2020年2月17日
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- パネリスト(ご氏名50音順)
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高倉 千春 氏
味の素 理事
グローバル人事部長(CHRO)名取 勝也 氏
名取法律事務所
代表弁護士日戸 興史 氏
オムロン取締役執行役員
専務CFO兼
グローバル戦略本部長花田 琢也 氏
日揮ホールディングス
常務執行役員
Chief Digital Officer
デジタル統括部長、
人財・組織開発管掌
- モデレータ
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昆 政彦 氏
スリーエムジャパン代表取締役 副社長執行役員
一般社団法人日本CFO協会 理事/主任研究委員
昆 本セッションは、パネリストにCFO、CHRO、リーガル、CDO(Chief Digital Officer)と、各コーポレートファンクションのトップにご登壇いただきました。コーポレート機能が企業の価値向上に貢献するために我々はどう変わらなければならないか、また、CFOがもう一段高みを目指すにはどうすればいいかを中心に話を進めていきたいと思います。
その前に簡単に自己紹介させていただきます。スリーエムは、世界200以上の国でビジネスを展開しています。社員数は世界で9万人。売上328億ドル(約3.5兆円)の65%が米国外で占めるグローバルカンパニーです。また、利益と社会価値の創出の両立に腐心しており、2019年のROESG(日本経済新聞)世界ランキング第8位になっています。
さて、「我々は戦略的な部門にならなければならない」と言ったとき、おそらくほとんどの人は「もう戦略的な仕事をしている」と答えます。本当にそうでしょうか。会社の中には、何十、何百もの戦略があります。例えば、経理には財務の戦略、トレジャリー戦略、キャッシュマネジメント等があり、人事にはリーダーシップデベロップメント、リソースアロケーション等があります。事業部には事業戦略があり、マーケティングや技術等の機能戦略もあります。
本日のディスカッションは、それらすべてを束ねる企業(全社)戦略についてです。「企業戦略に対してコーポレートファンクションが連携して遂行する体制になっている」ことが、「戦略的部門になる」ために最も重要な点です。これは簡単なことではありません。企業戦略がはっきりしない場合は、企業戦略確立の機能を、コーポレートファンクション(スタッフファンクション)で持たなければなりませんし、戦略には必ずSDGsが入ってきます。
米国の現代思想家ケン・ウィルバーは、社会の価値観や構造の変化を「インテグラル理論」として提唱しました。インテグラル理論では、変化の過程を3つに分け、オレンジ、グリーン、イエローに色分けして表しています。
1段階目のオレンジの世界は、「科学的達成感」や「実力主義」「唯物主義」「物質的な利益を追求しゲームの勝者は高い報酬を得る」という、今、我々が考えている企業のやり方そのものです。これはかなり古い価値観になっています。
2段階目のグリーンの世界は、感受性豊かな「個人主義」です。「価値観を重視する文化と心を揺さぶる存在目的」「ダイバーシティ」「エコロジーへの関心」が高まり、企業や社会の中にいたとしても自分自身の存在価値が重要となります。これが今、企業が目指そうとしている世界でしょう。
さらに進んだ3段階目のイエローの世界は、統合的な段階へ到達します。自律的な「ティール組織」により、全体が統一化され、組織の上下関係なく、個々人が自律心を持ちながら活動し、それが緩やかにつながっていく。それが目指すべき姿とされています。
こうした変化の過程で問題となるのが、オレンジとグリーンの間にある「ICT(情報通信技術)適応の壁」です。社会勢力の約50%は第一段階のオレンジに留まっており、「ダイバーシティが重要だ」と言いながら、グリーンの段階にある社会勢力は15%、イエローは5%に過ぎません。
デジタル化の波に乗れない古い価値観を持った人たちがいちばん上にいる社会では、オレンジからグリーンへの変化のハードルはかなり高く、破壊的なことが起こらなければ次のステージに移れないとされています。
これは社会の話ですが、今、会社の中でも同じことが起こっているのではないでしょうか。古いオレンジの考え方で「物質的な利益を求めればよい。給料が高くなることで生きがいを感じる」と思っている層と、感受性豊かな個人主義的なグリーンの考えを持つ若いジェネレーションとのギャップが、実は会社の中にあるのではないでしょうか。そうであれば、このギャップを取り除くことが、次のステージに移行するための重要なポイントとなります。
個人的な思いも含めてお話しすれば、「真・美・善」の3つが正しい三角形になっていることが、人間としても企業としても極めて重要だと私は考えています。「真」とは科学的に証明することです。企業の成長を科学的に証明するのは、デジタル・数字・財務的な数字で、効率性や合理性を求めます。「美」とはアートです。ここでは、共鳴や感動があって、それにより自分の生きがいや存在価値というものを認めていきます。「善」は倫理です。信念や正義、道徳といった、いわば「真」と「美」の相反するところをつなぎ合わせるような信条的なものです。
この3つを企業に当てはめてみると、「真」は財務情報、「美」は非財務情報、そして2つをつなぐ「善」が起業哲学となります。
「真」と「美」の考え方を、中期計画の立案を例に少し具体的に考えてみます。デジタル化の考えで、過去の数字を積み上げて、5年後の姿を数字だけで表現しようとするのが「真」です。私も中期計画でときおりそうしたものを作りますが、作っている私自身、全然ワクワクしません。ワクワクしないものを実行しようとしても、当然共鳴を呼ぶことは難しい。中期計画は何もないところに将来像を描いていかなければなりません。数字で表せない夢や思いを将来像に吹き込むには、芸術的なセンスが必要になってきます。それが入ってくることで、ワクワク感が生まれます。
人事的な人財評価の観点から「真」と「美」を考えてみましょう。例えば、資格や知識による評価は「真」の世界でしょう。しかし、人間の評価はそれだけではありません。例えば、「会社をどのくらい好きか」「仕事へのモチベーションの高さ」といった、仕事に対するワクワク感が実は非常に大切です。そうした評価は「美」の世界です。評価一つとってみても、「真」と「美」がとても重要になります。
ただし、「真」と「美」は相容れない部分があり、それをつなぐのが信条や哲学といった倫理的な「善」の世界になるわけです。これによって「真」「美」「善」のトライアングルがきっちりと有機的に結びつく。
機能的な面から見れば、数値的な「真」を取り扱うのはCFO、ワクワクさせる「美」はCHRO、ルールを超えた倫理的な文化を根付かせる「善」はCOOの役割でしょう。最終的にこの3つが有機的に機能して連携して会社の中で動けるようになると、会社の価値は上がっていきます。本日は、この3部門の方にもご登壇いただいておりますので、それぞれの視点からお話を伺いたいと思います。
それでは、パネリストの皆さま自己紹介からお願いいたします。
2020年2月17日