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2017年10月16日 

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Insight

会社の競争力を引き上げるCFOの新たな役割⑦
CFOには心理的インセンティブを使い、
名伯楽になる役割がある

寺川 尚人

テラ・マネジメント・デザイン株式会社 代表取締役社長
株式会社Indigo Blue 代表取締役社長

 「君、最近さえないね」と尊敬する経営者から言われたら、あなたはどう思うだろうか?

 経営担当の副社長から言われたこの言葉にハッと目が覚め、人生を大きく変えた人物を知っている。何か否定しているわけでもなく、かと言って褒められているわけでもない。しかし、この言葉には愛情とその人を想う気持ち、あなたをよく見ている、認めているという含蓄がある。まさに自分の心を見透かされているような、心理を捉えた言葉である。本気で自分を奮い立たたせ、人生の転換点につながる、黄金の言葉である。こう言われた本人は後に経営のトップにまで上り詰めた。

 時に、人生に影響を与えるような、相手をあおり立て、能力を巧みに引き出し、本気にさせるセリフを言える役割が大事となる。

 優秀な人材を獲得するには、まずは会社に魅力がないと集まらない。転職の理由には、報酬水準への不満、上司や組織への期待感のなさ、会社のカルチャーやコミュニケーション不足、置かれているビジネス環境の厳しさやトップへの不信感など、さまざまな要素がある。そこで、特に優秀な人材が望むのは心理的インセンティブであり、将来へ向けた会社の成長の可能性や自己実現の可能性である。心理的インセンティブとは、会社におけるチャンスの多さ、自らが成長を実感する仕事とポジション、一緒に働く社員のマインドと仕事のやりやすさなど、社員の力を引き上げ、成果を高めるために働く環境に徹底的に拘っているものを指す。

 グローバル展開が、好きも嫌いも関係なく避けることができない時代に直面し、一部の業界では今やウォー・フォー・タレント(人材獲得競争)が起きている。このような人事や組織の案件は、自分とは関係ないと捉えているCFOもいるが、とんでもない。中長期計画の達成において人と組織を避けては通れない中、声高らかに経営のテーマとしてサポートすべきだ。会社は、如何にして優秀な人材を獲得するのかという入り口と、如何に育てた人材をリテンションするのかという出口阻止、そして、人材の見直しと戦力化に必死になっている。どのマーケットにどのような人材がいるのかを把握するなど、今後のビジネスの展開を視野に入れて、強かに準備をしている会社も多い。一方、人材の草刈り場になっている会社や、人材のポートフォリオのあるべき姿を見据えていなかったために、人材のミスマッチを起こし、使えない人材の山とほしい人材のギャップに苦しんでいる会社も大変多い。これらの解決の糸口として、次の3つの手がある。

 まず1つめは、会社を取り巻く環境の変化を正しく認知し、社員のモチベーションをUPさせ、全ての社員の力を最大限引き出し、会社の総合力を上げるために、全員がそれぞれの立場でリーダーシップを発揮できる仕事環境の整備とは何なのかを経営の重大なテーマとし、真剣に議論し取り上げていく工夫が必要だということ。当然、社長がこの認識を正しく理解し、経営陣全員がそのために知恵を出し合い、努力を惜しまない経営──社員の成長や次を担う人材作りを良しとし、キーとなる人材を活かすには、全社的な視点で計画的かつ意図的に適正配置をすることが重要とする知的創造経営を目指すことが必要である。そのためには、技術やビジネスの変化を予測し、今後不必要になる領域の仕事やポジションを時間軸も含め定義し、一方、強化・増強せざるを得ない領域へ必要な人材のスペックの確保、職種転換も可能になる戦略的な専門開発プログラムやマネジメントのあり方を引き上げる経営スキルの開発を行う必要がある。

 2つめは、企業価値に貢献するクリエイティビティの高い人材の価値を引き上げ、未知へのチャレンジやリスクを背負って価値を作る人材を会社の生命線として捉えられるマネジメント力、次世代のリーダーをどれだけ輩出させたかのマネジメントを業績とは別に重要な指標に捉え、単に数字だけで物事を見ない、会社の人材マネジメント力の底上げを経営のKPIと捉えることが必要だということ。

 3つめは、自律的に当事者意識を引き上げるために、ボトムアップからのビジネス提案や事業提案の芽を潰さないマネジメントが必要だということ。現在の業務の延長ではない、将来の可能性にチャレンジできる時間とお金を使える工夫が大事だ。執務時間の15%を自分の好きな研究に使っても良いとする3Mの15%ルールは有名だが、常に今のビジネスはなくなるかもしれないという正常な危機感の醸成と、企業側の勝手な論理を一旦取り除いた顧客視点での発想、顧客の期待を超えるニーズを巻き起こすための努力をさせることが、当事者意識の活性化、自分たちの会社を変えるきっかけになる。まさに、経営者視点で考えるチャンスになる。また、チャレンジを実行し、経営トップ層を口説いて新しい事業のスタートを切ることは、戦略シナリオ・事業採算性・ビジネスの優位性や持てるリソースの配分・事業ポジション・撤退基準等、幅広い視点と判断を必要とし、従来の経験範囲を超えたハードルの高い経験となる。こうした厳しいチャレンジは、一回り人を大きくさせる。ある種のミニ経営経験であり、勝ち癖をつけることかもしれない。会社は社員の成功ES(Employee Success)をどれだけ作れるか、社員の成長はどれだけ失敗と成功を経験したかの絶対量に比例する。やらせもせず、リスクを取ることも良しとしないで、どうやって将来のカギを握る人材を作ることができるかは疑問だ。これだという社員を正しく見極め、チャンスを与え、平時で変革を推進し完遂できる骨太の、彼らに将来を託せるような人材を社内に作れることこそ、心理的インセンティブを上手く活用したケースかもしれない。

 そのような、真価を正しく見抜き、人をよく見て、できる人を育て、一騎当千のような人材を作る、名伯楽のような役割もCFOの大事な役割だ。

2017年10月16日

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