2014年9月16日
売掛金・受取手形と売掛債権回転期間の見方
末松 義章
千葉商科大学大学院
客員教授 博士
売掛金と受取手形の見方
回転期間の長さや変化をみることで企業の実態が把握できる
売掛金回転期間とは
売掛金が何ヵ月で回収されているかをみるのは、資金繰りの状態を把握するポイントになる。売掛金の残高は、売上高の大きさに比例するので、売掛金を平均月商(売上高/12ヵ月)で割って、売掛金の平均的な回収期間(月数で表示)を算出する。
売掛金回転期間=売掛金÷平均月商
売掛金の回収期間は短いほどよく、短ければ資金繰りも楽になる。通常は1.5ヵ月以内とされるが、これが長期であったり、前期と比べて長期化している場合には、次のような原因が考えられる(ただし、回収期間は業界によって違いがあるので注意が必要である)。
①不良債権の発生
②押込販売
③商品代金以外の長期の債権の存在
④粉飾
受取手形回転期間とは
売掛金の回転期間と同様に、ここでは受取手形の期間(サイト)は何ヵ月になっているのかをみていく。受取手形回転期間は、受取手形の平均サイトを月数で表示するものである。
受取手形回転期間=受取手形÷平均月商
手形の振出日から支払日までのサイトが短ければ、それだけ早く資金化できる。したがって、手形サイトは短いほうがよいと言える(ただし、売掛金と同様に、業界によってサイトには相違がある)。
この回転期間が長期であったり、前期に比べて長期化している場合には、次のような可能性を疑ってみるべきである。
①不渡手形や手形ジャンプの発生(注1)
②融通手形の存在(注2)
③回収条件の悪化
④粉飾
(注1)手形ジャンプとは、手形期日に債務者が現金不足のため、現金支払ができないときに、債権者の同意を得て、手形の支払期日を延長することをいう。
(注2)融通手形とは、営業取引ではなく、資金調達のために、手形を互いに発行した場合をいう。
なお、前回の図3であげた(株)Mの売掛債権の回転期間を図2に示した。回収サイトが長期化しており、資金繰りが悪化しているのがわかる。
売掛債権回転期間の見方
売掛金・受取手形をあわせて商品納入から現金化までの回転期間を比較
資産の肥大化
企業の資産の大きさは、売上高と密接な関係にある。企業の目的とは、経営に投下した資産を活用して、より多くの売上げ(利益)を求めることである。売上げに対して資産が肥大化していれば、効率が悪くなり、資産のどこかに問題があることになる。
そこで、資産が平均月商の何ヵ月分かをみて、資産の大きさの妥当性をチェックする。この方法を回転期間分析という。
回転期間=資産(または負債)÷平均月商(または平均売上原価または平均仕入高)
売掛債権回転期間とは
資産の肥大化の最大の原因として、売掛債権の増大が考えられる。ここでは、前項で述べた売掛金と受取手形などを合算した売掛債権として説明する。
商売で取引先に商品を納入すると売掛金が計上されるが、しばらく経つと、それが手形に変わる場合がある。手形で回収すると、そこから受取手形という勘定になる。この受取手形が最終的には取り立てられて「手形落ち」、すなわち現金に変わるわけである。
そこで、商品を納入した時から手形が落ちるまでに平均で何ヵ月かかるかを、売掛債権回転期間でみていく。
売掛債権回転期間=売掛債権÷平均月商
(注)売掛債権=元掛金+受取手形+割引手形+裏書譲渡手形(-前受金)
同業者同士による比較
図3は、建材販売業を営むA社と同業者であるB社との、売掛債権回転期間の比較である。
A社はあくまでも平均値だが、商品を納入してから手形を回収するまでに1.58月、手形になってから現金になるまでは4.45月それぞれかかっている。つまり、商品の納入から手形が落ちるまで(現金に変わるまで)の平均期間(=売掛債権回転期間)が6.03月かかることになる。常識的な指標からみても、この6.03月は長いといえる。
一方B社では、売掛金の期間が1.47月で、手形の期間が2.95月、合計で4.42月であるから、A社とB社の差は1.61月となる。A社のほうが、商品を売ってから現金になるのに、1.61月だけ時間がかかっているわけである。さらに、内訳をB社と比較してみると、売掛金の期間より手形の期間が長くなっている。ここに、A社の大きな問題がある。
■参考文献
金児昭監修・末松義章著『びっくりするほど経営分析がよくわかる本』(一般社団法人 金融財政事情研究会、2013)
末松義章著『倒産・粉飾を見分ける財務分析のしかた 第4版』(中央経済社、2011)
2014年9月16日