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増え続ける「内部留保」をどう成長に回すか

磯山 友幸
経済ジャーナリスト
元日本経済新聞記者

財務省が2015年9月1日に発表した2014年度の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の期末の利益剰余金は354兆3,774億円と1年前に比べて26兆4,218億円増えた。安倍晋三首相が推進するアベノミクスでは、企業が抱え込んだ内部留保を吐き出させることで、日本経済を再成長軌道に乗せようという狙いがあった。ここ数年進めてきたコーポレートガバナンスの強化も、そんな狙いを実現するための手段だった。

 円安による業績の改善で、企業収益は大きく改善。企業経営者もボーナスの増額やベースアップといった従業員への配分を増やしたり、配当や自社株消却などで投資家に報いる姿勢を強めている。内部留保を吐き出す姿勢を見せていたわけだ。ところが、全体としてみると、内部留保は依然として減らないどころか、1年で8%も増加してしまったのである。

 「何で企業は投資を増やさないのだろうか」と経済産業省の幹部は首をひねる。内部留保を設備の新設などに回させることで、経済の好循環が始まると考えているのに、それが動き出さないことに苛立っているのだ。アベノミクスの3本目の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」が成果を上げられるかどうかは、この企業の投資姿勢にかかっているわけだ。

 なぜ、内部留保が増えてしまったのか。最大の理由は企業が稼ぐ利益自体が大きく増加したことだ。1年間の純利益は41兆3,101億円と10%も増えた。円安による輸出採算の改善が大きく寄与している。リーマンショック前のピークは2006年度の28兆円余りだったので、それを大きく上回る過去最高水準の利益を記録したのだ。

 もちろん、企業も内部留保の分配に力を入れていないわけではない。株主に支払った配当の総額は16兆8,833億円と1年前に比べて17%増えた。純利益が10%増えた中で、配当を17%増やしたのだから、分配を強化していることは間違いない。

 背景には、アベノミクスの成長戦略の一環として導入されたスチュワードシップ・コードが効果を上げ始めていることがある。コードの遵守を表明している生命保険会社などは、株式を保有する際に、保険契約者などの利益を考慮することが求められている。旧来のように、経済的利益をあまり考えずに長年の付き合いで株式を保有してきた「政策保有」に対する目が一気に厳しくなったのである。

 生保など機関投資家がこぞって、株式保有の経済的見返りとして配当の引き上げなどを求めたことから、企業が利益のうち配当に回す割合が増加した。純利益のうち配当に回した割合は41%と、前の年度の38%に比べて上昇した。

 だが、企業が目一杯配当しているか、と言えばそうではない。利益が最大だった2006年度の配当額は16兆2,174億円で利益の58%を配当に回していた。まだまだ企業には配当余力がある、ということになる。

 企業が将来の事業に対して振り向ける設備投資も増えていない。従業員ひとり当たりの有形固定資産額である「労働装備率」は1,081万円。前の年度より低下している。儲かったからと言って企業が積極的に投資をしているわけではないのだ。

 政府は10月16日、企業に積極的な投資を促すための「官民対話」の初会合を開いた。今年6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2015」に盛り込んだ、官民対話の場の設置を実現したものだった。会議には安倍首相ほか関係閣僚と、経団連の榊原定征会長ら経済3団体のトップなどが出席した。

 安倍首相は「今こそ企業が設備、技術、人材に積極果敢に投資すべきだ」と強調したが、経済界の反応は今ひとつ。「投資拡大のためには法人税率の早期引き下げや前倒し、規制緩和の環境整備が必要」(経団連の榊原会長)、「新産業の創造が不十分で、投資機会が乏しい」(経済同友会の小林喜光代表幹事)といった声が挙がった。設備投資など経営判断に政府が口を出すことへの抵抗感も強い。

 政府はこれとは別に、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの内容を検証するフォローアップ会議も進めている。6月の成長戦略に「コーポレートガバナンスのさらなる強化」が盛り込まれたのを受けたもので、コードを一段と強めることで内部留保を圧縮させたい考えだ。

2015年11月16日

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