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2022年10月17日 

ハードボイルド資本論

森本 紀行

HCアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長

 ジョン・D・マクドナルド(1916-1986)は、トラヴィス・マッギーを主人公にした小説のシリーズが翻訳されているから、少数の人には知られているはずである。しかし、1956年の“April Evil”という作品については、誰も知るまい。これは、富豪の家に凶悪な強盗が押し入る犯罪を描いたもので、小説としても快作だが、実は、深い哲学的な含蓄にも富んでいる。

監禁された資本

 強盗の被害者は、不動産事業で成功し、今は引退している富豪である。現役時代には、富豪は実業家として懸命に働き、資本として実業に投じられていた自己資産は、富豪自身の手で適切に稼働させられて、増殖していたはずである。資本主義の原理とは、資本家が投じた資本の自己増殖の運動に他ならないのである。引退とは、自分で資本家として働くことをやめて、投下資本を金融資産として回収し、投資家に立場を変えて、幅広く様々な実業に投資して、資産を働かせて、資産所得で安穏に暮らすことである。しかし、この富豪の場合は、自分の引退に合わせて、回収した資産をも引退させて、働けないようにしたのである。つまり、全資産を現金化して、即ち札束に変えて、自宅の金庫に入れてしまったわけだ。札束にしたのは、銀行預金にすれば利息を産んでしまう、即ち資産が働いてしまうからである。

2022年10月17日

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