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2015年10月15日 

コーポレートガバナンスとオブジェクトファイナンス

森本 紀行

HCアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長

 コーポレートファイナンスでは、調達資金の活用については、使途も含めて広範に企業の経営裁量に委ねられる。だからこそ、銀行や投資家等の資金を供給する側の立場からいえば、コーポレートガバナンスが重要な問題になるのである。

 もちろん、企業は資金調達に際して使途等を示す必要があるのだが、具体的な執行計画については、経営が強く拘束されるものではないし、そもそも、調達目的の適正性や調達方法の合理性の判断は、最初から経営に全面的に委ねられている。

 コーポレートファイナンスは、企業経営に対する資金供給側の全面的な信頼の上に成り立つものである以上、逆に、万が一の場合には、企業資産の全体をもって資金供給側の権利が保全されなければならないのである。この仕組みは、資金の供給側と調達側との間の全体的な相互信頼に基づくが故に、双方におけるコーポレートガバナンスの確立がない限り、維持し得ないのである。

資金使途を特定したファイナンス

 コーポレートファイナンスは、コーポレートガバナンスに決定的に依存する。故に、当然のことながら、一つの方向として、コーポレートガバナンスの高度化が求められるのだが、もう一つの方向としては、コーポレートガバナンスに依存しない方法を工夫することも必要であろう。それが、オブジェクトファイナンスである。

 オブジェクトファイナンスは、その名の通り、資金調達の目的(オブジェクト)を特定し、資金供給側はそのオブジェクトに対してのみ、それに相応しい方法で資金を供給し、万が一の場合にもオブジェクトについてのみ権利を取得するものである。

 企業活動は、多数のオブジェクトの集合である。コーポレートファイナンスでは、企業が資金を纏めて調達し、自己の裁量でオブジェクトに配賦する。オブジェクトファイナンスは、最初からオブジェクトを独立させて、オブジェクトごとに資金を調達する。二つはコーポレートガバナンスの視点において全く異なる。

オブジェクトファイナンスと倒産隔離

 一般に、規制緩和は、金融の立場からは二重に困った問題である。規制に守られていた既存業者の破綻確率を大幅に引き上げる一方、新規参入業者は、新規参入であること自体において投融資の取り組みが困難だからである。そこで工夫された代替的な金融手法が、代表的なオブジェクトファイナンスとしてのオペレーティングリースである。

 航空機を例にとろう。空運産業の世界的な規制緩和は、一方でLCCのような新規成長分野を生み出したが、他方では大手の空運会社でも、ごく簡単に倒産してしまうという事態を招いた。巨額な設備投資を要する産業だけに、資金調達は極めて重要なのだが、同時に資金供給は極めて困難である。

 故に、航空機のオペレーティングリースが利用される。オペレーティングリースであれば、空運会社が経営破綻しても、貸している航空機を回収して別の会社に貸せばいいだけで、面倒な破綻処理を回避できるからである。こうして、空運産業に限らず規制緩和が進行している分野では、オブジェクトファイナンスとしてオペレーティングリースが多用されているのだ。

 また、エネルギー関連等の資源開発、大規模不動産開発、インフラストラクチャー開発など、巨額な資金を必要とするものは、開発事業者へのコーポレートファイナンスでは、与信の集中等の量的な限界が露呈してしまう。こういう場合にも、オブジェクトファイナンスが多用されている。

 なお、特殊な例だが、企業のもつ特定の危険から遮断するためにもオブジェクトファイナンスは使われる。例えば、原子力事業をもつ電気事業者に対してコーポレートファイナンスを用いれば、資金供給側は、原子力も含めた危険を負担することになるが、特定の火力発電所等を対象にオブジェクトファイナンスを行えば、原子力にかかわる危険を遮断できるからである。

CFO機能の限界とオブジェクトファイナンス

 もしも、極めて有能な企業財務責任者(CFO)がいて、コーポレートとして調達した資金を、各事業部の各活動(オブジェクト)に対して最適な資本費用で最適な金額を配賦することができれば、財務的側面における最適なコーポレートガバナンスが実現するはずである。しかし、それは通常の企業においては、物理能力的に、また組織工学的に、達し得ない理想の境地である。

 それに対して、資金調達をオブジェクトファイナンスに切り替えていけば、各オブジェクトファイナンスは単純な構造をもつので、その最適性を実現することは困難ではなく、結果的にコーポレート全体の調達の最適性も実現しやすくなるはずだ。

 また、オブジェクトファイナンスを徹底的に推進すれば、どうしてもコーポレートに残らなければならない最低限の資源、まさに企業を支える競争力の源が明確になる。

 例えば、空運産業においては航空機の性能は所与であり、そこに企業競争力が存しないことは明瞭であるからこそ、航空機の所有が不要になった側面がある。ならば、航空機なきあと空運会社に残された資源にこそ、企業競争力が集約されていることが明らかとなるはずである。

コーポレートガバナンスとオブジェクトファイナンスの限界

 危険は分散して管理すべきか、分離特定して管理すべきか、という難しい問題がある。コーポレートファイナンスでは、危険はコーポレート全体に分散されているが、オブジェクトファイナンスにおいては、特定のオブジェクトに分離集中されている。どちらが適切に危険を管理できるかは、管理すべき危険の性格に応じて選択するほかない。

 電気事業を例にとれば、電源ごとの危険に対して金融をつけるほうがいいのか、全ての電源を合算した電源構成の総体に金融をつけるのがいいのか、そもそも発電を分離して金融をつけることがいいのか、電気事業の全体に金融をつけるのがいいのかは、難解な問題であって、要は電気事業政策全体のなかで決するほかはない。

 また、金融とは、事業上の危険について事業経営者に管理を一任してこそ成り立つものではないのか、という高度な論点もある。もしもそうなら、金融の原則は、危険管理機能としてのコーポレートガバナンスを前提としたコーポレートファイナンスにならざるを得ない。そうでなく、特定の危険にも直接に金融が可能ならば、オブジェクトファイナンスの余地が大きくなる。

 例えば、オペレーティングリースにすると、物自体の危険、代表的には技術革新に伴う陳腐化の危険は、金融側が直接に負担することになる。しかし、この陳腐化の危険は、コーポレートファイナンスでも間接的には負担しているわけで、これも案件次第での選択となるはずである。

2015年10月15日

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