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2023年8月18日 

そう旨くない羊羹が
寂びた九谷の鉢に盛られるとき

森本 紀行

HCアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長

 夏目漱石の「草枕」(1906年)の主人公の画家は、「余は凡ての菓子のうちで尤も羊羹が好きだ」というが、実は「別段食いたくはない」のであって、「あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ」というわけだ。特に、「青磁の皿に盛られた青い練羊羹は、青磁のなかから今生れた様につやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる」と感じられるのである。

 谷崎潤一郎は、「陰翳礼讃」(1933年)のなかで、「嘗て漱石先生は『草枕』の中で羊羹の色を讃美しておられた」とし、「あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる」と書き、さらに「人はあの冷たく滑らかなものを口中にふくむ時、恰も室内の暗黒が一個の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う」としている。

2023年8月18日

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