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CFOFORUM

2014年9月16日 

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三田 慎一

日本CFO協会理事
元花王株式会社 取締役執行役員会計財務部門統括CFO

120年の社歴の中で

 花王は明治20年(1887)の創業以来120年を超える歴史があるが、長い歴史の中で何度も苦しい時を乗り越えてきた。現在はグループ社員3万3000人余り、連結子会社95社、持分法適用会社20社で構成されている。売上高は1兆3150億円(2013年12月期)営業利益1240億円(同)、海外の売上高比率は30%程度となっている。中長期的には、この比率を50%以上に上げるのが、経営課題の一つになっている。

 花王の海外展開は、アジアでは1964年にタイと台湾に会社を設立して以来50年になるが、「ミニ花王」、つまりビジネスサイズは小ぶりだが日本花王と同じような機能を持った会社を自前で整え、国内で開発した新しい「市場創造型の商品」を投入してきた。一方、欧米では積極的なM&Aによって経営基盤を構築し事業展開をしてきた。

社内変革の取り組み

 1999年、かつてピーク時に1000億円の売上があったフロッピーディスクを中心とした情報事業から撤退した。その頃から取締役会改革とコーポレートガバナンスの充実を図るために、さまざまな取り組みを行ってきた。2000年からは、取締役会を拘束するなどの権限はなくアドバイザー的な役割が期待された経営諮問委員会が設けられた。花王の代表取締役を含む社外委員の方たちを加えた少人数の委員で2年間活動してきた。2002年からは、執行役員制度と社外取締役を導入することで監督と執行の分離を図ることになったので、経営諮問委員会は発展的に解消された。

 社外役員の人数もこの頃から徐々に増えていった。現在、取締役、監査役ともに3名の社外の方に入って頂いており、社内・社外の構成は、取締役は社内、社外ともに3名であり、監査役は社内が2名、社外が3名である。また、役員報酬は99年度からEVAに基づく業績連動型賞与を導入し、2001年からはストックオプションの付与も併せて実施すると同時に、役員の退職慰労金制度は廃止された。

 さらに、コンプライアンスの視点では、事業内容の拡大に伴って従来の倫理委員会と監査室の機能を拡充し、経営やグローバルな視点での活動を強化してきた。

 ガバナンス体制については、花王は監査役設置会社であるが、「取締役・執行役員選任審査委員会」と、「取締役・執行役員報酬諮問委員会」の二つの委員会を設置しており、両委員会には、委員として社外取締役と社外監査役の全員が参加している。2012年6月から取締役の任期は、従来の2年から1年に変えており、また2014年3月からは、取締役会の議長は独立社外取締役が担っている。

SAPを活用したグローバル経営基盤の構築

 花王の会計財務部門で取り組んできた内容について、いくつか事例をご報告したい。

 基本的には、SAPを基幹システムとしてグローバルに動かしている。もちろんすべての機能やパッケージをSAPで行っているわけではないが、会計に関しては、グローバルにSAPを使った運営をしている。

 その歴史を少し振り返ってみよう。97年頃、タイの子会社で売掛金と在庫についてSAPモジュールを稼働させた結果、売掛金のオーバー・デューがなくなり、在庫も大幅に減少するなど、目に見える結果があらわれた。一方で海外(特にアジア)の会社について、次世代のITシステムの構築が大きな課題になっていた。タイでの成果はSAP導入に弾みをつけた。2000年にプロジェクトが発足。多くの時間とお金と人材を投入した。苦労の末、2003年から徐々にアジアの会社に導入が始まった。2006年頃までには、欧米まで含めた海外の主要な会社については導入が終わった。

 現在、大小含めて約8割近くの会社がSAPで動いている。売上規模でいえば90%を超えるレベルになっていると思われる。

 海外のシステム統一が終わった段階と時を同じくして、2006年1月にカネボウ化粧品が花王グループ入りした。カネボウ化粧品の大きな経営課題の一つに、ITシステムの再構築があった。その時に、会計システムは花王自前のシステムをカネボウ化粧品に導入する考えもあったが、海外で使っているモデルを花王、カネボウ化粧品および国内のグループ各社にも導入する決断を行った。会計コードなどすべて変わってしまったが、それによってグローバルな統制が図れた。

 2000年から10年間にわたるSAP導入プロジェクトは、次の三つの基本的な考え方を据えて行ってきた。
 ①戦略的な成長に向けた意思決定を支援する基盤づくりをしていきたい
 ②ルールを順守して、社会的責任を果たすための基盤をつくっていきたい
 ③グローバルに業務を標準化して、情報を集約するための基盤をつくっていきたい

 十分ではないところもあるが、グローバルな一気通貫の仕掛けは出来上がってきたと思う。これからは、これをどういう形で更なるアウトプットにつなげていくかということが大きな課題であると思っている。

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同時連結決算の開始

 2012年12月、花王グループは同時連結決算を開始した。ルールや定義が整備され、大枠でのITインフラの整備が終わり、同時連結決算をやっていくことを決めた。基幹系はSAPが稼働したが、業務系(連結決算を行うチーム)ではそれぞれのERPパッケージを導入しながら整備を進めてきた。ここでは情報システム部門の人材が関わることはあまりなく、業務担当者がパッケージの選定も含めて積極的に関与して、苦労して稼働させてきた。ルールや定義の制定などを含めたインフラの整備は進んだが、同時連結決算移行時には、実務担当者には、移行時の心配事がたくさんあった。国内の9カ月の変則決算に伴う課題、ディスクローズまでの時間的な課題、決算予測と実績のかい離などへの対応が本当にできるのかなど、実務担当者の不安の種は尽きなかった。

 一例をあげれば、実地棚卸は、従来は3月31日に行っていた。12月決算になると、正月を控えた12月30日、あるいは31日という年末に棚卸が本当に出来るのだろうか、という心配が出てきた。J-SOXでIT統制が有効に機能していることが証明されているので、「コンピュータの数字をそのまま期末の数字として使えないか」と、会計士の方に相談したが、そこまではできなかった。ただし、固定資産監査は期中にやっていることからすると、なぜ期末に棚卸資産をやらなければならないのか、という基本に立ち返ってやり方を変えてきた。12月31日以前に生産が終わっているところは、その時点で棚卸を行い、またサイクルカウントという形での棚卸をするなど考えながら、現場の負担が最小限ですむような方法を探ってきた。

 もう一つ、カネボウ化粧品の例をご紹介しよう。カネボウ化粧品は子会社がいくつかある。連結決算を行うには、カネボウ化粧品で連結決算が終わったあと、花王の連結のチームにデータをくれる。そうすると、カネボウ化粧品での連結決算作業の時間は花王側では待ちの時間となる。そこで、発想を転換して、カネボウ化粧品の子会社から花王の連結チームに決算データを直接もらって花王の連結チームの中で決算を先に行うこととした。カネボウ化粧品の連結決算を固めるのは後でもよいというような形で、フラット連結化を進めてきた。

 さらに、連結決算業務を行っているチームでは、花王の監査とカネボウ化粧品の監査に対応するメンバーに、両社の担当会計士がそれぞれ監査をすることとなるので、監査法人で両社を担当するチームを一つのチームに統合して監査をお願いすることで、ダブりの監査をなくすという効率化を図った。

 決算の効率化に監査法人と一緒になって色々と取り組んできたが、まだ今後も改善をする余地はあると思う。

「花王版IFRS」を目指して

 IFRSについては、いろいろな企業がすでに導入されているが、これまで活動してきた中での所感を述べておきたい。

 活動を始めた2010年度の段階で、プロジェクトメンバーに私は二つのことを申し上げた。一つは「IFRS導入を目的化するのではなくて、マネジメントの高度化に向けての土台づくりをする」ということ。二つ目は、「良い作品を創ろう」ということだ。

 まだまだ大きな論点や課題はある。例えば論点でいえば、売上の計上基準が変わることで、売上金額が数百億円レベルで変わる可能性がある。また、あるいはのれんと商標権の償却の考え方では、カネボウ化粧品などが花王グループ入りしたときに発生したのれんと無形固定資産の償却の合計が2013年度で約300億円程度ある。その部分の償却が止まってしまうと、当然のことながら利益が上がる。あるいは研究開発費についても、費用化することなく資産計上すれば、同様に利益が上がってくる。やはり経営に与えるインパクトが大変大きいので、マネジメント層には、仕組みや考え方を理解していただく機会をたびたび設けた。

 また、主な課題の中で、プロジェクトメンバーが大変悩んだのが、IFRSの根本である原則主義と事業活動の実態とのかい離であった。かい離した部分を真に理解できないままで進めていくと、どこかで壁に突き当たる。そこで、メンバーには、研究所、販売、マーケティング部門など一線に行って、その部門の人たちとコミュニケーションを頻繁に交わしてもらった。その結果、メンバーは事業活動の実態が体感、理解でき、IFRSの原則主義を自分達なりに落とし込む上で大変良い機会に恵まれた。また、各部門の人たちはIFRSに対する理解も含め、会計に対する理解がそれぞれ深まってきた。このように、活動を通じて双方の距離感が縮まり関係が深まってきたと思う。

 IFRSにおける「良い作品」とは、「花王版のIFRS」というものができた時、それが「良い作品」と言えるものになるのではないかと思っている。一日も早い作品の完成を心待ちにしている。

オフショアでのBPO化の取り組み

 現在の花王の会計業務は、プラットフォームを整え一気通貫の世界で動いているが、実務系(支払業務、取引事務、間接財の購入、キャッシュマネジメント)は、従来は各社での最適化を求めて部分集約を進めてきた。

 しかしながら、さらなる事業のグローバル展開を考えた時、2007年頃の雑誌等でも紹介されていたグローバル展開している同業他社の仕事のやり方をもっと指向していきたいと思った。まずは、支払業務と取引事務のオフショアでのBPOに取り組んだ。意外なほどスムーズに取り組みは進んだ。特に支払業務は、トップへの提案から5カ月足らずで稼働させたが、非常に興味深く、楽しみながら取り組んでいった。キャッシャマネジメントは、国内ではカネボウ化粧品を統合する以前は花王の財務部が行っていた。カネボウ化粧品はSAP稼働時の2010年度に花王に統合した。さらに2011年度からは、海外の会社にも展開を開始した。

 少し具体的に説明しよう。支払業務のBPO化によって、従来よりもしっかりとした内部牽制が機能するようになった。花王では社員の経費精算伝票や外部取引先などへの支払伝票、またコーポレートカードの精算などは、支払データの発生場所ごとに分散してインプットしている。従来は、これらのインプットしたデータを銀行振込みまで行う場所が全国に55カ所あった。この状態は、本社からは各エリアや工場ごとに行われている承認・決済プロセスが見えないということであった。これを1カ所に集めてシェアードサービスセンターをつくって集中化することで見える化を図りながら、外部に任せられる部分はBPO化していった。そうして、シェアードサービス会社の仕事のやり方を変え、業務範囲の拡大も行っていった。経費精算について言えば、経費精算が発生する各部門とシェアードサービス会社およびアウトソース先の三つに経費精算業務が分かれることによって、内部牽制効果が現れてきた。このモデルを現在、海外に展開しているところである。

ネッティングとプーリングを使った仕掛け

 キャッシュマネジメントについて、ネッティングとプーリングを使ったシステムについて述べておきたい。従来、グループ会社間での取引の決済は、各社別、取引ごとに個別に行っていたので、決済のトランザクション件数が非常に多かった。花王の財務部がネッティングセンターの役割を担うことで、毎月ある一定の日にグループ会社ごとに売掛金と買掛金の債権債務を相殺した後、各社別の決済を行うというシステムを構築した。現在47社が利用しているが、今後、さらに拡大していくだろうと思っている。

 一方、外部の取引先への支払いについては、従来は各会社の取引銀行から取引先に支払っていたが、花王の財務部がシェアードサービスセンターの役割を担うということで、集中して振込の手続きをするようになった。ユーロのプーリング口座のみ、花王のドイツ子会社にシェアードサービスセンター機能を持ってもらっている。日本からお金の動きが日々把握できるようになり、見える化が図られてきている。

 さらに、最近始めた取り組みもある。取引先の規模は大小さまざま混在しており、それぞれの決済条件もばらばらであった。この決済条件を花王グループの決済条件に合わせる(標準化する)と、取引先によっては入金期日が延びてしまうケースがあった。それを一括信託方式に近い形によって、「決済日以前に資金が必要な場合、花王の格付けでの割引率を利用する形で、通常の決済日までの日数分を割り引いて決済する」という決済システムの運用を開始した。取引先にとっては、自前での資金調達コストより有利な割引率が利用できるので、まだまだ拡大する余地があると考えている。

 お金と時間と人をかけてインフラを構築したが、アウトプットできていることは、まだこの程度である。今後、インフラをいかに利用していくか。利用していきながらグローバル企業の仕事のやり方に一日でも早く追いついていってほしいと願ってやまない。

※本稿は、2014年5月22日開催の「グループ経営統治力の強化とその実践セミナー~改訂COSOフレームワークを活用したグループ経営統治力の強化と経営管理体制の見直し~」の講演内容を編集部にてまとめたものです。

2014年9月16日

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