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2016年10月14日 

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金融危機はなぜ繰り返されるのか?
それは金融機関の経営行動に
問題があるからである

久原 正治

久留米大学理事
経営学博士

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    ①Other People’s Money

    John Kay
    Profile Books, 2015

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    ②金融市場は制御可能なのか?

    ハワード・デイビス著、田中正明訳
    金融財政事情研究会 2016年8月(原著は2015年刊)

 金融危機は金融機関の経営破たんをきっかけとしており、それは歴史を見ると繰り返し起きている。2008年のこれまでで最大の危機と言ってよく、これを教訓にさまざまな規制の強化が進められている。しかし、過去の金融危機を見ても、危機の直後に規制が強化されるが、やがて規制は緩和され、金融機関のリスクテイクの行き過ぎにより、再び金融危機が訪れる。金融危機の背景には金融機関の行き過ぎた経営行動があり、それは規制の強化だけで制御できるものではなく、金融機関の経営行動自体にメスが入れられるべきものなのである。

 このことを考えるのによい本が、二人の英国の実務をよく理解する金融専門家によって書かれ、最近出版された。ご紹介する二つの近刊はいずれもコンパクトにまとめられた一般書であり、この問題を日ごろから考える一般の読者に読みやすいものになっている。

 John Kayは英国を代表するエコノミストの一人で、Financial Timesに長期にわたりコラムを書いている。その他さまざまな媒体に経済、金融とビジネスの接点で論説を寄稿している。

 ①は、金融機関は社会の役に立っているのかという根源的な疑問を展開する。金融の価値は、金融機関の収益ではなく、社会に四つの役割──すなわち決済機能、借り手と貸し手のマッチング、一生を通じた個人のファイナンスの管理、リスクの管理──をいかに果たし、社会にどのようなサービスを提供できたかにある。しかし、金融機関は利益さえ出ればどのような取引も認められるという文化の下で、金融機関同士が複雑かつ密接に結びついて、金融システム全体の不安定をもたらした。Kayは、金融危機は規制では防げず、金融産業の構造、金融機関の組織、インセンティブ、企業文化にあると結論づける。そこで、金融機関が顧客サービスの提供を目的とし、他人のお金を預かるにあたっての、忠誠心や健全性の義務を課すことの重要性を強調する。大銀行は複雑さを削減し、顧客サービスの明確な差を打ち出すことが必要であるとする。

 これに対応する邦書として、今回は翻訳書を取り上げる。著者のハワード・デイビスは金融危機前の初代金融サービス庁長官、ロンドンスクールオブエコノミクス学長を務め、現在再建中のロイヤルバンクオブスコットランド取締役会長である。訳者は著者デイビス氏と親交の深い前三菱UFJフィナンシャルグループ副社長の田中正明氏である。評者も今回この本の翻訳のチェックに参加させていただき、原書をじっくり読ませていただいた。

 ②で著者は1980~90年代の経済の金融化(Financialization)が、金融市場の不安定化を招いたとする。そこで、金融セクターの過度の膨張が金融部門の所得を増大させ、所得不平等を招き、経済全体にデメリットをもたらしたことを明らかにする。金融システム全体がリスクを増殖させ、その中身を理解しないものにリスクを負わせたのである。危機後世界的に規制は強化されたが、各国の対応は統一性を欠き、いたずらに複雑なものになっている。金融当局の金融機関経営への細かな介入の効果には疑問があると著者は言う。100年に一度の大洪水にも生き残る銀行は、慎重なリスク判断を行い、群れの動きに従わなかった銀行であり、そのような銀行の事例からの教訓の学習が重要であるというのが著者の主張である。個別銀行のガバナンスや経営が第一に重要であり、その上に市場規律をもたらし、より頑強で持続可能な規制が策定されることで、制御可能な金融市場ができる。

 この二つの有力な英国の識者によるコンパクトに要点がまとまった近著は、金融危機を防ぎ金融市場を安定化させるためには、規制強化だけではなく、大手金融機関の経営自体の規律づけが何よりも重要であることを指摘している。今回の金融危機を通じて生き残った銀行と消えていった銀行の経営のリーダーシップや組織、企業文化の違いを分析し、今後の教訓にすることが重要になると評者は考えている。

2016年10月14日

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