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2017年12月15日 

「社会的インパクト投資」の
インパクト

森本 紀行

HCアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長

 資本主義経済は、資本の自律的な運動のみによっては、持続的な成長と富の公正な分配を実現できない。そこで、国家の積極的な介入による資源の再配置と所得の再配分が必要とされるのだが、それとても、日本の現実に象徴されるように、機能の限界に達しつつある感を否めない。

 そこで、資本主義の原理論がいわれる。政府の介入を最小化して経済の自律に委ねれば、市場機能によって資源と所得の最適かつ公正な配置と配分が実現するはずであって、政府の介入こそ市場機能を歪めて経済の非効率を招くものだというのである。

 しかし、経験的事実としては、資本主義経済は、資本の自律的運動に委ねる限り、市場原理を通じた自分自身の調整作用だけでは、ときに自分が作り出す非効率や不均衡を是正することができなくなり、停滞に陥ったり、バブル的状況とその崩壊を招いたりしている。

 やはり、市場の自律作用を補完し、補強し、補正する市場外部的な機能は不可欠なのである。ただし、その機能の主体は必ずしも政府である必要はない。政府の介入に替えて民間機能の活用を図ればいいのである。そこで、新たに求められてくるのが社会的インパクト投資である。

先進経済圏の病理

 さて、日本が特殊というよりも、先進経済圏全体として日本的な傾向にあることは間違いない。地球経済全体としても、絶対的な成長率の低下は不可避である。物質の充足には、どこかに満足の限界がある。他方、精神の充足には限界がないとしても、その経済効果は大きくはない。

 確かに、エマージング諸国には経済の自律的成長力の逞しさがあるかもしれないが、それとても、先進経済圏との間で、経済の自律性を超えた政治的連携のなかで、資源の再配置と所得の再配分が行われていることに依存する側面は否定できない。そして、なによりも、次なるエマージングとしてのフロンティアは遠くない将来に消滅する。

 技術は無限に進化するかもしれないし、さまざまな分野で革新をもたらす人間の英知にも限界はないのかもしれないが、効率化、小型化、省力化、軽量化、高速化は、必ずしも経済の成長につながらない。例えば、シェアリングが最高度に達すれば、物の生産額は最小化し、情報だけが移動して事が済めば、物と人の移動は不要になるからである。

 また、所詮、地球も人間も有限である。いずれ人類は宇宙に展開することで、あるいは生命の神秘を解明することで、全く別の仕組みのもとでの経済成長軌道を見出すであろうが、それまでは、今の資本主義経済の構造のなかで、創意工夫をしていくほかない。

社会的インパクト投資

 資本主義経済が作り出す代表的不均衡は、所得格差の一方的な拡大である。もちろん、悪平等こそ不公平な面もあり、所得格差は公正であり、公平ですらあり得る。しかし、一定限度を超えた所得格差は、不公正となり得るばかりでなく、低所得層の需要減退を招く可能性もあることから、福祉国家政策として、累進税率や補助等を通じた所得の再配分が行われているのである。

 問題は再配分の方法論である。伝統的な政府機能を通じた手法は、ガバナンスの欠如に基づく無駄の横行等の非効率を生み出しやすく、また、国境を越えた地球規模の所得格差には対応できない。そこで工夫されるのが民間資本の活用により社会的インパクト、即ち経済効果を創出する仕組みである。

 所得再配分政策が有効である限り、必ず社会的付加価値を創出しているわけだが、それは、例えば国民総生産の純増額のように、経済価値として測定可能なはずである。しかし、他方で、純粋な再配分で政府の財政負担がないとしても、膨大な行政機構を使う以上、大きな費用も発生している。そこで、創出された経済価値から費用を差し引くと、純経済価値が計算できる。

 さて、政府の費用支出は一種の投資であり、その投資の結果得られた効果が創出された純経済価値だから、二つの比として投資利潤率が計算される。もしも、この投資利潤率が理論的に十分に高いと推計されるのならば、民間の投資としても経済的に構成し得ることになる。そこで、民間の投資として再構成するとき、政府支出に相当するものが社会的インパクト投資と呼ばれるのである。

ガバナンス改善の経済効果

 もちろん、社会的インパクト投資によって経済的価値が創出されるにしても、それを分離抽出して金融的収益に還元することは、実務的には困難であって、精度の低い推計くらいしかできない。しかし、政策に要する費用は、より高い精度で計測できるから、政策実行に要する費用よりも少ないインパクト投資額で同等の経済効果を得ることができると推計されるときは、その差額をインパクト投資の経済効果と看做して、収益化できるのである。

 例として、低所得者層向けの住宅を考えよう。政策手法としては、公営住宅を建設して安い家賃で貸し出す、あるいは一定の要件を充足した人に住宅補助手当を支給するなど、さまざまな方法があるに違いない。他方、社会的インパクト投資として構成するならば、例えば、民間事業者が投資目的で所有する集合住宅に補助金をつけることができる。

 民間事業者としては、補助金を利用して市場実勢よりも低い水準に賃料設定を行うことで、本来は賃料が高すぎて入居できない人でも入居させることができる。こうすれば、高い稼働率を維持できて、かつ賃料収入は補助金を合わせれば市場実勢水準になっているので、優良な投資不動産物件に仕上げることができるわけである。

 要は、社会的インパクト投資が正当化されるためには、政府が直接に行う手法に比較して、同じ政策効果を実現するために政府が負担する費用が少なくて済むという要件を充足しさえすればいいのである。では、なぜ、費用が少なくなるかといえば、民間経営のもとで、ガバナンスの改善、専門的知見と経験の導入等により、効率化が図られるからである。

社会的インパクト投資の大きな可能性

 全ての政府の事業について、社会的インパクト投資に構成できるかどうかを検討することは、政府の事業のガバナンス改革や費用削減にとって、非常に有益だろう。構成しようのない事業は、非経済的な事業目的を明確化せざるを得なくなるし、構成できるものは、民間移転することで国民経済全体の効率を改善することができるからである。

 逆に、政府の事業としては難しくても、社会的インパクト投資になら構成できる分野もあるはずである。例えば、政府の事業として行うにはさまざまな制約が伴い実現が困難な領域、民間の自由な発想でなくては取り組めないような革新的で創造的な分野、政府の制度整備を行うには小さすぎたり多様すぎたりする分野、政府の領域外である海外での事業などが考えられる。

2017年12月15日

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