アナリシス
-
SDGs経営と企業法務(20)内部通報制度の整備と運用
─健全な自浄能力を機能させるために─はじめに 最近、地方自治体の首長によるパワーハラスメントに関する公益通報への対応をめぐり連日報道がなされている。通報者の勇気ある告発を、被通報者自身が「嘘八百」と断じ、権力を用いた通報者探しや、公益通報を原因とする懲戒処分が下されていたとしたら、公益通報者保護法に反する行為である。・・・(続きを読む)
掲載日:2024年10月1日
-
SDGs経営と企業法務(19)A&Fはどのように復活したか?
─サステナビリティとリスクマネジメント─はじめに 米国カジュアル衣料大手のA&F(アバクロンビー・アンド・フィッチ)が「クールな若者向け」のセグメンテーション戦略で成功を収めたのは、1990年代のことであった。この立役者は、マイケル・ジェフリーズであり、同氏は、米アパレル大手リミテッドがA&Fを買収した後の1992年にCEOに就任した。同氏は、想定顧客層を若者に絞り込み、容姿端麗な販売員を配置。そして、店の照明を落としてクラブ音楽を流すなど独自のマーケティング手法を採用した結果、米国の若者の間で人気となり、1996年にはA&Fは証券市場への上場を果たした・・・(続きを読む)
掲載日:2024年8月1日
-
SDGs経営と企業法務(18)―MBO指針に準拠した経営支援(3)公正なTOB価格―
はじめに< 経済産業省が、2023 年に公表した「企業買収における行動指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」(以下「本指針」という)は、上場会社の経営支配権を取得する買収一般において尊重されるべき3つの原則を掲げている。その第1原則は、「企業価値・株主共同の利益の原則」、つまり、望ましい買収か否かは、企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、または向上させるという基準であり、第2原則は、「株主意思の原則」、つまり、会社の経営支配権に関わる事項については、株主の合理的な意思に依拠すべきであるとしている*1。・・・(続きを読む)
掲載日:2024年6月3日
-
SDGs経営と企業法務(17)―MBO指針に準拠した経営支援(2)適正手続き―
上場会社を対象とするマネジメント・バイアウト(MBO) は、公開買い付け(TOB)により金銭給付と引き替えに、一般株主から株式を取得し(第1段階)、その後にスクイーズ・アウトを通じて、最終的に上場会社の全株式を取得して非上場化を図る(第2段階)という2段階の手続きを通じて、買収者の経営権が確保される。・・・(続きを読む)
掲載日:2024年4月1日
-
SDGs経営と企業法務(16)―MBO指針に準拠した経営支援(1)―
M&Aの手法の1つであるところのマネジメント・バイアウト(以下「MBO」)とは、企業の経営陣が金融機関や投資ファンドから資金調達を行い、既存株主から自社の株式や事業部門を買い取って経営権を取得する取引である。・・・(続きを読む)
掲載日:2024年2月1日
-
SDGs経営と企業法務(15)―ステークホルダー論を基調とするブラジル会社法―
はじめに 前回に引き続き、多様なグローバルサウスの法体系を紹介したい。ブラジル株式会社法(以下「ブラジル会社法」または「会社法」という)は、1976年に制定され、その後数次の改正を経ているが、制定から約半世紀を経た現在も有効な法律である。筆者は、1988年から約4年間のブラジル駐在(法務担当)の実務経験を基に、帰国後に夜間大学院(博士課程)でブラジル会社法を研究した。筆者がブラジル会社法に関心をよせた理由は、同法がステークホルダー論に基づき、議決権行使に関する株主の義務及び支配株主の権利濫用規定を有する点が、議決権行使に関する株主の義務を認めないわが国の会社法と対照的である事実に興味を抱いたからである。・・・(続きを読む)
掲載日:2023年12月1日
-
SDGs経営と企業法務(14) ―グローバルサウスの多様な法体系―
ビジネスのグローバル化が進展し、SDGs経営の深化が求められつつある。わが国企業には、発展途上諸国に進出し、ビジネスを通じてその国や地域の発展、そしてSDGsの課題解決に向けて寄与することが求められている。かかるビジネスの進化の下で、企業法務にはインド、ブラジル、南アフリカなどの途上国または新興国、つまり、グローバルサウスの多様な法体系についても知見を深めていただきたい。・・・(続きを読む)
掲載日:2023年10月2日
-
「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(以下「改正府令」という)が2023年1月31日に公布・施行されたことに伴い、2023年3月の決算期以降の有価証券報告書提出会社に「人的資本の情報開示」が義務付けられた。具体的には、「非財務情報開示の充実」と「開示の効率化」を目的として、サステナビリティ情報に人的資本に関連する「人材育成方針」と「社内環境整備方針」の項目が追加され、また多様性に関連して女性管理職比率などの記載項目が追加される。・・・(続きを読む)
掲載日:2023年8月1日
-
SDGs経営と企業法務(12) ―コーポレートガバナンスの目的と企業法務の機能―
コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の再改訂を機に、法務に求められる機能が拡張し、その期待が高まっている。これは、従来の法務機能を拡張して、コーポレートガバナンス(CG)との関わりを核とするコーポレート・セクレタリー業務への期待の高まりと言い換えることができよう。法律の専門家集団である企業法務には、コンプライアンス統括機能、内部統制やリスクマネジメントの補完機能、そして取締役会事務局としてのガバナンス支援機能など様々な役割が期待されているところ、今後は「経営」の目線で質の高いCGの実現に貢献し、そうした法務人材から将来は有能な経営者が輩出されることも期待される。そのためには、法律しか興味の無い(つまり法律しか語らない)企業法務を脱却して、広くCGの課題に取り組み、自らの経営感覚を磨き、CGを見据えた経営支援に向けた努力も必要になろう。本稿では、以下に改訂CGコードが求める「資本コストを意識した経営」に焦点をあてて、わが国におけるCGの課題について検討する。・・・(続きを読む)
掲載日:2023年6月1日
-
SDGs経営と企業法務(11) ―不確実な世界における国際取引法の役割とあり方―
筆者が会長をつとめる国際取引法学会の全国研究報告大会が2月18日から2日間にわたり九州大学伊都キャンパスで開催された。この研究組織は、国際契約法、国際企業法や国際知財法など8つの研究領域を担当する研究部会で構成される。各部会の1年間の研究成果を一堂に会して発表する全国大会は、創設以来8回目となるが、今回の大会では共通テーマを「不確実な世界における国際取引法の役割とあり方」と設定した。・・・(続きを読む)
掲載日:2023年4月3日
-
SDGs経営と企業法務(10)普遍的だが絶対的ではない表現の自由─Twitter買収が提起した課題─
昨年10月末にイーロン・マスク氏によるソーシャルメディア大手、Twitterの買収が完了した*1。同社の時価総額を大幅に上回る日本円にして約6兆4,000億円の巨額の買収である。世界で1日に2億人以上が利用するといわれる巨大SNSの運用会者であるTwitterをマスク氏はなぜ買収したのか。・・・(続きを読む)
掲載日:2023年2月1日
-
SDGs経営と企業法務(9)─法令遵守による人権侵害の懸念と法務対応─
企業不祥事が生じるたびに法令遵守の徹底が必要であると報じられる。確かに、ビジネスの現場における諸法令の遵守徹底の徹底は内部統制の基礎であり、企業法務の優先課題であろう。しかし、現地の法令を遵守することによって具体的な人権侵害が生じる場合、法令を遵守すること自体が社会的非難の対象になる場合もある。・・・(続きを読む)
掲載日:2022年12月1日
-
SDGs経営と企業法務(8)─サステナビリティ経営を支援する─
企業法務の業務は多様である。これまでその中核とされてきたのは「契約」にかかわる業務であり、そこでは「法的基準」、つまり法令に照らして正しいとか、法的権利や義務を認めるべきか否かと言った法的基準が重要な役割を果たしていた。・・・(続きを読む)
掲載日:2022年10月3日
-
SDGs経営と企業法務(7)─社会的課題解決に向けた社会的企業という選択肢─
会社は、営利事業を営むことを目的とする法人の一類型であって、経済活動を行う主体の内でもっとも重要なものとされる。ここに営利事業を営むことを目的とするという意味は、単に営利活動を行うことを目的とするという意味ではなく、対外経済活動で利益を得て、その利益を法人の構成員に分配することを目的とする趣旨である。・・・(続きを読む)
掲載日:2022年8月1日
-
SDGs経営と企業法務(6)─ロシア・ビジネスについての試論─
前回はビジネスと人権についての関わりを論じたが、今年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって企業は倫理的課題に直面しているので、本稿においてこの問題を取り上げたい。わが国においても様々な経済制裁や禁輸措置がとられていて、それらを遵守すべきことは当然であるところ、法令遵守の枠を超えてさらにESG経営の視点からロシアにおけるビジネスを継続することの是非が問われている。・・・(続きを読む)
掲載日:2022年6月1日
-
SDGs経営と企業法務(5)─アメリカ外国人不法行為請求権法と企業活動─
最近のニュース報道によればわが国の大手ビール・飲料会社はミャンマーから撤退すると報じられ、これは同国軍によるクーデター以降に人権侵害等の懸念から国軍系企業との合弁事業継続が困難になったことが背景にある。・・・(続きを読む)
掲載日:2022年4月1日
-
SDGs経営と企業法務(4)─人権侵害対策法と企業法務の課題─
2005年に国際連合の人権委員会において国連事務総長特別代表に任命されたジョン・ラギー教授は、2008年の人権理事会に「保護、尊重及び救済の枠組み」を提出した。・・・(続きを読む)
掲載日:2022年2月1日
-
前回はイナフ・プロジェクトの抗議活動に始まる米国紛争鉱物規制に言及したが、本稿では、紛争地域で産出されるスズ、金、タンタル、タングステンの4種金属の使用規制に関する米国ドッド・フランク法と欧州連合(EU)における規制を比較しつつ、企業のサプライチェーン全般の監査を通じての人権対応の必要性を検討する。・・・(続きを読む)
掲載日:2021年12月1日
-
SDGs経営と企業法務(2)─米国税関による人権侵害製品の輸入差止め─
米国税関は日本企業が人権侵害の強制労働による製品を米国に輸入しようとしたとして2021年1月から米国への輸入を差し止めている。2016年2月に改正された1930年関税法第307条は、米国税関に強制労働に依拠した製品の輸入差止めの権限を付与している。・・・(続きを読む)
掲載日:2021年10月1日
-
SDGs経営と企業法務(1)─AIDS治療薬輸入差止め事件の教訓─
1990年代からビジネスが人権に与える影響への関心が急速に高まり、今日では、企業はその取引先や原料・部品等の調達先を含むサプライチェーン全体を通じて、児童労働や強制労働などの撤廃に取り組む姿勢が求められている。・・・(続きを読む)
掲載日:2021年8月2日