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2016年11月15日 

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任意の指名委員会が急増するワケ

磯山 友幸
経済ジャーナリスト
元日本経済新聞記者

 10月8日付けの日本経済新聞が報じたところによると、社長など経営陣の人事を議論する「指名委員会」を設置する企業が急増、10月7日時点で600社を超えたという。同じく日経新聞が報じた5月17日時点での設置企業数は475社だったので、5カ月で一気に125社も増えたことになる。ちなみに2014年は120社程度だったというから、日本企業でも指名委員会の設置が当たり前になってきたと言える。

 もっとも、この指名委員会、大半が法律で規定された「指名委員会等設置会社」に基づいたものではない。企業が任意に設置しているもので、法的な裏付けはないものだ。日本取締役協会の統計によると、指名委員会等設置会社は8月1日現在で71社と、昨年末に比べて2社しか増えていない。

 欧米の仕組みを導入した指名委員会等設置会社は日本では人気がない。2003年4月の改正商法特例法によって導入された「委員会設置会社」が前身で、指名、報酬、監査の3委員会の設置が義務付けられている。しかも、それぞれの委員会は過半数が社外取締役で構成される必要があり、決定には法的拘束力が生じる。つまり、社外取締役が過半数を占める指名委員会で次期社長が決まる仕組みになっているわけだ。

 いわば「よそ者」である社外取締役に社長人事の最終的な決定権限を握られることに、現在の経営者が強い拒否感を抱いたわけだ。13年たっても導入企業3桁にならない理由はそこにある。

 そんな中で2015年に施行された改正会社法で監査等委員会設置会社が導入され、監査委員会のみを法律で定める委員会会社の仕組みが出来上がった。いわば日本型の委員会設置会社である。この導入に伴って、従来の委員会設置会社は指名委員会等設置会社へと名前が変わった経緯がある。

 問題は、日本型の監査等委員会設置会社に移行する企業が急増する中で、本当にこの仕組みがコーポレート・ガバナンスの強化につながっているのか、という疑問が生じたことだ。従来からある監査役設置会社の方が、監査役の独立性が高く、監査役室スタッフなどもいて、チェック機能が高かったのではないか、というわけだ。さらに、指名委員会がない委員会設置会社について海外機関投資家などの間でも問題視する動きが出始めていた。

 そんな中で、「任意」の指名委員会設置が相次いでいるのだ。2015年6月に導入されたコーポレートガバナンス・コードが、監査等委員会設置会社などの場合に、以下のような表現で「任意の仕組みの活用」をすべきだと定めていることも大きい。

 「経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである」

 問題は、こうした任意の指名委員会が、コードが求める「独立性・客観性と説明責任を強化する」役割を担っているかだ。任意の指名委員会の運用は各社によってバラバラである。社長など現在の経営陣が委員の選任を牛耳れば、実質的に社長が後継者を指名できる体制になってしまう。中には、メンバーの名前すら公表していない企業もある。

 一方で、取締役会との関係もあいまいだ。任意の指名委員会の場合、法的拘束力はないため、本来ならば取締役会がきちんと議論して人事を決定すべきだ。ところが少数の指名委員だけで密室で人事が決まり、取締役会は追認するだけというケースもあるようだ。指名委員会のメンバーを選ぶ権限を現社長が握ることで、人事を意のままに操ることが可能になってしまう。社外取締役の意見を重視して「独立性・客観性と説明責任を強化」すべきだというコードの趣旨から大きく外れてしまうことになる。

 監査等委員会設置会社に移行したうえで、任意で指名委員会を設置するのならば、初めから指名委員会等設置会社に移行すればよい。そうしないのには明確な理由があると考えれば、要は社外取締役に人事を握らせたくない、という意思の表れだとみていい。社長が人事権を持っているから皆が言うことを聞くのだ、という伝統的な日本流の経営スタイルに固執している会社が少なくないということだろう。

2016年11月15日

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