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2015年1月15日 

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鈴木 吉宣

オムロン株式会社 代表取締役副社長CFO

センシング&コントロールを柱に

 オムロンは1933年立石電機製作所として創業、1970年代からアメリカを中心に積極的な海外展開を図ってきた。売上高海外比率は、1990年度の16%が、2013年度には海外55%と急伸している(売上高1990年度4,162億円→2013年度7,730億円)。「センシング&コントロール」をコア技術とし、生産現場の制御機器、FA機器、お客様の商品に搭載される電子部品やモジュール、交通信号や駅関連の移動化などの社会インフラ事業から、健康機器の体温計や血圧計といったコンシューマ機器まで、幅広い領域に展開し、社会のニーズを解決する技術、製品・サービスを提供している。売上構成は、制御機器事業(約38%)、電子部品事業(13%)、車載事業(16%)、自動改札機や券売機などの社会システム事業(11%)、ヘルスケア事業(11%)、環境などその他揺籃期の事業(10%)となっている。社会システム事業は100%近くが国内事業であるため、他の事業は実質6割~8割が海外事業となっている。中国に本格参入した1975年以降は中華圏が急伸し、2000年頃に第二波の積極投資を進めてきた。2013年度の中国での売上比率は18%を占め、海外のトップエリアとなっている。

 2013年度の売上は7,730億円、営業利益681億円で営業利益率は約8%。2014年度は売上8,350億円、営業利益840億円を見込んでおり、営業利益率は小さな夢であった10%超えの10.1%を達成する見通しとなっている。

 20年以上前から経営の目標値に設定しているROE(株主資本利益率)は11.6%(2013年度)。事業セグメント別の売上高・営業利益率も、全事業が業界レベル以上の成長・収益性を有した強固なポートフォリオを目指すべく内外にその数字を開示している。よい数字が出ると、お取引先から値下げ要請のご連絡をいただくこともしばしばあるなど、開示するが故の課題もあるが、投資家とのコミュニケーションを図り、われわれの考え方を説明し、それぞれの事業をより良いものにしていくために、今後も続けていきたいと考えている。

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経営指標の考え方

 株主資本比率は65.8%(2013年度)、実質無借金経営で、財務の健全性は極めて高いと考えている。しかし、健全ではあるが故の課題もあり、「株主資本比率が高すぎる」「もっと積極的に成長投資をすべき」といったご意見を頂戴する。格付けを見てみると「A」(S&P)と「AA-」(R&I)をいただき、緊急時に資金調達できるラインをキープしている。

 2020年度までの長期ビジョンでは、定量的ゴールとして売上高1兆円以上と営業利益率15%以上を掲げている。収益性の指標は外部に対するコミットメントと位置づけ、売上総利益率、営業利益率、ROIC(投下資本利益率)、ROE(株主資本利益率)、EPS(一株当たり利益)の5項目を公開。2016年度までの中期経営目標を2020年度の長期ビジョンの1つのマイルストーンとして、売上高(9000億円以上)、売上総利益率(40%以上)、営業利益率(10%以上)、ROIC(13%前後)、ROE(13%前後)、EPS(290億円前後)に設定している。2014年度見通しは、売上高8,350億円、営業利益840億円であり、着実に中期目標数値に近づいている。ただし、中期目標はあくまでマイルストーンであり、数字の達成よりも長期目標達成のための経営インフラづくりを主眼に置いている。2020年度目標に向けて、必要なハードルを再設定しながら進めていきたい。

利益配分の考え方

 利益配分に関しては、「企業価値の長期的最大化」に向けた成長投資を第一優先とし公表している。投資家の方々にも「オムロンは成長余力がある」「オムロンを長期的に見てほしい」「こういった長期的な政策を進めていく」ことを懸命に訴えながら、中長期経営のコミュニケーションを大切にしている。配当については、2014年度当初に「2016年度末までに配当性向を30%に引き上げ」と発表し、現在の25%以上から5%の引き上げを約束している。また、安定配当のための最低ラインとしては、DOE(株主資本配当率)2%を目標としている。長期にわたる余剰資金の発生が見込まれるときは「機動的な自己株消却」で還元することを伝えており、2014年10月にも自己株消却を進めている。

さらなる企業力アップのために

 オムロンの企業力を高めるために、再度グローバル社会の中で新しい経営基盤構築の必要性を再認識している。今後の拡大市場は、国内ではなく海外にある。現状のオムロンの経営スタイルでは、海外の市場変化にタイムリーに対応できないのではないか、日本人主体のグローバル経営には限界があるのではないか、という問題意識から、さまざまな面を見直し、できるところから変えていこうとしている最中である。

 日本(人)は単一国。言語の限界、文化、宗教、種族の独自性から、その運営の限界を感じている。「限界だ」とあきらめてはならないが、今までのように日本人駐在員が主体となってグローバル経営を進めていくのではなく、現地での人財資源の活用の加速を考えている。グループ経営もインターナショナルからマルチナショナルへの企業転換を図っていく。それが大きな課題となっている。

 そうした中で、ガバナンス力、経営力、現場力、財務力、そして一番大事な人財力を、オムロンらしく経営理念の下で高め、再構築していくための取り組みを進めている。

ガバナンス力

 ガバナンスについては、2007年度から、複数名の社外取締役に就任していただいている。現在、取締役会を構成する取締役7名のうち、2名は社外取締役、内部取締役は5名となっている。内部取締役のうち2名(取締役会議長+1名)は執行の兼務がない取締役、3名(CEO〔社長〕、CFO、CSO〔戦略〕)が執行兼務の取締役である。社外取締役も含めると執行非兼務と執行兼務の比率は4対3で、非執行兼務がマジョリティであるところでガバナンス体制を維持している。

 また、取締役会の下に、社長指名諮問委員会、報酬諮問委員会、人事諮問委員会、コーポレート・ガバナンス委員会を設けている。コーポレート・ガバナンス委員会は、社外取締役・社外監査役を中心に議論を進めている。報酬諮問委員会では、取締役については会長が、執行役員については社長が評価した報酬体系・総額・分配をこの諮問委員会に諮っている。社長指名諮問委員会は、社長の選任に特化して次期社長人事を含め定期的に議論している。現社長の山田は、この指名諮問委員会で選ばれた初めての社長である。人事諮問委員会は、私も委員に加わっている。ここでは来年度の体制、執行役員への昇格、降格等を諮問していく。これらの全ての委員会の委員長は、社外取締役に務めていただいている。CEO以下の執行機関は、執行会議等をふまえながらいくつかの委員会をもってガバナンス上の運営をしている。

 オムロンでは監査役を設置している(社内監査2名、社外監査2名)。監査役会は独立した組織となっている。また、社長の直轄部門として内部監査部門も設置している。

 内部統制は、J-SOXを中心に取り組んでいる。中でもコンプライアンス、リスクマネジメントは日々拡充するべく注力している。ことに事業が急拡大している中国では、キャッシュマネジメントにも注力している。グループ内取引では、できるだけ為替を起こさず、一カ所にまとめて債権債務相殺など調整を行い取引を簡素化している。同時に、経営人財確保育成などの人事系を中心としたリスクマネジメントを強化する取り組みもスタートさせた。2015年度からは、中国国内のリスクマネジメントの再構築を私がリーダーとなって進めていく。

 ガバナンスの中でのユニークな例として、3カ月に1度、品質問題、不正・不祥事などの状況を取締役会に報告している。お恥ずかしい話だが、不祥事はなかなかなくならない。品質問題に関しては、バッドニュースファーストで早期に手を打つことに腐心している。品質課題にヒューマンエラーはつきものだ。発生部門は、本社の解決支援部門にすぐにコンタクトし、支援を依頼し、共に早期解決、原因究明を進める体制を敷いている。その一つの進捗報告の場が、3カ月に1度の取締役会での報告、フォローアップである。

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経営力――ルールの再構築

 会社の中にはさまざまなルールがあり、手順書がある。日本でつくられるものから海外子会社独自でつくられているものまで多種多様となっている。さまざまなルールは必要な都度つくられ、メンテナンスも十分ではなく、時の経過とともに体系も崩れ、現場では活用しにくいものとなっている。再度、各機能のポリシーは何か、またグループのルールは何か、エリア本社としてのルールは何かといったことを、グループ本社や地域本社の今後の役割を新たなマルチナショナルなグループ経営構造の姿と合わせ考えながら再構築している。かつグローバルの中で、どのようにルールをつくっていくかを考えなければならない。これからのグローバル経営への準備の一環として新しいグループ経営基盤の再構築を狙いながら、グループルールをつくり直している。それが今、私がリーダーとして取り組んでいるオムロングループルール策定のプロジェクトである。2016年度末の完成を目標に、現在は本社機能部門のポリシー、そして本社機能部門のルールが出来上がったところだ。今後エリア本社やカンパニーのルールづくりをこの1年かけて展開、再構築し、2016年度最後の一年で全体をブラッシュアップしていきたい。

 オムロンの経営理念である、「チャレンジ精神の発揮」「ソーシャルニーズの創造」「人間性の尊重」の現場での実践を、グループ全員が安心して専念できるようなグループルール、この夢の実現に向かって取り組んでいる。

経営力――グローバル・タテヨコ経営

 オムロンの経営力発揮の仕組みの一つに、「グローバル・タテヨコ経営」がある。タテは事業部、ヨコは機能部門である。中央集権制、事業部制、カンパニー制、持ち株会社制など、グループ経営構造にはいろいろあり、それぞれにメリット・デメリットがあるが、オムロンでは一部の分社とカンパニー制を維持しながら、そのデメリットを最小限にするため、この「タテヨコ」経営を推進している。事業部は、大きく分社も含め5事業部とその他事業開発本部からなる。子会社数は、国内外あわせて157社と、企業規模に比べて多い。分散は非効率であり、もっと集約していかなければならないと思っている。新興国内での法人統合を進める一方で、なるべくヨコ機能は、ビジネス・プロセス・アウトソーシングも含めて、エリアで集約しようと考えている。現在は経理・財務がその集約の途上であり、引き続き人事機能などもエリア本社の役割・権限とエリア経営の在り方を再度検討しながら構築していきたい。

財務力――規模と高収益の両立

 財務力では、2020年度までに、グローバルエクセレンスゾーンへの到達を目標としている。独自に目標化したグローバルエクセレンスゾーンは、売上高1兆円以上、営業利益率15%以上である。アップル、インテル、GE、J&J、3M、TIといったグローバルエクセレントカンパニーが名を連ねるゾーンを目指して、規模拡大と高収益の両立を狙っていきたい。

現場力――逆ROIC経営

 規模と高収益の両立を実現するために用いているのが、逆ROIC経営である。ROICは社内的に展開しやすい。例えば営業利益率で展開すると、事業によって収益力に差があるため、収益力の低い事業は、早々にクローズして収益力の高い事業に移すことになりかねないし、それぞれの事業従事者の士気にも影響する。それでは、5つの事業を保持しつつ協同を含めた新規事業を探索・実現し、長期的に成長していくことは不可能だ。

 しかし、営業利益率が低い事業でも、ROICなら上げることが可能だ。例えば、営業利益率7%であった車載事業が、狙っているROICは14%だ。この数字は他の事業と遜色ないレベルである。このように、ROICは異なる事業体の中にあって、共通的に評価しやすいという特徴を持つ。

 もう一つ、ROICは分解しやすいという特徴がある。まず、「営業利益率」と「投下資本回転率」に分解できる。さらに、営業利益率は、「売上総利益率(付加価値率、製造固定費)」「販管費率」「営業利益率」「営業外損益」「当期利益率」に分解でき、投下資本回転率は、「運転資金回転率」「固定資産回転率」に分解できる。それぞれの指標から、部材標準化や海外生産比率から実効税率まで具体的なKPIが設定され、それぞれの現場で目指す姿と活動を一致させることができる。こうした特徴によって、現場でこだわる目標指数を導き出し、経営理念であるチャレンジ精神やソーシャルニーズの創造に挑戦できると考えている。それぞれの現場が目標を掲げ精査し、再びアクションを起こすというPDCAサイクルを部門の中で回していくことが狙いである。目指す姿、KPIをさらにブレイクダウンして、チームとしてこだわる指数を目指し、部門独自で評価していく。達成できなければ新たなプランで再度試みる。こうしたPDCAを回しながら、一歩一歩愚直に目標達成を狙っていく――そのサイクルを回し続けるのが逆ROIC経営である。

 各部門でどんな指標にこだわり、どう展開していくか。それを見ながら、売上高1兆円超と営業利益率15%達成に向けて全社で取り組んでいるところである。

成功のための人財力

 成功のために最も重要なのは「人財」である。企業理念の下、多様なメンバーとチャレンジし続けるチームをリーダーが牽引することで、全社ビジョンを実現する。その鍵を握るのは、人財である。オムロンには同質の人間が多い。押しなべて真面目で素直なイエスマンである。そして、徐々に考えなくなっているという危惧を抱いている。私自身、本当に社長に苦言を呈せるか。私の部下が私に反対意見を言えるのか。知らない間にイエスマンをつくってはいないか。日本人が海外で日本的経営を行うことを海外の方たちはどう思っているのか。市場に本当に対応できているのか。「チャレンジし続けるチーム」「多様なメンバー」を掲げながらも、日常的にそれが実現されているのか――いろいろ努力して施策を実行しているが、人財力強化についての自問は尽きない。

 チャレンジ精神を発揮するために、ソーシャルニーズを創造する努力を推進すべく、いろいろなグループイベントを設けている。また、次世代リーダー育成・獲得のために、世界中に189のコアポジション(グローバルな最重要ポジション)を設けて実施している「コアポジション戦略」もある。コアポジションの人事と育成は社長権限で進められている。各取締役が定期的に会って相互理解と新たな気づきの機会を設け、個々人が自らの役割・意志・そしてマクロ動向とリスクの感度を高めていく。そうした企画を今後も実施し、将来のサクセッサーをつくり続ける運営をしていきたいと思っている。

 新しい機会の創出を求めて、新たなグローバル経営を進めていくことは、一方ではリスクの拡大を伴う。経営理念の基本である、一人一人の可能性を信じ(人間尊重)、事業で社会課題を解決し(ソーシャルニーズの創造)、リスクを見極め自ら実現していく(チャレンジ精神)。そういった経営の基本姿勢を、もう一度グループ全員で築いていきたいと願っている。

 本日はご清聴ありがとうございました。

※本稿は、2014年12月2日開催の「第14回CFOフォーラム・ジャパン2014」の講演内容を編集部にてまとめたものです。

2015年1月15日

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