできず、業務・コミュニケーションの側面で多様化への対応が必要になっています。その中でまず、資金可視化の状況について、どの程度進捗しているか、把握した現預金残高をどのように利用しているのか、また、把握するときの課題や問題点について、コニカミノルタの大森さん、コメントをお願いします。
●資金可視化の状況について
大森 資金の可視化には2つあります。1つは連結ベース、リアルタイムでの残高の把握で、2つ目は残高の予測です。当社では2年前に導入したTMS(トレジャリーマネジメントシステム)を利用して、2つの資金の可視化を図っています。1つ目の残高のリアルタイム把握は、TMSと銀行を直接つないだデータの取得が、日本、アメリカ、欧州、シンガポールを中心とするアジアではできています。ただし、中国はできておらず途上にあります。予測については、TMS とERPをつないで行います。ERPに入っている時間軸で把握された債権債務データをTMSに入れて予測しています。ただし、すべての情報がERPに入っているわけではありません。M&Aがどうなるかといった情報は、財務部長が経営企画等に行って、口コミで「何を買うのか」聞いてきます。それを手打ちでTMSに入力しています。国内に関しては、残高予測はかなり当たるようになってきました。今月末の残高が見えるようになったので、早めの資金手当ができるようになりました。
問題は海外です。欧州とアメリカでは、まだERPとTMSがつながっておらず、エクセルベースの予測をTMSに上げている状況で、これからの課題と言えます。最も遅れているのは中国です。中国に生産工場がありますから、利益が貯まって投資が少なくなると資金が貯まっていきます。これをどうやってこちらに持ってくるか非常に悩んでおり、一つの大きな課題となっています。
大森 弘之 氏
コニカミノルタ株式会社 財務部部長
川上 ありがとうございました。資金可視化の状況についてMT940の取得を進められている萬成さんの方で、ご苦労されている点などご紹介いただけるでしょうか。
萬成 我々は、2016年8月からMT940の取得を開始し、現在、海外230口座程度、85%程度が取得できています。送信いただく際の手数料ですが、無料の銀行から極端に高い銀行までさまざまです。極端に手数料が高い銀行は、手間ではありますが、MT940での送信をやめてE-Bankingから落としたデータをエクセルフォーマットで送信してもらって、こちらで取り込むことにしました。残高が見えるようになって驚いたのは、海外の各社が自国通貨以外の外国通貨をかなりの額で保有していることでした。連結PLインパクトの為替リスクですので、今後ガイドラインを設定するなどして対応していきたいと考えています。
●グローバル為替のヘッジについて
川上 見える化に伴って、為替の状況あるいは通貨の状況がよく分かるようになってきます。そうなると、今まで単体中心であった為替ヘッジから、グローバルのエクスポージャーをどうヘッジしていくのかという課題が生じてきます。日本でヘッジしていれば5通貨程度なのが、グローバルにヘッジすると20通貨、30通貨になろうかと思います。為替集中管理の程度とヘッジについて、コニカミノルタの山中さん、コメントをお願いします。
山中 先ほど上司の大森からも紹介がありましたTMSの導入をきっかけに、為替管理も一元化すべく、2016年の4月頃から本社で全世界の為替リスクをヘッジする体制に移行しています。いまだ中途のところもありますので、今は10通貨強程度、大きいところを8~9割カバーしようという発想で進めています。
従来、為替管理は、日米欧、そしてアジアを中心にそれぞれの地域拠点に預ける形になっていました。私どもでは本社の商流が極めて大きな商流です。各国の工場から買って、各国の販売会社に売るのは、すべて本社の商流に入りますし、為替取引も大部分が本社を通るので、「本社だけ見ていれば大丈夫なのではないか」という考え方もありました。しかし、懸命にドルやユーロで差損を出さないようにヘッジしていても、盲点となるようなマイナーな通貨が、例えば最近ではテーパリングの流動性などで突然、価値が下落して想定外の差損を出してしまうということもありました。その反省から、やはり全部を見なければならないと、地域会社に指示を出していったわけです。
一方で地域会社にしてみると、為替ですから判断が入ります。いつ予約を入れるかの判断はその時々によって、場所によって変わってきます。本社の経営者の判断をいかに迅速にスムーズにつなげていくかを考えたとき、「一元的に情報を本社でまとめるほうがよい」という考えに至りました。そこで、2016年からTMSを活用したエクスポ―ジャー管理とグループ間の為替の社内予約制度を使った為替の一元管理を始めたわけです。
課題としては、ERPが全世界統一でなくて、すべての情報がERPにつなげきれていないところがありますので、例えば今現在のエクスポージャーなど、見えにくいところがあり、改善していかなければならないと考えています。それが改善できると全体が見えてきますので、通貨のエクスポージャー全体をバスケットで考えて効率化するとか、流動性がない通貨や高コスト通貨なども代わりの通貨でヘッジをできるような枠組みなども考えていきたいと思っています。
山中 雄司 氏
コニカミノルタ株式会社 財務部 資金管理グループリーダー
川上 ありがとうございました。第二期のアンケートで、「為替ヘッジの対象とすべき外貨エクスポージャーについて」、92%の会社が「債権債務等の運転資本」(キャッシュフロー)と回答しました。「資産・負債等の貸借」(バランスシート)も63%ありましたが、資本(8%)や当期利益(13%)は非常に低い。ここに該当するのが、先ほど出てきた為替換算調整勘定(CTA)の部分です。グローバル化が進んでいけば、海外の子会社が増え、CTAのリスクが膨らんできます。CTAのリスクに対する考え方も含めて、井上さんいかがでしょうか。
井上 前職のリクルートでの話になりますが、海外M&Aを行って、為替が円安に動くとCTAが膨らんでいきます。買収当初に、数十億程度であったものが、数年後には数百億規模まで増えた例があり、「何を軸にヘッジの安否を判断するか」を社内でかなり議論しました。キャッシュの「実」を取りにいくのか、P/L上の利益を取りにいくのか、B/S上での資産と負債のバランスを取りにいくのか――何を取りにいくかでヘッジの在りようは変わってきます。
その時の結論は、われわれはやはり「キャッシュを重視する」というものでした。CTAがきれいになるとバランスはよくなるけれども、キャッシュアウトを伴う。ヘッジのためのコスト等を考えたとき、「それは本質的な投資ではない」ということになり、キャッシュを優先してヘッジはしませんでした。
何を優先するかは、経営の方針で大きく変わってきます。この判断をするにあたって、いろいろな会社からお話を伺いましたがご意見は実にさまざまで、経営としっかり議論するためのわれわれ自身のスタディが必要だと感じました。異なる意見もあって然るべきだと思います。
川上 子会社の通貨構成によっては、ポートフォリオヘッジのような形で、何もしなくても実はよかったということもあると思います。そうした通貨の相関性をどう見ていくか。それが、コストをかけずにCTAをヘッジする一つの観点としてあると思います。大森さんの会社では、アクティブにCTAヘッジをされていたと伺っていますが、コメントいただけますか。
大森 実はそれほどアクティブでもないのですが、CTAのヘッジに関しては社内でかなり議論しました。2003年に統合したコニカとミノルタは、どちらもかなり歴史のある会社です。創設はコニカが明治の初期で、ミノルタは昭和の初めころ。両社とも比較的早くから海外に投資しており、成熟期に入った事業は海外に投資した分を戻さなければなりません。「戻すときのレートが何か」が、CTAのヘッジになります。当社の場合は、情報機器、いわゆるオフィスの普通の事務機はほぼ成熟期に入ったということで、海外にある資金を戻して新しい分野に投資していくという考え方の下で、「レートのいいときにヘッジを入れる」判断をしました。そこが一つです。
もう一つは、海外投資が多いので為替によって自己資本が大きく変動します。震災のときの円高と、その後のアベノミクスの円安で比較すると、自己資本の約13%がCTAという動きに変わってきています。そうすると自己資本比率が3~4%変わってしまい、格付けにも影響します。
そうした2つの観点でCTAのヘッジを実施していこうということで、今はユーロについては半分以上、ドルに関してはまだ数%ですがヘッジを行っています。人民元も結構多いのですが、中国の投資はかなり古く1人民元13~14円の頃に投資しています。今は1人民元15~16円ですから、ここはまだヘッジせず、今のうちにできるだけ配当させるように動いています。
川上 ありがとうございました。
川上 真希 氏
株式会社リコー GCMセンター シニアマネジメント
おわりに――第三期に向けて
川上 最後に、第三期に向けて、アドバイザリーの皆さんから抱負と取り組み内容についてご説明いただきます。
猪井 一期、二期、三期をキーワードで言うと、一期、二期は受動型で、第三期は能動型であろうと思っています。一期、二期は基本的には座長の伊藤さんを中心にCFO協会の方々などに企画を立てていただき、それに伴うプレゼンテーションを我々アドバイザリーが行っていました。三期では自分たちでテーマを考えていく。冒頭で紹介されたアンケートにあった通り、 「“村”ではなく“輪”」を創っていくことで、より一層の財務の方々の悩みや課題の共有が図られ、課題のヒント、ソリューションによりつながりやすくなると思います。
グローバル財務部会では、横同士の課題交流がかなり深く頻繁に行われますので、自社の財務部のベンチマークがしっかりできます。私がこの会に参加して気づいたのは、その会社にとっての最適な財務部の姿は、決して理想形があるわけでも、教科書に書いてあるものでもなく、それぞれの会社によって異なる、ということでした。また、参加者の中にも「コンサルタントや銀行といったプロフェッショナルの方々からは、『これが最適なもの。これが最新のもの。これがいいのです』と勧められますが、それが必ずしもその会社にとって最適とは限らないと改めて実感しました」と、おっしゃる方もいらっしゃいました。制限時速30キロの道路にスーパーカーは必要ありません。「スーパーカーよりもハイブリッドな国産車のほうがいい」ことがあることを直に感じられるのも、この部会ならではです。
第三期からは合宿形式を予定しており、議論や親交がより深まると思います。ぜひご参加いただければと思います。ありがとうございました。
井上 私からは2点お伝えしたいと思います。1点目は個人的な感想にもなります。私がこうした課題に取り組んでいた2013年頃、このような場はありませんでした。いろいろな会社の事例を知りたいと思ったとき、個人的に懇意にさせていただいている先にお話を伺いにいったり、銀行の紹介で話を聞いたり、非常に苦労した記憶があります。それが今はこうした場に出ることで、あっという間に5社、10社の人の話を聞くことができます。「こうした場があれば、あのような苦労はしなくてすんだ。とても良い時代になった」と感じています。
2点目は、こうした場があるのは非常にありがたいことだけれども、忘れてはいけない重要なポイントは「ヒントは社外に、答えは社内にある」ということです。社外にあるのは、あくまで答えを得るためのヒントに過ぎません。この点を肝に銘じた上でこの場を活かしていただきたい。猪井さんも仰っていたように、各社各様のソリューションがあります。他社を真似しても、それが自社にフィットするとは限らない。部会には答えを得るヒントはたくさんあります。それを自社に持ち帰って議論して、初めて実のあるものになります。そこをうまく活かして社内の課題解決につなげていただきたいと思います。
私も非常に楽しみにしておりますので、皆さんのご参加をお待ちしております。ありがとうございました。
大森 私もこの会に参加して、財務に携わっている方たちとコミュニケーションできたことが本当によかったと思っていますし、第三期についても大いに期待しています。今、世界はすさまじい勢いで変わっています。多くの予想に反してトランプ大統領が選ばれたり、AIや仮想通貨が発達したり――。では仮想通貨に対して、われわれはどう向き合えばいいのか。そうしたことを財務の視点を持っている方々から伺いたいと思っていますし、私自身も意見を発信できればと思っています。
大山 このパネルの冒頭のテーマにあったように、第三期は「財務の価値」にもう一度立ち返ります。「平時は経理、有事の財務」というお話もさせていただきましたが、有事こそ真価が問われて本領を発揮する財務、CEOやCFOから見て「任せて安心の財務」のための基盤整備として、ルールやガバナンスといった仕組みの重要性を私自身も再確認できました。そのあたりの弊社の取り組みについても第三期にはお話していきたいと思っています。
さらに、本日の基調講演のお話から、骨太の理念の重要性を大いにインスパイアされました。弊社は約3年、可視化に取り組んできましたが、若干、今踊り場にいるような感じになっています。そこで改めて、もう一度原点である「やりたいことは何か」に立ち返り、「目指す姿」に立ち返る。TMSの導入の仕方や苦労話をお伝えすると同時に、原点に立ち返って、皆さんと悩みを共有しながら、一緒に課題解決に繋げていくようなものにできればと考えています。やりたいこと、目指す姿は、3年前も今も変わっていません。本日、私自身、今一度そこに立ち返って、やっていこうという気持ちが湧いてきました。そういうことを皆さんに感じ取っていただけるような会にしていきたいと思っています。
萬成 日本でも「やっとできるようになった」という感慨でいっぱいです。2000年にCFO協会を谷口さんが立ち上げたとき、日本にはこうしたものは影も形もありませんでした。アメリカでは、当時から毎年5,000人規模でAFPのカンファレンスが開催されていました。谷口さんと一緒にアメリカのカンファレンスに参加しながら、「日本でもやりたいですね」と話していたことが、今実現されつつあります。今年(2017年)もアメリカでカンファレンスが開かれます。ぜひとも有志の方、一緒に参りましょう。そして、「日本の財務ここにあり」ということを発信いたしましょう。本日はありがとうございました。
山中 自己評価すると、やはり財務は地味なセクションではあるけれども、キャッシュ直結ということで経営層から期待されるアウトプットは大きいと思います。私たちも日々のオペレーションに追われる中で、頭の中ではいろいろな思いがよぎります。しかし、そこから一歩前に進むトリガーや、やってみようと思ったときに背中を押してくれる枠組みのようなものがなかなかありません。今日も上司の大森と同席しておりますが、大森がこちらでいただいた情報などを我々の中に啓蒙して教育してもらうことで、進めてくることができたという経験もございます。自分たちの事例ももちろんお話しさせていただきながら、参加してくださる皆さんとも活発に議論を進めさせていただいて、ここから好事例を発信できればいいなと思っています。ぜひご参加ください。
川上 皆さん、ありがとうございました。財務運営の中にはさまざまな困難な点もあります。そうした中でできることをやっていくだけでなく、今できなくても「あるべき姿」を実現するためにチャレンジし続けることが重要だと思っています。今日のお話も、必ずしも成功談ばかりではありません。トライ&エラーを繰り返して、失敗を成功に結びつけていると考えています。グローバル財務を日本で展開していくには、「失敗してもあきらめない」という気概が必要です。今まで個社で悩んでいたこと、あるいはノウハウが、この部会を通じて共有できたり相談できたりすることで、おそらく化学反応が起きてきます。単にノウハウが移譲されるだけでなく、よりよいものに進化していくことが期待されていると思います。まさにその部分を、第三期部会ではさらに期待していきたいと思っています。
なるべく多くの方にご参加いただいて、今後のグローバル財務の発展のカギとなるような議論を尽くす場にしていくことで、固定観念に縛られることなく、欧米企業にはない新たな日本企業の財務の価値をつくり出し、日本の財務の発展に寄与していきたいと考えています。皆さんのご参加をお待ちしております。本日は誠にありがとうございました。
※本稿は、2017年3月3日開催の「グローバル財務部会拡大会 TREASURY NIGHT!!」の講演内容を編集部にてまとめたものです。
2017年4月17日