2023年10月2日
アナリシス
SDGs経営と企業法務(14)
―グローバルサウスの多様な法体系―
阿部 博友
名古屋商科大学ビジネススクール教授
はじめに
ビジネスのグローバル化が進展し、SDGs経営の深化が求められつつある。わが国企業には、発展途上諸国に進出し、ビジネスを通じてその国や地域の発展、そしてSDGsの課題解決に向けて寄与することが求められている。かかるビジネスの進化の下で、企業法務にはインド、ブラジル、南アフリカなどの途上国または新興国、つまり、グローバルサウスの多様な法体系についても知見を深めていただきたい。
オタワ大学の研究(JuriGlobe)*1によると、世界の法体系はコモンロー、シビルロー、ムスリムロー、カスタマリーロー及びそれらの混合システムの5類型に分類される。ちなみに、JuriGlobeによると日本は、シビルロー及びカスタマリーローの混合システムの法域に位置付けられる。そして、JuriGlobeの全体を俯瞰すると欧州、ロシア及び中南米諸国をはじめとしてシビルローの法域が国や地域数においては優勢である。本稿においては、グローバルサウスの代表格ともいうべきブラジルの改正競争法を紹介する。
筆者は、ブラジルに駐在する機会を得て、その経験を活用すべくブラジル経済法研究に取り組んでいる。興味深いのは、ブラジルはシビルローの伝統を保持しつつ、欧州を中心とする伝統的シビルローとは異なる独自の法文化を形成している点である。本稿では、シビルローの法域*2に位置しながら、競争法関連私訴に懲罰的損害賠償制度を導入した2022年11月16日付法律第14.470号*3の検討を通じて、独自の進化を遂げるブラジル競争法のダイナミズムを紹介したい。
1.ブラジル競争法について
ブラジルにおいて、競争政策に関する初の経済統制法として現在のブラジル競争法の礎となったのは、1938年の法規政令第869号であった*4。その後、度重なる改正を経て、現在効力を有するブラジル競争法は2011年11月30日付法律第12.529号である。この競争法の執行を担っているのが、経済擁護行政委員会(以下「CADE」という)であり、法務省に属する組織ではあるが独立行政機関として活動している。
2023年10月2日