2024年12月16日
財務マネジメント・サーベイ
経営管理(FP&A)機能強化の現状
Ridgelinez株式会社
はじめに
昨今の環境変化に対応するために、企業には経営管理領域の変革がより一層求められているが、必要性を感じつつも、旧態依然とした制度・仕組みからの脱却が困難、ステークホルダー間の手間のかかる利害調整、強いリーダーシップを発揮して推進するリーダー人材の不足等の理由で着手できていない企業も多いと思われる。
特に、近年注目を浴びているFP&A人材を集約した組織や経営管理人材の育成は、中長期での取り組みになるため、関心はあるもののスタートできていない企業が多いとみられる。
企業経営を取り巻く環境の複雑性が増す中で、現時点における日本企業の経営管理の状況を把握するという目的で、2024年8月に一般社団法人日本CFO協会とともに経営管理(FP&A)機能強化の現状に関するアンケート調査を行った。
本調査を通じて、日本企業における経営管理高度化に向けた取り組みを分析・考察し、今後の推進についての示唆を提供する。
サーベイの全体像
本サーベイは、主に2つの領域に分けて実施した。
1. 各企業における経営管理強化の着手状況を確認(図1①を参照)
2. 経営管理の各構成要素に対する成熟度(各要素が経営に果たしている貢献度合い)を確認(図1②を参照)
上記を組み合わせて、取り組みに着手し成果に結びつけられている企業の特徴や、未着手あるいは成果創出に至っていない企業との違いを分析し、今後取り組む企業への示唆を導出する。
図1●サーベイの全体像
経営管理高度化に向けた取り組みの着手状況
経営管理機能強化の必要性を9割以上が感じているが、実行しているのは3割にとどまり、7割の企業は計画中、もしくは未着手の状況である(図2)。
生成AIや経営管理SaaSといった経営管理のデジタル化やPBR1倍割れ問題への対処等、経営管理を取り巻く環境が変わっているにもかかわらず、多くの企業がまだ取り組みをスタートできていないことがわかった。
図2●経営管理高度化に向けた取り組みの着手状況
取り組みに着手できていない企業が抱える課題
なぜ、多くの企業は取り組みに着手できていないのだろうか。
「未着手」の企業に対してその理由を尋ねたところ、「部門をまたいで取り組みをリードできる人材が不足」が34%を占めた(図3)。
企業全体を見渡して解決すべきことを明確に理解した上で、自らが主体となってリードできる人材による推進が、成功に導く鍵であると重要視していることがわかる。
次に続くのが、「取り組みの優先順位や全体計画が描ききれない」で、33%の回答となった。
日々の業務に忙殺され、データ基盤、組織・人材等の多岐にわたり複雑に関連し合う取り組みテーマを、自社・自部門だけで完結して企画構想できないことが推察できる。
図3●取り組みに着手できていない企業が抱える課題
着手できている企業の取り組み領域
次に、取り組みに着手できている企業の回答結果を取りまとめる。
まず、「経営管理システム・データ基盤の整備」「業務プロセス効率化」「経営状況可視化ダッシュボード構築」といったデータ・プロセスの領域への取り組みがそれぞれ6割を占めた。
「バケツリレー解消」という言葉に代表されるように、集計業務の効率化を目指し、データ整備とその可視化、業務プロセス効率化から進めている企業が多いことがわかった。
次いで、「経営管理組織・人材の機能強化」「計画策定プロセスの変更」「予測情報を活用した意思決定スタイルへの変革」といった制度面、組織・人材面の取り組みも4割を超えている(図4)。
一部の企業では、組織・人材や計画策定プロセス、予測型の経営スタイルへの変革など、経営管理のあり方自体の変革にまで取り組んでいることが推察できる。
図4●着手できている企業の取り組み領域
取り組みに着手できている企業の成果創出状況
では、取り組みに着手できている企業は、実際に成果を創出していると感じているのだろうか。
取り組み中の企業のうち3割強の企業は成果が表れていると回答している一方で、6割強の企業は成果まで辿り着けていない、一部の部門にとどまっているという回答となった。着手している企業が回答結果全体の3割であり(図2)、その中で一部でも成果を体感しているのはその6割(全体の2割程度)という結果となった(図5)。
経営管理強化の取り組みは、成果創出に時間がかかり、一旦着手したとしても“変革の火”を維持し続け、継続して成果に結びつけることが難しいテーマである。例えば、システムを導入したものの、環境変化による新たな要件が反映できず、そのまま放置・使われないといったケースが散見され、向かうべきゴールの再確認や従業員へのモチベーションアップの仕掛けといった点も考慮が必要となる。
図5●取り組みに着手できている企業の成果創出状況
経営管理各テーマの成熟度の状況
経営管理を構成する「制度(ルール)」「プロセス」「データ」「組織」「人材」の5つの要素における整備度合いを成熟度レベルとし、回答企業を5段階で評価し、それぞれの状況について詳細に分析を進めていくこととする(図6)。
レベル評価は、本サーベイの調査項目である「単年度計画策定・展開」「月次等での実績・予実・予測」「見通し(予測)の活用」「実績集計・予測作成プロセス」「データ活用・分析」「経営管理組織」「経営管理人材(FP&A)の育成・配置」の現状における回答結果から判定している。
図6●成熟度レベル定義
上記の定義による経営管理構成要素別に、成熟度レベルの構成比を出した結果を見る(図7)。
「実績/予実」「データ」において、レベル3に属する企業(過去情報を基にした分析が行えるレベル)の割合が35%以上と高い結果となった。企業にとってデータに基づく予実分析の重要性が高く、まずはモニタリング領域から着手していることがわかる。
次に続くのが「単年度計画」で、レベル2に属する企業(最低限の基礎レベルの企業)の割合も高い結果となった。これは、経営管理の本丸である予算策定を企業戦略や事業戦略と整合させ、事業特性に応じて進捗を追える単位の管理を目指した表れだと思われる。
また、「予測」については、各種ツールにより需要予測等の個別の予測には着手されるものの、事業管理・経営管理領域ではまだ予実中心が多いこと、プロセスは単年度予算、実績/予実を中心に整備が進みつつあるが、まだ、Excelでの管理から脱却できないことがうかがえる。
一方で、「資本効率性」や「組織」「人材」はレベル1に属する企業(未着手/着手を開始したレベル)が多い結果となった。
「資本効率性」は、主体であるPLベースの管理からBS/CF管理への移行に伴う困惑が感じ取られ、また、「組織」「人材」は、効果発現まで中長期的に時間を要する取り組みであること、他の要素との関連性が強いことから整備状況に影響が生じており、レベルが上がりきれていないと見受けられる。
また、全体で見ると、レベル1、2に属する企業(未着手/着手を開始/最低限の基礎レベルの企業)が76%を占めており、取り組み推進中で成果が顕在化していない企業が各要素のレベルアップを実現するために試行錯誤を繰り返しながら推進していることが見て取れる。
図7●構成要素別の成熟度レベル分類の構成比
経営管理成熟度と成果創出のマップ
さらに、上記の成熟度レベル(全体)と成果創出度を組み合わせて傾向を分析すると、大きく4つのグループに区分できる。
●リーダー:成熟度レベルが高く成果も出ている企業(全体の3%)
●チャレンジャー:一定の領域で成果は出つつあり、成熟度レベル向上を目指す企業(同14%)
●取り組み開始:経営管理基盤の整備から取り組み、成熟度レベル向上を本格化させている企業(同12%)
●取り組み準備:現状維持、必要性を感じていても取り組みを開始できていない企業(同71%)
この4つのグループは、経営管理強化を行い成果を出していく点では相違はないが、所属するグループに応じて目指すべきゴール、取り組むべき内容は異なってくると推察される(図8)。
図8●「成果と成熟度レベルの関係性」を基にしたグルーピングの定義と割合
リーダー企業の特徴
成熟度レベルが高く成果も出ているリーダー企業の特徴として、特に、経営管理機能の業務範囲の広さ、高度化取り組み領域での重点テーマの取捨選択という点で、他企業との違いが見られた。
業務範囲
リーダー企業の経営管理機能では、予実分析にとどまらず、「予測活用」「事業評価」「販売価格設定」等、ビジネスパートナーとして事業の意思決定に関与すべき役割が広範囲に定義されている結果となった(図9)。
リーダー企業では、モニタリングだけでなく、製品・サービス別の業績管理やプライシング等の事業活動に直結する業務に加え、計画策定や日々の業務上の実行支援まで関与し、事業の意思決定を支援している。また、事業評価に基づく事業ポートフォリオ管理などの全社的な意思決定への関与も見受けられ、事業責任者および経営者の双方のビジネスパートナーとして位置付けられていることがわかる。
図9●経営管理機能に含まれる業務範囲比較(リーダー企業vs他企業)
取り組み領域
次に、取り組み領域を調査すると、「業務プロセス効率化」「計画策定プロセスの変更」「予測情報を活用した意思決定スタイルへの変革」の割合が高いが、「経営管理システム・データ基盤の整備」「管理指標(KPI)の定義」の割合が低いという結果となった(図10)。
リーダー企業は、KPIの定義やデータ・システムの領域に加え、人材・組織などの中期的に時間のかかる領域にも着手しているとともに、予測情報の活用による意思決定スタイルへの変革といった、より高度化を目指した制度面のアップデートも行っていることがわかる。
図10●経営管理機能強化の取り組み領域比較(リーダー企業vs他企業)
これから取り組みに着手する企業が乗り越えるべきハードル
これから取り組みに着手する企業(チャレンジャー、取り組み開始、取り組み準備)が乗り越えるべきハードルはどのようなものなのだろうか。
以下に、構成要素別の成熟度レベル分類の構成比(図7)が、
・高いと評価された「単年度計画」と「実績/予実」「データ」
・低いと評価された「組織」「人材」「予測」「資本効率性」
の各要素について、リーダー企業と比較を行い、考察する。
〈成熟度レベルが高いと評価された要素に対する分析〉
「単年度計画」の乗り越えるべきハードル
「分析に必要となるデータの可視化が不十分」「明確な数値根拠による施策検討の未実施」「事業状況の理解による事業特性に応じた管理単位、ドライバーの未設定」「全社方針・事業戦略と中期計画、単年度予算の不整合」で大きな差がある結果となった(図11)。
根拠ある計画策定にあたっては、事業特性や戦略に基づき売上・利益等の計画の根拠を示す管理単位(切り口)やドライバーを定義することが重要となるが、このような数字に基づいた管理を行う前提が十分に整備されていないことがわかった。
図11●「単年度計画」の乗り越えるべきハードル(これから着手する企業vsリーダー企業)
「実績/予実」の乗り越えるべきハードル
「策定数値の根拠が不明確」「管理会計ルール・ロジックの未統一」「本社と事業のコミュニケーションギャップを解消するプロセスが未確立」の項目に大きな差があった(図12)。
戦略を数値化するためのルールやプロセスの未整備が、モニタリングすべき項目の不明確さを招き、事業側とのコミュニケーションギャップが生じる状況に陥っていることがわかる。
図12●「実績/予実」の乗り越えるべきハードル(これから着手する企業vsリーダー企業)
「データ」活用の乗り越えるべきハードル
「計画値の粒度で実績・予測データの紐づけ不能」「分析結果を出すのに時間がかかり、古くなった情報による報告」「分析のためのツール/システムが未整備」に大きな差がある結果となった(図13)。
リーダー企業と比較すると、まずは計画と実績が対比でき、鮮度の高い状態でレポーティングできる環境を整備することが第一ステップだと捉えることができる。そのためにも、現状の取り組み状況を再検証し、必要に応じて進め方を見直していくこと等、柔軟な対応が求められると推察できる。
図13●「データ」活用の乗り越えるべきハードル(これから着手する企業vsリーダー企業)
〈成熟度レベルが低く評価された要素に対する分析〉
「組織」「人材」面の乗り越えるべきハードル
「経営管理人材の役割が不明確」「管理会計ルール・ロジックの未統一」「事業側へ入り込めていないことにより事業理解が不十分」の差が大きい結果となった(図14)。
業務範囲に応じた役割分担が曖昧であり、組織の壁を解消できていないこと、また、数値を武器に経営と事業間で有効に対話できていない可能性があるとうかがえる。
図14●「組織」「人材」面の乗り越えるべきハードル(これから着手する企業vsリーダー企業)
「予測」の乗り越えるべきハードル
「予測による意思決定手法が未確立」「予測をベースにした経営管理に対するマネジメント層のマインド変革」「予測精度にこだわる結果、アクション検討の議論まで未到達」の項目で大きな差があった(図15)。
予測数値の算出そのものよりも、その予測数値をどう使うか、具体的には予測という“不確かな数値”をマネジメント層にどう説明し、意思決定に結びつけるか、というマネジメント手法の変革がハードルとなっていることがわかる。
図15●「予測」の乗り越えるべきハードル(これから着手する企業vsリーダー企業)
「資本効率性」の乗り越えるべきハードル
「プロジェクト推進部門の推進力不足」「事業部門の抵抗」の2つで大きな開きがあった(図16)。
ROIC目標に対するKPIまで連動して管理するケースなど、大量のデータ/分析を事業側とともに推進していくことになるが、推進部門のナレッジ(業務+テクノロジー)の不足で、事業部門側での納得感の醸成が得られていない結果だと推察できる。
図16●「資本効率性」の乗り越えるべきハードル(これから着手する企業vsリーダー企業)
まとめ
これまで分析・考察した「これから着手する企業が乗り越えるべきハードル」を、経営管理の基本的なサイクルである「単年度計画、実績/予実」と、高度な管理手法として昨今注目を集めている「予測、資本効率性」で総括すると、以下のように取りまとめることができる。
[単年度計画、実績/予実]
「管理会計ルール・ロジックの未統一」「明確な数値根拠による施策検討の未実施」「事業状況の理解による事業特性に応じた管理単位、ドライバーの未設定」が、主要なハードルとして挙げられている。この本質は、自社の経営・事業戦略に整合した形で、どのように経営管理を行っていくかという前提の不明確さ・曖昧さにより、「制度」「プロセス」「データ」「組織」「人材」の経営管理を構成する5つの要素を個別に、また、関連付けて整備していく上で、目指すべき姿が描けないという点が根本原因と推察できる。その結果、システム導入や人材育成等の取り組みを個別に推進するものの、成果にまで至らないケースがよく見られる。
また、管理会計ルールや管理単位・ドライバーが整理されていないことで、何を見てどのような分析・示唆を提供していけばよいのかが曖昧になり、複雑なデータ収集や使われない資料作成にリソースを多く消費し、本来行うべき分析や示唆提供が行えていない状況と察することができる。
さらに、人材面では、経営管理人材に求められる役割が明確に定義できないことにもつながり、結果として数字をまとめて報告するだけ、という旧態依然のやり方が踏襲されてしまい、行動変容につながっていないと推察できる。
[予測、資本効率性]
乗り越えるべき主要なハードルとして、「予測による意思決定手法が未確立」「プロジェクト推進部門の推進力不足」等が挙げられているが、予測や資本効率性の取り組みは、経営管理の基本的なPDCAが確立されている前提で管理指標(ROIC等)やマネジメントのあり方(過去に捉われず将来を見据えた意思決定等)を変える取り組みであり、これから着手する企業は、まず前述の計画・実績/予実のサイクルを確立することが求められる。
ここで、リーダー企業の特徴に立ち戻ってみると、リーダー企業は、特に以下の点を考慮した取り組みを実施することで、成果創出実現に向けて有効な道筋を描いた動きをしている。
●経営管理の根幹となる意思決定プロセスの変革に高い視座から入り込み、自社のやるべきことを明確にする取り組みを実施
●その結果、売上や利益といった数字だけのモニタリングにとどまらず、事業特性を踏まえたドライバーや管理指標の設定、データによる可視化を通して、事業とファクトに基づく建設的な対話を実施
●経営管理組織として、事業の意思決定に貢献するという役割定義を行い、レポートライン設計や人材育成を行うとともに、適正なリソースを配置
上記を踏まえ、これから着手する企業は、今後どのように取り組みを進めていけばよいのだろうか。
大きく2つのポイントに留意して取り組みを推進していくことが必要である。
①まず、自社の経営・事業戦略に合わせて、何をどのような切り口で経営・事業の意思決定を行うかを整理すること
②5つの経営管理構成要素の施策に関するロードマップを策定し、有機的に結合させた上で計画的に推進していくこと
このポイントを踏まえて取り組みを推進することが、より効率的に成果創出を実現する近道になる。
各企業が今後、経営管理高度化の取り組みを加速して推進していくためにも、本記事がその一助となれば幸いである。
[調査の概要]
テーマ:経営管理(FP&A)機能強化の現状
調査対象:日本CFO協会の法人・個人会員、オンラインメールマガジン等に登録のある方
調査期間:2024年7月26日~8月20日
調査実施:一般社団法人日本CFO協会
調査協力:Ridgelinez株式会社
質問:全部で25問
・回答者所属企業の属性(業種、売上規模)
・回答者の属性(所属部署、役職)
・経営管理(FP&A)機能強化への着手状況
・利益計画(中期計画や単年度予算)、予算管理、資本効率性指標の導入状況
・プロセス、データ活用、システム利用について
・経営管理組織・人材育成について
有効回答数:255サンプル
[回答者のプロファイル]
業種:製造業34%、情報通信業22%、卸売業・小売業13%、サービス業(他に分類されないもの)11%、運輸業・郵便業3%、建設業3%、不動産業・物品賃貸業3%、学術研究・専門・技術サービス業3%、電気・ガス・熱供給・水道業2%、教育・学習支援業2%、金融業・保険業2%、医療・福祉2%売上規模:1兆円以上14%、5000億~1兆円7%、1000億~5000億円16%、~1000億円63%
役職:会長・社長・CEO2%、CFO・財務担当役員7%、本部長・役員6%、部長・局長・室長23%、課長25%、係長14%、一般社員20%、その他3%
2024年12月16日