2017年8月17日
Insight
会社の競争力を引き上げるCFOの新たな役割⑥
グローバル水準確保の自己投資と
将来に向けた部下の人材育成
寺川 尚人
テラ・マネジメント・デザイン株式会社 代表取締役社長
株式会社Indigo Blue 代表取締役社長
最近いろいろな企業のトップから、経営幹部の選抜や経営人材候補の開発、育成の相談を受けることや、そのお手伝いをすることが大変多くなってきている。特に、経営新体制のあり方や経営トップ層の後継者問題の相談が非常に増えてきている。こういう相談の中で、経営の要である次期CFOの後継者問題は、かなり難易度が高く経営への影響が大きい。
その一番の理由は言うまでもなく、CFOのやるべき役割が従来よりかなり広い領域をカバレッジする仕事になってきたことによる。国内に留まらず、海外展開でのビジネスステージが数段階も上がり、M&Aによる子会社の活用や、当初を超える付加価値をグループ内でどう高めるかを具体化するなど、やるべきこと、期待されていることは増え、またそれを実現可能にするための専門知識や、各国の税制ルールや法規の把握等、求められる範囲は年々広がってきている。さらに、それぞれの専門性に強い社内外の人材を十二分に使いこなす、競合他社に負けないグローバル水準のCFOがマストとなる。すなわち、常に自ら積極的にレベルを高めることを怠らず、役割を担えるよう自己成長に向けた自己投資を惜しまないCFOこそが会社の競争力にも影響を及ぼすことになる。PCに例えると、最新のバージョンにアップデートしたOS(オペレーティングシステム)となる最新レベルのCFOがいなければ、それぞれの人材が持つ専門性というアプリケーションを自由自在に使いこなすことはできず、CFOには高度な判断ができる進化した存在であることが要求される。もっと厳密に言えば、グローバル競争力の高い見識と、その会社特有(固有)のビジネスに熟知した強いOSとしての機能を持ち続けなければならない。そして、自分の跡を担い、求められる役割に応え得る人材が自分の後に存在しているのか、またそうした人材を簡単に育成できるのか、素材となり得る人材が存在するのかという点が最大の課題になる。
一般的には、ただ単に頭脳明晰で優秀な人材より、タフで革新的な活動を実践し、企業を支え価値を生む有能な人材が会社には多く必要とされるし、求められている。しかし、有能な人材ほど便利なためにずっと同じ部署に囲われていて、折角の本人の力とチャンスを潰しているケースが多くの場面で見られる。その要因のほとんどが、上に立つ者が将来の準備を後回しにし、現状を守るための近視眼的な視点と有能な人材を自分の所有物のように捉えてしまうところから始まる。こういう方々には、「有能な人材は会社の財産であり、それをどのように活かすかは会社の戦略である。どのような投資をし、何を経験してもらうかも、将来に向けての大事な人事戦略になる。現在の部署は、キャリアの一プロセスと捉えてほしい」と理解を促し、考えてもらう必要がある。この考え方が機能するためには、異動させる人材に代わる人材がしっかり回ってくるかどうか、そういう仕組みがあるかどうかで決まってくる。また、目先の利益や現状に配慮することだけに力を注ぐと、必ずしっぺ返しが来る。特に人材は5年後、10年後、20年後、会社の成長エンジンの要になる。簡単には期待できるレベルに達しないが、将来を見据えて我慢強く諦めないことが肝要だ。筆者の経験では、グローバル経営に必要な人材像を想定した場合、どの時代においても、特にCFO専門領域(経営戦略、経営企画、経理、財務、IR等)のプロ集団が必要になる。
この変化の激しい環境を乗り越えていくために、グローバルレベルでローテーションを行いながら、複数の専門領域の幅を広げ、業務遂行を可能にするための経験を積ませることで、戦略的な専門人材作りを実現した事例をひとつ紹介したい。
その当時、その会社では、急速なグローバル展開を図るために多くの専門系人材を同一の機能ごとに配置し、ほとんどローテーションがなされていなかった。当然有能な人材はそれぞれの組織に囲われ、異動は全くなされていない。しかし、この時のCFOが、将来を見越して今後の人材レベルを急速に強化し、デュアルキャリア以上の専門領域を持った経営専門集団を作らないと、人材供給と人材補強はままならなくなると判断したことから、まず別々の専門領域のエース級の人材同士において専門の壁を超え、年間数十人単位でグローバルに動かす大胆な展開を目指した。多岐にわたる事業領域を持つ会社としては、複数の事業、国や地域の特徴に合わせた経営に関与すべきで、複数の専門領域を担える経験を持つことが質・量ともに避けられない。だとすれば、ビジネスの成長チャンスがある今のこのタイミングをおいて他にないと繰り返し説得していたのを覚えている。それまで、エース人材同士の交換もほとんどなかったし、ましてや専門領域を超えての異動はほとんど皆無であったところを、例えば、経営管理のエースと物流のエースの交換、財務戦略のエースを海外のヘッドクオーターの経営管理責任者へ、IRのエースを事業子会社のトップへ、海外の生産管理のエースを国内マーケティングの経営企画へ等、これから想定される事業展開のスピードに応えられるよう予測した大胆な人材作りをサポートした。当然、総論賛成、各論大反対の嵐の中、交渉・説得バトルに打ち勝ったのは、まずひとつ目は、何よりCFOのぶれない強い意志と、人作りをしないと会社の競争力を強化できないという危機感があったことにある。2つ目は、自分達の時代は、良くも悪くも厳しい環境に晒され、厳しい経験を積み、それを乗り越えることによって成長してきたと痛感しており、「人は場(ポジション)で育つ」と言うほど、人材成長には試練の場が必要であり、その機会をいかにして作り出すかだという認識があったことである。また、人事も絡み、さらに人事異動がフェアかつニュートラルな立場で可能になり、必要なポストにベストな人材の組み合わせを目指すことで、可能性のある人材の力を最大限に引き出すことこそが短期的な利益視点より重要であると考えたことである。また、それぞれの事業・ビジネス特有の経験を別の事業に活かすことで、従来気づかなかった視点、同職務に長く在籍していたことから知らず知らずのうちに染み付いてしまったマンネリ的な発想や当たり前になっているプロセスから脱却等ができたこと、異動により自身がやってきた仕事の大事な部分を後輩に引き継ぐことで重要なノウハウが組織に残ることになったこと等、メリットは大きかった。その結果、異動した方々の活躍はその後も目覚ましく、切り口の違う仕事の進め方や違う経験のノウハウがビジネスに多大な貢献をしただけでなく、それぞれの自己成長と人材の質の厚みにつながり、グローバル展開の加速と相まって、大変な効果を示した。そのうちのある人材は、現在その会社の重要な役割を担っている。
CFOの役割は、会社の規模やグループ組織形態、グループ経営の仕方によってカバレッジ範囲は相当違うし、社内の質・量によって左右される。言えることは、事業拡大や変革を行うためには、自分に代わって役割を担える、分担できる分身をどれだけ作ることができるかどうかによる。企業においてはCFOが、間接・スタッフ部門すべてを管掌するケースになると、物流、IT、情報システム、マーケティング、リスクヘッジ・コントロール、生産アローケーションや会計ルールの見直し(USギャップやIFRS導入)等も入ってくる。本当に任せるのに相応しい人材がいて初めて安心でき、権限委譲とマネジメントコントロールが実現できる。繰り返して言えることは、ミニCFOのメンバーを競わせて、真に任せるに相応しい人材を作り上げることも現在のCFOの大事な役割だ。
特に、ビジネスの競争環境が大きく変わること=戦略が変わるという観点で何をしなければいけないのか。それには、これから特化すべき専門領域強化のための方法確立、今後余剰化する可能性がある会社群の有効な活用や事業領域の選択と集中、事業効率化の観点からの投資の判断等、また、これらを実現可能にするCFO専門機能人材の確保と、必要な専門領域人材への変換、同業他社に負けない人材の厚みと適正配置が避けられない。
今後のビジネスのほとんどは、従来の延長線上にないビジネスで、どこからライバル企業が出現するかわからない。ビジネスモデルが違うということは戦い方やルールが変わり、当然、戦う土俵が違うビジネスになる。発想を変え、過去に縛られないことをいくつか想定して対応できる経営・管理系人材を鍛えることも必要だ。赤字も含めどこまでが許容範囲かを決めて、撤退ルールを持ちながら、事業立ち上げの見極めと次の柱になるビジネスを作るという強い姿勢で、我慢強く耐える努力が必要になる。そのビジネスにおいて競合する企業と何を違いとしているのかを認識し、ビジネスのスピード、時間的要請に間に合わせるやり方の導入とその評価ができるかどうかがカギとなる。競争相手のルールに縛られることなく、自分達の強みを発揮し、着実に勝てる環境を整えることが、企業の進化であり、次のCFOにやってもらう役割でもある。
2017年8月17日