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CFOFORUM

2024年4月1日 

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GLOBAL MANAGEMENT グローバルマネジメント

HRジャーナリズム 人的資本経営のその先へのヒント
CHRO力その51:CHROの2024、ジャーナリスト的視点からCHRO的影響力を考える(労働生産性と社会問題解決)(その3)

伊藤 武彦

NUCBビジネススクール 教授

 日本の株価が絶好調の様相を示している一方、果たして、企業自体がそれに見合う内容になっているであろうか? 単なる国際的な資金移動の安全パイで終わるのか? それとも未来に向かっての活力になっていくのか? そのキーの1つは働き方であり、企業の構造改革であり、仕事の労働生産性の変化である。日本の労働生産性の復活に向けてのハイレベルでのアクションについての第3回目は、テクノロジーとの関係性について踏み込んでみたい。

 ヒト・AI・ロボティクスの関係性は、昨年から日々刻々と変わり、主役の交代も日替わりであったりする。ブロックバスター理論やプラットフォーム理論からすれば、この動きが起こるのは当然の帰着でもあるが、いかんせん、そのスピードとダイナミクスが今回は今までとは桁違いであるとも言える。

 これに対して、最適なバランスを適時に変えて組織として対応できるかどうかは、最終的に今回のテーマの生産性に直結してくる問題でもある。この問題に、CHROはどのような方向性を見出せるだろうか? 近年、声高になってきたリーダーに求められる構想力が、正に問われる瞬間である。

テクノロジー(ロボティクス、AI)の積極的導入

 ヒトの問題を考えることは、CHROに期待される役割であることに疑いを持つ人はいないと思うが、労働という言葉に置き換えると少し意味が変わってくることには注意が必要である。

 「ヒト=労働」の時代は終わりを告げてきている。労働はロボットやAIが置き換わる部分が日に日に大きくなってきていて、これを無視すること=ヒト自体が企業としての活動の合理性や最適化を疎外する要因と言われてもおかしくない時代に突入してきている。

 即ち、「労働=ヒト」であり、「労働=Σ(ヒト、ロボット、AI、企業の外のリソース)」を前提に、労働を再定義することが出発点になる。当然、ホワイト企業的な視点や心理的安全性の意味合いも大きく変化せざるを得ない。各種統計に現れている通り、日本の働き方は依然として労働時間に依存している。ここに対する変化が乏しく、ヒト自体を改革することが難しければ、ヒト以外の部分で改革することが重要な手段となってくる。

 労働に対するロボット、AIの最大のメリットは、「単純な仕事(単純化されて定義がしっかりされているタスク)を疲れることなく無限に働ける、そして文句を言わない(但し、時折バグったり、止まったり、新しいことには対応しなかったりもする)」ことである。これらは、ここ数年の人事を悩ませてきたワークライフバランスや心理的安全性、メンタルケアという問題を一瞬にして解決する魔法の杖でもある。

 以下は、英語MBAクラスの生徒たち(ほぼ100%非日本人留学生)との議論から出てきたコメントである。

 「ホワイト企業って何なんですか? そんなに仕事したくなければ辞めればよいだけじゃないですか? 違う雇用形態や労働条件の会社なんて世の中に沢山ありますよね。第一そんなことまで面倒見る義務が会社や経営者にあるのでしょうか? ヒトが辞めてビジネスが回らないなら、ロボットやAIにやらせればよいだけですよね? それかビジネスの設計自体に問題があるか古すぎなのではないでしょうか? DXをやっているならここの問題はなくなっていますよね? 何故こんなことに悩んで無駄な時間とお金とヒトを使わなければいけないのでしょうか?」

 ここが今の世界の立ち位置である。最初はこれを受け入れることが大変な企業も多々あるだろうが、世界は変わってきているし、外を見渡せば、コンビニではヒトがいなくても支払いができたり、精算もできる。もはや、時計で時間を見るヒトはおらず、時計は装飾性や他の付加価値機能の方が重要になってしまっている。

 そういった意味では、比較すると、個人レベルの方が新しい時代に対する対応・行動変革が進んでいると認めざるを得ない企業もまだまだ多い。個人レベルで起こっているようなニーズに基づくテクノロジー変革と行動の変化は、無視できないヒントである。

 一方で、そのテクノロジーも使いこなしたり、使い倒せなければ投資の価値はない。テクノロジーの現在の主流は「モジュラー化」であり、いつでも交換可能、そして、アップデート可能であることが前提である。どんどん新しいものに変わっていく時代である。

 こうなると、「使える、使い倒せるテクノロジー」を選ぶ審美眼があるかどうかが重要になる。CTO・CIO依存だけでは、この分野は意外に難しい。テクノロジーとヒトとのインターフェース問題や使用するスキルなどは、CIO・CTOではなくCHRO的課題である。そして、選ぶだけでなく、「職種を問わずテクノロジー・アレルギーを無くし、適切に使える人材」がいるかどうかが、成否を分けることになる。

 そのためには、次の「テクノロジー中心のリスキリング」が重要なキーになる。

テクノロジー中心のリスキリング

 労働の概念が変わったこと、それに伴い求められることが変化することは誰にも止められない。そのためには変化に対応する能力や変化させる仕組みが欠かせない。ここに対する個人と企業の関係性についても、変化は避けられない。

 「ここまで、企業は個人のスキルの変化に対する責任を持ちすぎてきているのではないか?」と改めてクリティカルに考えてみると、オフでキャリア開発をしない、勉強したり、スキルアップに努めない日本人(図表1)という現実が重くのしかかってくる。

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 ここに対して、新しいイニシアチブなしで、企業が全てを受け持つことで乗り切ることは可能なのであろうか? 最大の懸念は、施策が時代のスピードに追いつけるのか、という制度の変化対応力が根本的な問題としてのしかかってくる。

 一旦、定義して研修をしても、マスターした頃には陳腐化するような状況が暫くは続くことが予想されることは想像に難くない。進化・変化するテクノロジーとスキル習得の追いかけっこは、企業をコスト、労力、効果の面で疲弊させてしまうことになりかねないこともある。

 では、どうすれば良いのであろうか?

 社員の意識改革と実用的なスキル(最新テクノロジーを理解して動かせるスキル)に対するアプローチが必須であることは疑いようがない。

 ここで重要なのがアプローチの変革である。カスタマイズが大好きな日本の組織文化は、深淵な部分を追求するあまりに「変化対応力」という柔軟性を大きく削いできた。しかし、現在の主要なテクノロジーやプラットフォームはモジュラー化をし、日々進化している。この矛盾を解消して大きく舵を取り直すことは、CHROやCXOsのようなトップにしかできない。

 ここで質問したい。CHRO(もしくはCXOs)のあなたが以下のようなことを聞いたらどうしたいと思うだろうか?。

 「折角、意を決してPythonを学んでみて、少しわかり始めたら、学ばなくてもAIで簡単にできるようになっていて、学んだことが馬鹿らしくなりました。何を学べば正解なのですか? 同じような無駄な努力はしたくはありません。」

 これに答えるためには、「これをやれば大丈夫」というものを提供していては上記の過ちが起こり、折角の人材投資も無駄になってしまう。そのためには、「(できれば自ら)学んでいれば怖くない。必ず対応できる。」というコンセプトが、如何に定着するかが肝である。

 これは難しいことであろうか? 世界では1つのスタンダードな考え方が、何故、日本人や日本の組織だけには向いていないとなってしまいがちなのか、クリティカルに考えることが肝要である。拙書『世界で通用する正しい仕事の作法』(2017)でも触れているが、“Japan is Different”と声高にいう時代はとうに終わっている。“Every world is different”であるからこそ、違いの中から共通項を見つけ追求することが1つのポイントになる。

 国際的な競争力のある時代だったら、それでも成果が出ているという事実がそれを擁護してくれたであろう。しかし、今、GDP、SDGs、労働生産性というマクロからミクロまで競争力が著しく損失されている今、そのロジックを持ち出すのは、経営センスという点でも控えめに言ってセンスがないと言えるであろう。

 そのためにも、「テクノロジーは味方」という考え方が定着するかどうかは、その出発点であり、このカルチャーへの変革は重要なキーであると言えるのではないであろうか。そして、その上で、必要最低限のエンジンが持てるようなリスキリングを後押しすることは必須と言える。その後は、変化する世界にどう対応するべきか? その姿勢があれば、自ら気づき学べることは難しくなくなってきているはずである。

 「知識を変える」のではなく「思考を変える」「態度を変える」ことが、CHRO及び人事がビジネスを支え労働生産性を高めることにつながる。そのためのリード役としてのCHROは、嫌われ者や悪者になることもあるであろう。しかし、それでも結果が出れば、敢えて嫌われ者、悪者になることも、企業のリーダーとしての使命であるはずである。

参考文献:
NewsPicks(2017)先進国一、勉強しない日本の会社員に明日はあるのか?
https://newspicks.com/news/2647674/body/

Profile

伊藤氏画像

伊藤 武彦(いとう たけひこ)

名古屋商科大学ビジネススクール 教授。SE、ベンチャー経営、マーサー・ジャパン プリンシパル、ライトマネジメントディレクターを経て現職。著書として「世界で通用する正しい仕事の作法」等。Visiting Professorとして海外のビジネススクールでもLeadershipなどを教える。ほか、Global Leadership Skill CentreでExecutiveと女性リーダーの育成に力を入れている。

2024年4月1日

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