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CFOFORUM

2015年9月15日 

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●パネリスト(ご氏名50音順):
岩品 信明 氏
TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士・税理士
加本 亘 氏
ホーガン・ロヴェルズ法律事務所外国法共同事業 パートナー 弁護士/ニューヨーク州弁護士
近藤 章 氏
元AIGジャパン・ホールディングス 副会長
高原 宏 氏
元武田薬品工業 コーポレートオフィサー経理部長/EY税理士法人 シニアアドバイザー
ヒールシャー・魁 氏
国際税務コンサルタント
●モデレーター:
村田 守弘 氏
村田守弘税理士事務所代表
元KPMG税理士法人代表社員、 KPMGアジア・太平洋地域税務担当執行役員

日本CFO協会の国際税務部会は、国際税務部門の専門家や、企業経営者、CFO経験者を中心に当該テーマに関するさまざまな専門家をお迎えして、国際税務プランニングや国際税務実務上の課題について、参加者の皆様が議論をしながら相互研鑽できる場です。2015年6月10日に開催された第三回国際税務部会・拡大会「グローバル税務戦略フォーラム」パネルディスカッションでは、参加者からの質問に、経験豊富なパネラー(国際税務部会幹事)が答えました。その一部をご紹介します。

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Q:現地のタックスアドバイザーの選び方、活用の仕方は?

村田 国際税務部会では、国際税務部門の専門家や企業経営者、CFO経験者を中心にさまざまな専門家をお迎えして、国際税務プランニングや国際税務実務上の課題について参加者の皆さまと議論を交わしています。本パネルディスカッションでは、参加者の方々からのご質問に答えていきたいと思います。
 まず、国際税務の専門家をいかに登用し、活用するかという質問をいただきました。高原さん、いかがでしょうか。

高原 我々はたくさんのタックスアドバイザーの協力を得てきましたが、実は私が経理部長になる前、外部のタックスアドバイザーはほとんど使っていませんでした。契機は、やはりグローバル化に伴い、国際課税問題が頻発し始めたことでした。内部だけでの対応は難しく、普段からお付き合いのあったEYやデロイト、KPMG、プライスウォーターハウスなどから、その時のテーマに最適な人材にお願いしていきました。特定の会計事務所を限定的に使うことはありませんでした。
 最も価値を感じたのは、なんといっても人的なネットワークです。世界中に事務所を有し、各国にその国の税法のエキスパートが揃っています。そして、例えばIRS(内国歳入庁)とのコネクションを活用できたりするわけです。

村田 アドバイザーの立場から魁さん、どうでしょうか。

 さまざまなお客様とお付き合いする中で「うまいな」と感じるお客様は、アドバイザーに対するロイヤリティーのバランスがとれています。ロイヤリティーはありすぎるのもよくないし、全くないのもよくないと思います。極端に言えば、アドバイザーに対して「これまでも、これからも他には頼まない」というスタンスを見せると、アドバイザー側は無精になりがちですし、報酬も競争原理が働かなくなってきます。逆に、どれほど頑張っても、毎回プロジェクトをビットにかけるお客様に対しては、アドバイザーも長期的に「この人のために頑張ろう」「いいスタッフをつけよう」という方向には動きません。結局、アドバイザーに対して大人の距離感を保ちながら、長期的に互いが合理的と思えるコストベネフィットを考えてくれると思えるお客様が、最もコストパフォーマンスのよいサービスを得ているのではないでしょう。
 国際クロスボーダーのプロジェクトでは、海外のアドバイザーをコントロールできる能力がとても大事だと思います。ビッグ4のようにファーム内で、あるいは弁護士事務所のように連携でチームをつくっているところで、プロジェクトマネジメントする力が結果を大きく左右すると思います。
 また、100%日系ネットワークに頼って海外のアドバイザーを探して、結果が出ない国が出てくるというケースも見受けられます。「みんなと同じところを使っているから大丈夫」という横並びスタンスが原因です。やはり、雇う側は、みんなが使っている、使っていないにかかわらず、ある程度自分の意思で決定できるように、勉強していくことが必要だと思います。

村田 ありがとうございました。近藤さん、お願いいたします。

近藤 私はアメリカでの税務のアドバイザーとして、まず弁護士から入りました。当時、日本には一人か二人しかいなかった税務の弁護士の方の紹介でした。アメリカには不服審判所がありませんから、何かあればすぐにタックスコートにいきます。また、ブラジルは税金が非常に複雑です。一方で、日本とブラジルは、所得に対する租税に関する二重課税回避のための条約を結んでいます。そういうところに精通した専門の弁護士をお願いして、大変うまくいきました。もちろん会計事務所も使いますが、日本とは感覚が違う部分があると思います。アメリカで一番高給な弁護士は税務弁護士です。弁護士事務所に税務専門の弁護士がたくさんおられます。この人たちが大変役立つということも、念頭においていただくとよいと思います。

村田 ありがとうございました。加本さん、お願いいたします。

加本 日本でも税金に詳しい弁護士が少しずつ増えつつあります。そのような弁護士は、特に契約書の作成において有用性を発揮します。契約書を担当するのは弁護士です。何らかの税務リスクについて契約書で対応しようとすれば、税務に詳しい弁護士が必要です。税理士だけ雇っていても必ずしも契約書に反映されるとは限らないのが怖いところです。

Q:APA(事前確認申請)を行うか否かの判断基準は?

村田 武田薬品様はAPAを使ったリスクヘッジをかなりやっていらっしゃいました。時間も手間もかかるAPAの判断をどうされていたかというご質問です。高原さん、お願いします。

高原 武田薬品という会社は石橋を叩いても渡らないというような社風でした。米アボット社との50%:50%のジョイントベンチャーTAP社は、価格の単独決定権が当社にはありません。APAは、日米両当局への申請が必要ですがパートナーとの意見が不一致でした(当局は輸出価格が低すぎとして更正、アボット社は輸出価格が高すぎるとして訴訟を提起)。一方、100%子会社である米TPNA社は、商売を始めた時点でAPAを取ってリスクヘッジしました。
 当時(98年頃)、アメリカで日本企業バッシングが激しく、その手段として現地法人の利益が少ないことを理由に課税のきっかけにしていた時期がありました。将来の売上高が大きくなることも見込まれていましたし、ヘッジしておかなければ大変なリスクにつながると思い、申請して確認を取りました。コストは確かにかかります。しかし、TPNA社でAPAを取った取引は更新時には、TAP社との取引のクレジットよりも修正金額は大きくなり、アメリカに税金を返してもらって日本で税金を追加で治めることで決着しています。
 言うまでもなく、大きな更正が出ると公表業績へのリスクが生じます。そうしたリスクをとにかく避けたい。TAP社の移転価格更正は、更正所得として日本最大の1,220億円、更正税額572億円という巨額なものでした。更正を受けた時点で利益がなくなってしまうという、経理部長としては耐えられない事態です。そうしたリスクを可能な限り払拭するために、損益影響の大きい取引はコストはかかるけれどもAPAは行う。そういう考え方です。

 統計的にアメリカ合衆国が今まで累計で結んできたAPAの半分近くが対日本で、米国の貿易・海外投資シェアをはるかに上回っています。日本の当局がAPAをやりやすくしてくれているのはとても喜ばしい事実です。しかしながら、日系企業だけがこれだけAPAに頼るのは少し不思議に思えます。
 全般的には、連結で通常よりも利益が多く出ている取引、十分取れていない取引という2つのパターンがAPAに向いています。どちらかの国がもっと自国に残すべきだと更正される可能性が高くなりますから。

村田 APAは日米など先進国間ではスムーズに進んでいますが、開発途上国とはうまくいっていないケースもあります。判断という点では、相手国も重要になってきます。
 もう一つ、魁さんも触れられたように、日本の国税は税務調査よりもAPAを進めて移転価格問題を解決しようとしている面があり、そういう意味では国税がある程度勧めています。しかし、企業の立場から考えると、「何でもAPA」というのはお勧めできません。効果と費用を考えると、当然、重要性の判断が必要です。国外関連者取引が重要であり、連結損益に重要なインパクトがあれば、APAを考えればいいと思います。しかし、国外関連者取引全体をAPAで見ていくのは難しいと思います。税金は2国間の取り決めが中心で、多国間での取り決めには向いていないのです。

Q:Double Irish with a Dutch Sandwichが日本でできない理由は?

村田 さて次は、アップルやグーグルが使っている節税スキーム“Double Irish with a Dutch Sandwich”がなぜ日本ではできないのか、というご質問です。高原さん、いかがでしょうか。

高原 アメリカの専門家に聞いたところでは、アメリカではCheck-the-Boxというルールを使うことで現地の法人をパートナーのような扱いにすることでアメリカの税法で課税されない仕組みをつくるようです。日本ではタックスヘイブン税制に照らして、すべての実態を見られるので、ストレートに課税を受けるようです。

 ポイントは日本ではタックスヘイブン税制で引っかかるという点です。米国のCheck-the-Box税制は一方の国では独立した企業の取り扱いを受けている(そのままでは米国の課税対象になる、低税率の)法人が、米国での申告上は他法人と連結した取り扱いを受けて合算課税対象から外れるという申告を許す制度です。そのような制度は日本にはなくベネフィットが取れないのです。

村田 高原さん、魁さんありがとうございました。

Q:現法社長のKPIを矛盾のないものにするためには?

村田 「現法社長のKPIが現法の営業利益では矛盾する」という高原さんのお話に関してのご質問です。まず、KPIを営業利益から例えば管理会計の数字に変更するとき、何が大きなハードルとなったでしょうか。

高原 評価を変えるとき、トップの理解はもちろん必要ですが、事業部門の納得を得るのが大変です。現法の評価を、transfer price(移転価格)を使った利益から連結ベースや利益ベース以外のKPIに変更しようとすると、それまでtransfer priceを牛耳ることで現法をコントロールすることに慣れてきた部門長の権限を取り上げることになります。既得権益を壊すことになりますから、相当の抵抗があります。
 やはり、transfer priceの計算ロジックと管理会計の評価のロジック、例えばCP法ではコストを増やせば増やすほど現法の利益が増えるという矛盾点をきっちりと理解してもらって、現法の評価には使えないことを納得してもらうことが重要でしょう。武田薬品では、transfer priceのリスクが起きたこともあって、輸出部門である国際本部も理解が深まりました。

村田 ありがとうございました。岩品さん、いかがでしょうか。

岩品 社内の抵抗については感じるところがあります。例えば、経理部が重要な知財、研究開発機能を海外、ことに新興国に移転することを検討すると、知財部から「特許制度が完備していない」「審議が不十分」といった意見が必ず出てきます。そこにはやはり、部門ごとの「権限」がからんでいます。知財部の方は、知財の管理と保護を重視しますが、海外に移転する背景や税についての関心は高くありません。最終的には、経営トップが部門を超えて、会社全体のこととして説明をしていかなければならないと思います。

村田 ありがとうございました。

Q:タックスリテラシーを高めるためには?

村田 タックスコストやタックスリスクを下げるアプローチの一つとして専門家の活用や専門性の向上があります。別のアプローチとして一般社員の税務に対する意識の向上を考えたとき、専門家、専門職以外のタックスリテラシーを高めるにはどうすればよいか、という質問がございました。これについて、近藤さんにお伺いします。

近藤 たくさんの職員をアメリカに派遣してきましたが、一人ひとりが税務申告を行うアメリカ人と源泉徴収で給料天引きされる日本人では、税金に対する感度が全く異なります。税額控除になるか、ならないか。家を借りるか、買うか。アメリカ人は全部考えます。納税者としての意識が最初から違うのです。
 私がニューヨークから東京に来て、日本からアメリカに派遣される職員全員にタックスリターンを書かせようとしました。日本側の対応その他についての考え方も変えてはどうかと提案しました。しかし、なかなかこれは変わらない。派遣職員の税金は本社とニューヨーク支店が計算してしまいますから、積極的にリダクションを取ろうと考えません。タックスリテラシーどころか、小学生と大学生ほどの違いができてしまいます。
 ただし、法律家については私が最初にアメリカに渡った1976年頃に比べれば、ずいぶん日本サイドのリテラシーは高くなっていると思います。

村田 ありがとうございました。財務、経理、あるいは税務部門に関わる方は別として、日本人全体でみると税金に関しての意識は低いと思います。日本人の意識の中では税金は払うか、払わないかの二者択一です。「適正に払う」という意識が薄いことが、リテラシーの問題点であろうと思います。近藤さんがおっしゃるように、「申告書はどうやって作るのか」「消費税ってどうなっているのか」といった身近な部分を共有するだけでも、リテラシーはかなり違ってくるような気がします。専門性を高めると同時に、全体のタックスリテラシーを高めていくことも考えていかなければなりません。
 本日はどうもありがとうございました。

※この記事は、2015年6月10日に開催された第三回国際税務部会・拡大会「グローバル税務戦略フォーラム」パネルディスカッションの内容を編集部にてまとめたものです。

国際税務部会について
日本CFO協会は、国際税務分野における課題解決を支援すべく国際税務部会を発足させ、国際税務部門の専門家や、企業経営者、CFO経験者を中心に当該テーマに関するさまざまな専門家をお迎えして、企業経営者やCFOに求められる国際税務プランニングや国際税務実務上の課題について相互研鑽できる場をご提供しています。
https://www.cfo.jp/study_and_interaction/global_tax_society/

2015年9月15日

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