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2023年11月1日 

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人事マネジメント・サーベイ

人的資本経営に向けて
-CHROサーベイ2023調査結果より-

 いま、企業の価値は人的資本、すなわち人材が持つ無形の力によって大いに左右される時代に入っている。自社の経営理念や企業文化にふさわしい人材を獲得し、適切な人材戦略のもとで組織全体のパフォーマンスを向上させることが、これまで以上に企業経営の未来を決定づける。この役割を担うCHROが求められているのには、こうした背景がある。また、グローバルに広がる環境、社会、ガバナンス(ESG)への取り組みの高まりは、資本市場のみならず、CHROが直面する労働市場にも大きな影響を与えており、持続可能な未来への挑戦は、人材という無形資産の最大化とともにCHROが担う経営課題の新たなフロンティアとなっている。

 こうした背景を踏まえ、あらためてCHROサーベイを実施し、CHRO機能の強化がどの程度進んでいるのか実態調査を行った。前回のCHROサーベイは、まさにコロナ禍が始まって間もない2020年前半に実施したが、コロナ禍を通じてどのような変化が生じているかも含め見てみたい。

[調査の概要]

テーマ:人的資本経営に向けて-CHROサーベイ2023-
主催:一般社団法人日本CHRO協会
協力:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
調査実施期間:2023年4月6日~2023年4月27日
調査対象:日本企業のCHRO及び人事・人財部門の幹部
調査方法:インターネットによるオンライン調査
有効回答数:91社
※総回答数199社のうち、回答者が部長職以上の回答に限定してご紹介する。

[回答者のプロファイル]

グループ従業員数:5,000人以上33%、1,000人以上30%、999人以下37%
業種:製造業31%、非製造業69%
属性:CHRO27%、人事担当役員34%、人事部長クラス39%
※CHROを設置していない企業の場合は、準じるポジション(人事領域トップ)を念頭に回答いただいた。

CHROの設置状況

 まずはCHROの設置状況を見てみよう(図1)。CHROが設置されている企業は30%にとどまっている。人事担当役員がいない企業も20%という状況だ。

CHRO_54_survey_fig_01

 2020年9月にいわゆる人材版伊藤レポートが経済産業省から公表され、人的資本の重要性とともにCHROの設置が求められたことに加え、その後人的資本情報開示が義務付けられるなど、政府主導での取り組みが進められてはいるものの、CHROの設置は依然として進んでいないようである。

 有価証券報告書に人的資本の開示が義務付けられ、人事部門がデータを収集して開示への対応を進めたところで、この状況では企業価値向上は望めない。

 そもそも、人的資本に注目が集まったのは、海外投資家が企業に投資をするにあたり、将来キャッシュフローの源泉として、人材に着目したことによる。一人の優秀な人が考えたアイデアやコンセプトが会社のビジネスを大きく変える時代に入っているのだ。情報、サービス産業が増えている現在、バランスシートの左側、資産をいくら見たところで、会社が生み出す価値は見えてこない。特許や知財といった無形資産に投資家が注目する流れが生まれ、会社で働いている人材についても知りたいという方向に進んでいるのは極めて自然な流れである。また一方で、行き過ぎた資本主義のゆがみがESG投資というトレンドを生み出し、S(Social)の一環として、人権問題やダイバーシティの観点からも人の情報に対する投資家の関心が高まっているという背景ももちろんある。いわゆる目に見えないもの、バランスシートには現れないものに対する関心として、財務情報ではなく非財務情報への注目が集まる所以である。

 したがって、企業の経営戦略が見えてこないような人事戦略、人事施策、人事の現状を開示したところで何も変わらない。経営の目標が達成されるべく人事面の取り組みも進めなくてはならないわけで、投資家が注目しているからというような話ではなく、経営のために取り組む必要があることを企業が認識していかなければ元も子もない。

 そもそも、CHROは人事担当役員とはその機能が全く異なる。CHROは、人事部門や人事の仕事の延長線にはなく、経営チームの一員として人事の観点から経営をリードする経営者だ。経営の観点から人事機能を動かしていくことが重要であることを考えれば、CHROの設置が進んでいないのは人事部門の問題というよりは経営の問題だろう。

重視されている人事戦略テーマ

 では、具体的にどのような人事のテーマが重要視されているのだろうか(図2)。

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 「目指す人材ポートフォリオの構築とその実現」(59%)、「リーダーシップの強化」(49%)、「人材育成」(46%)が上位に挙がっている。コロナ禍で消費者の価値観や行動も変わり、またデジタルテクノロジーがさらに進歩している中にあって、いわゆるパーパスと呼ばれている経営理念や経営ビジョンにまで戻って再出発している会社も多くある。パーパスが再定義されるのであれば、当然、目指すべき企業文化も変えていく必要はあるだろうし、経営戦略も変わっていくだろう。パーパスや戦略を見直していく中で、人材をどうしていくのか、CHROが企業文化とあわせて議論していくことが重要であるのだが、CHROが機能していない会社では、パーパスや戦略が作られたあとで、あわててそれに合わせた人材をどうやって育てていくか頭を悩ますことになっているのではないだろうか。

障壁となっている課題

 上記の人事戦略を進めるにあたって障壁となっているものは何かを聞いてみた(図3)。

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 「取り組みを実施する実務者が不足している」(67%)という回答に続いて、「取り組みを実施する組織体制が整っていない」(44%)というのも目立つ。人材ポートフォリオを再構築し、次世代リーダーを含めて人材を育成していかなければならないのに、それに取り組める人材がいないというのは何とも皮肉な状態だ。人材ポートフォリオの中に、人事を変革できる人材は想定として入っていないのかもしれない。CHROがいなければ、人事変革の組織体制も整わないのは間違いないだろう。CHROもいない状態で人事の変革を求められても、人事部門ではとても対応できないということではないだろうか。

CHROの役割

 何がCHROの役割と認識しているかを聞いてみた(図4)。CHROを設置していない企業の場合は、準じるポジション(人事領域トップ)を念頭に回答いただいている。

CHRO_54_survey_fig_04

 「事業戦略と人事戦略の統合」(84%)が突出している。人材版伊藤レポートでも「経営戦略と人材戦略の連動」がクローズアップされており、まさにこれこそCHROの役割の筆頭というところだろう。実際に、2020年のサーベイでも、「経営と密接に結びついた人事戦略がある」と回答したのは58%にとどまり、CHRO機能がない企業だけで見ると47%であった。

 続いて多かったのは「戦略目標達成のための組織開発の検討・実行」(60%)、「戦略目標にアラインした組織文化の醸成」(58%)である。いかに戦略を支援できる人事へと変革するのかがCHROの役割だと認識していることがわかる。ちなみに、CHROを設置しているという会社だけで見ると(図5)、「戦略目標にアラインした組織文化の醸成」は81%、「戦略目標達成のための組織開発の検討・実行」は78%と突出してくる。組織文化の醸成や組織開発の検討・実行は、当然すぐに成果が上がるようなものではない。CHROがいる会社では、早くに結果が出ないからこそ、早くから取り組んでいることが見えてくる。CHROの設置がいかに重要な意味を持つか、これだけを見てもよくわかる。

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過去からの変化

 また、図4で目立っている「事業戦略と人事戦略の統合」「戦略目標達成のための組織開発の検討・実行」「戦略目標にアラインした組織文化の醸成」は、過去と比べてどうかという質問でも、全体的に増大していることがわかる(図6)。今後強化していきたい役割という質問でも「事業戦略と人事戦略の統合」は86%と断トツである。これこそがCHROの役割として今後も期待されるようだ。

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 ちなみに、事業戦略と人事戦略を統合するというCHRO機能を発揮するためには、事業部門にHRBP(人事ビジネスパートナー)という機能が必要だ。HRBPは、CHROのもとで事業部門やコーポレート部門等と幅広く連携し、事業戦略の観点から様々な人事施策を立案・実行する役割で、先進企業では続々とその機能の実装も進められている。従来型の事業部内の人事担当のように、従来の事業の延長線上で人事オペレーションを行うのではなく、今後の経営・事業戦略について全社最適の観点から組織・人材のパフォーマンスを最大化させることがHRBPの役割だ。

 CFO(最高財務責任者)がその役割を果たすための機能として、FP&A(Financial Plannning & Analysis)が注目され、先進企業では次々と導入が進められているのと同じく、HRBPもCHROの傘下で事業戦略を人事面からリードしていく機能として、いままさに注目されている機能である。弊会ではこのHRBP機能を日本企業が実装していけるよう、2020年より「HRBPプログラム開発プロジェクト」を実施している。どのような役割を担うのか、明確な定義のないHRBPについて、2023年、「HRBP職務記述書」を同プロジェクトの成果物として発表しているので、ぜひ参考にして欲しい。

(参考)HRBPプログラム開発プロジェクト2.0

終わりに

 今回のCHROサーベイ2023は、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社に協力をいただいた。同社が提唱している「4 Faces of CFO」では、CFOおよびCFO組織の役割を、「攻め」の役割であるストラテジスト(戦略立案への参画)、カタリスト(戦略実行の推進)、「守り」の役割であるオペレーター(取引処理の実行)、スチュワード(統制環境の整備)、の4つに分類している。今回、この分類手法でCHROサーベイについても分析していただいた。特にCHROが担う役割がどのように変化していくか、CFO機能が強化されてきた経緯と同様に考察しているので、ぜひこちらの分析結果も参考にして欲しい。

人的資本経営に向けた時代の転換点における未来型CHROのあり方とは
~人事責任者向け調査「CHROサーベイ2023」結果発表~

(日本CHRO協会 谷口 宏)

2023年11月1日

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