2017年5月15日
松下電器(現パナソニック)に入社するとき役員面接で「不得意なものは何か?」と問われた私は「簿記や会計は嫌いです」と答えた。松下電器というのは不思議な会社で「それじゃあ、経理をやってもらうわ」と経理に配属された。以来、経理財務担当(CFO)副社長で会社員人生を卒業するまで40年余、経理財務の道を歩んできた。本日は、私の経験を踏まえて、経理財務を担う方々のヒントになるお話ができればと思う。
リーダーにとって大事な三要素
人として、リーダーとして大事な要素に「心」「技」「体」の三つがある。
研修では幅広い知識や深い専門性といった「技」を学ぶ。受け身ではなく、自分のこととしてポジティブに研修に参加することによって、「技」が磨かれていくのであろうと思う。
「心」はどうか。素直な心、タフな心、ぶれない心は教わって身につくものではない。人生には四つの坂があるという。上り坂、下り坂、まさかという坂、そして最後、真っ逆さまという坂がある。一人ひとりの人生の中で、真っ逆さまに落ちて「地獄を見る」ことが、リーダーにとって大事な要素だと言われる。他人に手を差し伸べてもらって救われるというのではなく、自分であがいて脱出しなければどうにもならないという局面が人を育てるのだ、と。聖書にも「患難(かんなん)は忍耐を生じ、忍耐は練達を生じ、練達は希望を生ず」とある。困難が忍耐を生み出し、忍耐が自分で乗り越えていこうとする力(練達)を生み、それが希望へとつながるのだ。洋の東西を問わずいろいろな教訓があるが、「苦難にあうことは自分にとって大事だ」と認識したいものだと思う。難が無いと書いて、無難(ぶなん)と読む。難が有ると書いて、有り難う(ありがとう)と読む。「難が有ることはありがたい」と思えるようになることが、心を鍛えることであると、文字そのものが教えてくれている。
「体」は一つには当然、身体の体であり、健康を保つことが大事だ。もう一つ「体」には、自己表現力や説得力といった「体裁」の意味がある。欧米では子どものころからディベートなどで自分を表現し相手を打ち負かす訓練をするが、自己表現を訓練することで人の中に立ってプロデュースする力が生まれてくる。CFOラボでもぜひ、自分を表現してみていただきたい。恥は大いにかいたほうがいい。そのときは何とも嫌な気分になるが、後になって「あの恥が自分の歩みを進めた」と思うことは多い。恥をかくほど自分が高まっていくような気がするのだ。
松下幸之助の『実践経営哲学』
松下幸之助の著書『実践経営哲学』(PHP文庫)の20項目のもくじの中には、幸之助の経営の要諦がすべて提示されている。三代目松下電器社長の山下俊彦が創業者、幸之助の大抜擢で取締役の末席から25人抜きで社長に就任したとき、幸之助が山下に託したのがこの20項目であったと私は思っている。
①まず経営理念を確立すること
②ことごとく生成発展と考えること
③人間観を持つこと
④使命を正しく認識すること
⑤自然の理法に従うこと
⑥利益は報酬であること
⑦共存共栄に徹すること
⑧世間は正しいと考えること
⑨必ず成功すると考えること
⑩自主経営を心がけること
⑪ダム経営を実行すること
⑫適正経営を行なうこと
⑬専業に徹すること
⑭人をつくること
⑮衆知を集めること
⑯対立しつつ調和すること
⑰経営は創造であること
⑱時代を見ているか
⑲政治を見ているか
政治に関心を持つこと
⑳素直な心になること
『実践経営哲学』には、①「まず経営理念を確立すること」が一番大事だと記されている。「自社は何のために存在するのか」が、明記されているのが経営理念だ。さらに「どんなやり方でそれを進めていくのか」が記され、「社員の心の拠り所」となるものでもある。社名がパナソニックに変わろうと、会社がどのように変質しようと、幸之助の経営理念は語り継がれている。
以下、幸之助の哲学・宇宙観、経営観、経営の進め方と続く。例えば、⑫適正経営について、「投資とゴルフは手前から刻め」と私は思ってきた。少し調子が良くなると、思い切って過大投資を行って失敗する例が極めて多い。投資はゴルフのアプローチと同様に刻めという指摘が「適正経営」の中で表現されているのである。
⑰「経営は創造であること」では「経営学者が経営をやればうまくいくか」という問いに対して、幸之助は「ノー」と言っている。経営は学問で教わるものではなく、自分で身につけるものということだ。
⑱「時代の変化に適応すること」については、38年前の出来事を思い出す。中国の指導者・鄧小平氏が、「中国のエレクトロニクスは遅れている。助けてくれ」と幸之助を訪ねてきたのだ。「21世紀はアジアの時代、中国の時代です」と幸之助は即座にこれを引き受けた。当時の日本に賛同するメーカーはなく、松下電器一社で日本企業として戦後初の中国工場の建築に踏み切った(1987年)。40年前に今の中国を予測していた経営者の先見性には驚くばかりだ。⑲「政治に関心を持つこと」では、70億円の私財を投じて松下政経塾を創設。中国にしても、政治にしても、経営者の目線は足元ではなく、ずいぶん先を見ていることを改めて教えられる。
最後が、⑳「素直な心になること」。仕事がうまくいかないとき、「あいつのせいだ」と思っていても決してうまくいかない。物事がうまくいかないとき、他人が悪いのではなく、自分の目が色眼鏡で曇っていないかを見つめなおす。先入観をもって眺めていないかを素直に考えることが大事だということだ。
『実践経営哲学』は普遍的な経営思想として多くの読者に読み継がれ、語り継がれていくのだろうと思う。
リーダーの心得十カ条
幸之助が考えるリーダーの心得については、後年の編集によって次の十カ条が挙げられている。
①仕事・商売を公事と心得る
②すべて最終的に自分の責任と心得る
③率先垂範する
④人材育成を重要任務と心得、実践する
⑤部下が働くのを邪魔しない
⑥適正、実力に見合った仕事に取り組む
⑦人情の機微に通じる
⑧いざというときの覚悟を日頃からもつ
⑨心配こそ生きがいと心得る
⑩仕事を好きになる
会社は社会の公器であると言われるが、幸之助は①「仕事も公事と心得よ」と言う。自分の仕事は公事であると自信を持つことができれば、勇気が持てるし、説得力も出る。「自分のためにやっているのではない」と堂々と言えることが力となる。それほど仕事を公の事と意識できるようになることが大事であるということだ。
仕事ができる人ほど意識していないのが、⑤の「部下が働くのを邪魔しない」だ。部下の文章をチェックして赤字だらけにしてしまう「赤鉛筆人間」になってはいないか。自分が部下だった時を思い出してみてほしい。そういうチェックマン上司に巡り会って、どれほどやる気が削がれたか。気がつくと自分が同じ立場に立っている。部下が働くのを邪魔するような、赤鉛筆人間にはなってはならない。
⑧「いざというときの覚悟を日頃からもつ」とは、地にいて乱を忘れずで、平和なときこそ危機を考えた作戦を立てておくことが大事だということだ。危機に至って慌てふためいて繕おうと思っても大きな力にはならない。
⑨「心配こそ生きがいと心得る」とはどういうことか。地位が上がって給料が上がるのは「心配料だ」と、幸之助は言った。地位が上がるほど、心配が増えるから給料が上がるのだ、と。リーダーになると半分以上は自分以外の周囲の人のこと、部下のことを考えるように切り替わらなければならないから、心配も増えるし、悩みも深まる。それは給料のうちだということだ。
「出世のコツはなんですか?」と聞かれて、「コツは二つある」と幸之助は答えたそうだ。一つは愛嬌があること、もう一つはその仕事が好きになることだ、と。愛嬌とはお客様を意識した自分であれということだろう。経理だから、人事だから、企画だからと、お客様視点を忘れては、それはもはや仕事ではない。そして何物にもまして⑩「仕事を好きになる」、仕事にほれ込むことが出世のコツ、つまりリーダーになるための心得であると言っている。
一方で、リーダーに向かない人の5項目を幸之助は残している。①私心が強い人、②人の心のひだがわからない人、③情緒的にものごとを考える人、④責任を回避する人、⑤細かいことにでしゃばる人。この五つはリーダーの気質としては向いていないと言っているようである。
倒れても、倒れても逃げずに正面突破する
ここで私の体験を少しお話ししよう。2000年に私が取締役になった翌年、会社は上場以来初の赤字になった。真っ逆さまという坂が、目の前に大口を開けて待ち構えていた。そうした会社の状況もあって、私は上司である社長との対話が徐々にできなくなっていった。それでも指示は矢継ぎ早に降りてくる。そうしたときは、ちょっと身をかわして逃げたほうが楽な場合が多い。しかし不器用な私は正面突破しようとして、叩かれ、倒れることの連続だった。
「患難は忍耐を生じ、忍耐は練達を生ず」という冒頭で紹介した言葉は本当である。倒れても、倒れても、倒されそうになっても逃げずに正面突破することを続けていると、だんだん強くなる自分に気づく。肚が座っていく自分に気がつく瞬間がある。会社員生活の中では、苦しいことも多い。身をかわしたほうが賢いと思うこともあるだろう。しかし、一度逃げると一生逃げる人生になってしまう。だから、どうか逃げずに正面突破していく姿勢を貫いてもらいたいと切に願う。
CFOに求められるもの
CFOには、対応する人で考えた場合、「トップ」「外部」「従業員」「経理」の大きく四つの局面がある。この四つに対して、CFOはどのような立場が求められているのだろうか。
一つ目の「トップ」に対しては、「経営戦略の補佐・提言、女房役とガバナンス」が求められる。M&Aや企業価値の向上、財務体質の向上については、CFOの責任が大きく、体を張って守らなければならない場面が出てくる。そこでへなへなと崩れては、ガバナンスという観点が抜けてしまう。基本的にはCFOはトップスタッフ(経営者)という立場に立って、CEOと共に歩むことが大事だが、時にはCEOがアクセルを踏む一方で、CFOが急ブレーキをかけなければならないときもある。非常に微妙な問題でバランスが難しい部分だ。
二つ目の資本市場という「外部」は、経理部長や財務部長として見ているだけではわからない場面がある。私もCFOの立場になって、初めてこの独特の外部環境と接した。ここで求められるのは「的確で継続的なディスクロージャー」である。私は入社以来、電池事業部門で、「銭・厘・毛」単位の徹底したコスト管理を叩き込まれてきた。しかし、CFOになったとたん土俵が変わった。求められるのはコストとP/Lではなく、キャッシュフローとB/Sになった。残念ながら私は、キャッシュフローとB/Sの勉強不足がすぐさま露呈して、ずいぶん苦しんだ経験がある。必要に迫られて遅まきながら集中して勉強したが、CFOを目指す人は若いころから自覚して、一流の人たちにトレーニングを受けることが大事だと今改めて思う。
三つ目の「従業員」に対しては、「正しい情報伝達と仕組みづくり」が求められる。ここで必要となるのが、皆の知恵を集めて仕掛けるプロデュース力だ。私はCFO当時、事業部ごとに番付表をつくり、番付で競い合うという競争原理を持ち込んだ。番付表は幹部会で常に公開して、お互い切磋琢磨していった。従業員に対する、そうしたわかりやすい仕組みづくりを行うのもCFOの大事な仕事の一つである。
四つ目の「経理」については、「人材育成」に尽きる。どれほど優れたCFOであっても、たった一人でできることは知れている。皆の力を結集することの大事さを常に意識しながら、後継者育成等を含めたプロ人材の育成を心しなければならない。
これら四つの難しい立場の中核として求められるものに加え、CFOにはもう一つ重要な役割がある。CFOはChief Financial Officerであるが、同時にChief Focus Officerでもある。今、どの経営課題に焦点を当てて取り組むべきか、優先順位をどうつけていくべきかを考えるのがCFOの重要な務めであろう。
経営課題は常に山積し、社内外からの声、社長からの指示のすべてに応じることは到底不可能だ。100個課題がある中で、10個を選んで優先順位をつけて実行し、残りの90個は捨てるほどの取捨選択をしてフォーカスを絞り込む。何もかもやろうとすると、アクセントの効かない仕事になり、すべてが中途半端に終わってしまう。その時々に応じた優先順位を作り上げるのは、トップスタッフたるCFOの大きな役割であると感じている。
私が大事にしていること
最後に私が「大事にしていること」を、お伝えして本日の講演の結びにしたい。
【難しいことを易しく】
一つ目は、「難しいことを易しく」。これは存外難しい。かつて社長に「税効果会計」について説明したことがある。いろいろな場面で事例にぶつかったとき「税効果とはこういうものです」と説明したが、「わからない」と言われ続けた。「わからないのなら仕方がない」では、済まないのがCFOである。従業員にも幹部にもトップにも「わかってもらうのが自分のミッション」だという心がけが必要であり、ミッションを果たすには難しいことを易しく語らなければならないのだ。
その頃、私は毎週土曜日、欠かさずNHKの『週刊こどもニュース』を見ていた。アナウンサーが例えば「今日は日銀について話します」と言うと、頭の中で自分なりの説明の仕方が瞬時にひらめく。しかし、そのアナウンサーは、私が想像もしなかったような模型をつくって、難しいことを子どもが興味を持ち理解できるように説明するのだ。それが池上彰氏であった。彼の説得力ある説明の仕方、難しいことを易しく語れる力にはいつも感心させられた。
会社勤めを続ける中で、私は自分一人でできる仕事は何もないと痛感していた。自分の考えを相手に伝え、説得し、相手が頷いて納得してくれて、行動を起こしてくれて成果が出て、初めて仕事は完結する。仕事とは、自分の考えを相手に伝えるところからスタートする。そうした姿勢をもって、易しく語れるまで勉強し続ける。相手と対等では教えることは難しい。相手の3倍ほどの力がなくては、相手が「わかった」とは言ってくれないのだから。
【本質的・中長期的・多面的に】
二つ目は「本質的・中長期的・多面的」である。かつて先輩から、「会社でポストが上がるごとに大事なことがある。それは軸をぶらさないことだ。そのためには若いころから“本質的・中長期的・多面的”にものごとを考えるようにしろ」と教わった。
「どんなに小さな事柄でも、本質的・中長期的・多面的な目で物事を見る癖をつけなさい」ということなのだ。
ところが、我々平凡な人間は往々にして全部これの逆になる。本質的どころか、物事の枝葉末節ばかりが気にかかり、中長期的な先のことよりも、今日明日のことが気になって仕方ない自分に気がつく。
経理しか経験がなくても、努めて「多面的」に物事を見る。例えば技術部門の人が専門分野の決裁を持ってきたとき、専門知識の説明をいくら受けても私は理解できないことが多い。理解できないけれども、「本質的・中長期的・多面的」の三つを意識しながら相手に質問すると、相手も一生懸命答えてくれる。それによって物事の本質にぶち当たることがずいぶんあった。
そうした意味では、判子を押す時間というのは、ビジネスプロセスの一つとしてではなく、仲間づくりの場として、自分の意図をわかってくれる相手との対話の時間としての役割が大事であろうと思う。経理の中であれば、部下との対話の中で物事の見方を教え、自分も学ぶ。そうした時間をぜひ大事にしていただきたいと思う。
【事前の一策は事後の百策に勝る】
三つ目は「事前の一策は事後の百策に勝る」。「しまった!」と思って失敗した後に100の手を打つよりも、事前にたった一つのちょっとした手を打って失敗を防ぐことの大事さは、皆さん公私にわたって経験されていると思う。会社全体の大きなリスクに対して、事業部ごとに、チームごとに極めて重要な事前の一策を講じることができる。それは風通しのよい組織づくりだ。見えざることを見ようとする目、聞こえざることを聞こうとする耳と注意力を持ち、提案を受け入れる力を持っているリーダーの下では組織の風通しがよくなる。この風通しのよい組織こそが、大きな会社のリスクを防ぐ事前の一策となるのである。
【My Story】
最後に四つ目の「My Story」について。例えば、社長が「火の用心」と言ったとする。その「火の用心」という言葉が、副社長、本部長、事業部長、部長、課長、現場の担当者にまで、瞬時に伝わっていくことに、何か素晴らしい点があるだろうか。確かにスピード感はあるだろうが、それだけでは意味がない。
社長が「火の用心」と言ったら、自分にとって、あるいは自分のチームにとっての「火の用心」とは何かを各自が考える。例えば、本部長であれば消火装置が全社適切に配置されているかを考え、人事であれば消防訓練や研修はどうかと考え、経理であれば保険はどうかと考える。トップの方針に対して、自分のチームでなすべきことを、自分の言葉で、自分のStoryでメンバーたちに語る。それがトップの方針をリーダーの意思を持って伝えるということであり、それができればチームは大いに活気を帯びてくる。
My Storyは一朝一夕で身につくものではない。私は病気を契機に日記をつけ始めた。今は3年日記をつけている。私が日記をつけ始めたのは遅かったが、ぜひ若いうちから日記をつける習慣をつけてほしい。今日の話の内容はすべて忘れてもらっていいから、たった一つだけ、1日の終わりに1日を振り返る時間をもつことだけ覚えておいていただきたい。就寝前の10分でいい。起床後の10分でもいい。今日、私は夜床に入る前、「CFOラボで皆さんにお話しした」と日記に1行書く。それだけでさまざまな事柄を思い出し、いろいろな人の顔が思い浮かぶ。
人間は忘却の動物で、1分間で25%忘れるという。1時間で半分、1日経つと75%忘れるそうだ。だから、「その日のうちに感謝と反省をしなさい」と幸之助は言っている。反省すべきことは山ほどある。明日になれば75%は忘れてしまうが、その日の夜なら覚えている。
もう一つの感謝は案外難しい。本社経理部は、世界中に資料を発信すれば自動的に資料が返ってくる。それの繰り返しが続くから、中枢にいる人間は仕事とはそういうものだと思いがちだ。実際はどうか。遠く離れた世界の果てに出向している人が山ほど苦労して、日本から次々に投げられるボールをすべてキャッチしてくれている。日本のさまざまな部署から飛んでくる球を全部拾って、現地の言葉に訳しながら苦労して伝えてくれているのだ。そうした相手に思いを馳せることなく、感謝の気持ちもなく、当然のこととして続ける仕事に、魂が入ることはないだろう。
情報という字は、情に報いると書く。情に報いるために、相手のことを思いながら仕事をすれば、「ありがとう」の一言があって然るべきだというときがずいぶんある。簡単なことで、本来であれば自然と言葉になるはずが、恩義ある人への感謝の一言を私たちはついつい忘れがちだ。逆に恩を与えた側は、しっかりと覚えているものだ。小さなことにも感謝を忘れず、心をつないでいくことをすれば、相手ばかりでなく、だんだんと自分が見えてくるような気がするのだ。
信用を築くのは何年もかかるが、壊すのは簡単だ。小さな約束を3回破ればいい。うっかり忘れて信用を失うことのないよう、失敗を忘れぬよう、感謝の気持ちを忘れぬよう、それらをひっくるめて自分の言葉で語れるように、騙されたと思って今日からでも日記をぜひつけてみていただければと思う。
「Clean hands Cool head but Warm heart」
私はこれを自分の標語としてきた。「Clean hands」(清潔な手)は経理として当然のことで、言行一致ということでもある。言っていることは素晴らしいが、やっていることは尊敬できないというのでは、Clean handsとは言いがたい。リーダーは常に後姿を見られており、そこで値打ちが決まってくる。部下が背中を見たときに尊敬できるリーダーであるためにも、Clean handsを大事にしたい。「Cool head」は数字で判断する冷静な頭、あるいは平常心と言ってもよい。組織における「Warm heart」とは、優しい気持ちとか暖かい心ではなく、「相手のことをどれだけ理解しようとしているか」であろう。これは、どこの国にいても、どのようなビジネスにおいても通じることであると痛感してきた。
これらのことを心の隅に置いていただくことで、経理財務を担う方々の明日からの仕事の一助となれば幸いである。なお、本日の内容は日本経済新聞出版社発行の『女房役の心得–松下幸之助流お金の「教科書」–』(川上徹也著)に書いた内容のごく一部である。詳しくは本を読んでいただき、少しでもお役に立てば幸甚である。
本日はありがとうございました。
※本稿は、2017年3月28日開催の「CFOラボ発足記念講演会」の講演内容を編集部にてまとめたものです。
2017年5月15日