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自社株消却ブームがやってくる?

磯山 友幸
経済ジャーナリスト
元日本経済新聞記者

安倍晋三内閣が6月24日に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」は、歴代内閣が作った成長戦略とはまったく違った立脚点に立っている。「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」という、まっ先に打ち出したキャッチフレーズ自体には取り立てて新しさがあるわけではないが、その後、いの一番に「企業が変わる」という言葉が掲げられている点は驚きだ。「国を変える」という言葉はその後に来るのである。つまり、企業が変わるのが先で、国を変えるのはその後、というのだ。

 国自身が作っている成長戦略なのだから、まずは国が何をすべきかを示すのが筋だろう。過去の成長戦略の多くもそうだった。企業に稼ぐ力を取り戻してもらうために、国が補助金を出したり、減税をしたり、規制緩和を進めたりする。ところが今回は、真っ先に「企業」に変化を求めたのである。

 ある意味、余計なお世話である。国に「稼げ」などと言われなくても稼ぐのが企業、あるいは企業経営者の使命である。ところが、「失われた20年」と言われたデフレの時代、企業経営者は事業投資を避け、内部留保をどんどん厚くした。おカネの価値がどんどん高まるのがデフレだから、ある意味、正しい経営判断をしてきたとも言えなくもない。だが、その結果、企業の収益性は落ち、日本経済は成長力を失った。

 政府はようやくこの点に気が付いたのだ。金融政策を180度転換してデフレからの脱却を進める一方で、企業経営者にもう一度、事業投資に向かわせるにはどうすればよいか。その結論が今回の成長戦略である。

 一番目に掲げた政策が「コーポレートガバナンスの強化」。欧州のようにコーポレートガバナンス・コードを制定して企業のあるべき姿、つまり「ベスト・プラクティス」を示すことにした。内容は今後議論されるが、取締役の一定割合を独立性の高い社外出身者にすることなどが求められるだろう。経営に社外の目が入ることで、不採算事業の温存などができなくなる。取締役会の「空気」を読んで社長の方針には反対しない、従来の取締役会の機能を一変させようとしているのである。

 コードではあるべき姿を示すものの、実際にその規定を順守できない場合は、できない理由を公開すればよいことになる。「コンプライ・オア・エクスプレイン」と呼ばれるルールの手法だ。

 二番目に成長戦略が上げた具体的な政策はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の改革である。運用のポートフォリオの見直しにばかり関心が行きがちだが、GPIFのガバナンスのあり方も問い直される。つまり、企業経営にプレッシャーを与える株主としての機能に注目しているのである。

 成長戦略では日本企業の生産性向上の具体的な指標としてROE(株主資本利益率)を掲げている。これを国際水準にすることを目指させるというのである。言うまでもなく、ROEを向上させる方法は利益を増やすことである。企業が不採算事業から撤退し、利益率の高い分野に集中投資すれば、ROEは上昇する。

 ROEは国際水準は10%以上が普通だから、5%未満の多い日本企業のROEが国際水準になるだけで、ROEは倍になることになる。これは単純に言えば、株価が2倍になることを示している。株価を上げることで消費に火を付けるなど日本経済を回そうと考えている安倍内閣がROEに注目する理由はここにある。企業収益が上がれば当然、税収も増え、危機に瀕している国の財政を救うことにもなる。

 もうひとつROEを引き上げる方法がある。分母である株主資本を小さくすることだ。無駄な剰余金を溜め込んでいる企業が資本を吐き出せばよいのだ。剰余金を使って自社株を市場から買い集め、それを消却する。「自社株消却」である。

 米国や欧州の長年にわたる株高が、自社株消却によって支えられてきたのは周知の事実だろう。今後、株式市場ではROEの向上がテーマになるのは間違いないだろう。経営者の多くもROEの向上を意識するようになるはずだ。株価の上昇を意識して自社株消却を行う経営者も増えてくるだろう。政府の成長戦略をきっかけに、日本でも自社株消却ブームがやってくるのではないか。

2014年9月16日

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