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学業の成績に基づく
フィンテック学資ローン

森本 紀行

HCアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長

 奨学金のような公的な制度の場合は、債務者の属性に応じて融資条件を決めることはしないが、民間の金融機関が学資ローンを開発するとしたら、融資条件の決め方は、金融の本質にかかわるものとして非常に重要な要素となる。

 そもそも、学生というのは一般に所得がなく、債務の弁済能力のない人だから、その学生に対して融資すること自体、金融の常識に反する面がある。融資というのは、原則として債務者に定期的な所得があって、それを基にして債務を弁済できることを条件にして、実行されるものだからである。

 しかし、学生は学業を終えた後、職に就くことが予定されているので、今は所得がなくとも、将来においては一般に所得があるはずである。というよりも、将来の所得を得るために学業に励むもの、それが学生である。

 奨学金にしても、民間の学資ローンにしても、その将来所得を弁済原資とした融資として、金融的に可能になっているのであって、要は出世払いである。ただし、単なる出世払いではないのである。

高度な出世払い

 奨学金や学資ローンでは、学生である期間中、順次債務が追加されていき、利息の支払いも行われないので、学業終了時までに元利合計額が累増していく。そして、職に就いて所得が発生した後に、事前に定めた予定に従い、多くの場合元利均等で弁済されるのだ。

 住宅ローンでいえば、債務が累増していく過程はリバースモーゲージと同じであり、弁済は、リバースモーゲージでは資産売却によって一括でなされるのに対して、通常の住宅ローンと同じように長期間にわたって元利均等でなされるということだ。

 また、多数の債務者の集合に対してなされるので、なかには債務を弁済できない学生がいるにしても、その比率を統計的に制御できるため、金融としての取り組みが可能になっている。この点も、住宅ローンに共通であって、金融の本質にかかわることである。

 こうして、奨学金や学資ローンの場合、弁済方法を契約によって事前に拘束しておくことで、また、多数の債務者を一括することで、出世払いの性格を残しつつも金融として構成しているのであるが、鍵は、弁済条件の事前の取り決め方である。債務者と債権者の共通利益をいかにして守るか、そこに金融の高度な技法があるのである。

奨学金は全く硬直的

 奨学金では、同一金利のもと、学業終了時までに累増した債務の元利合計額を、毎月の元利均等の標準弁済額で除して、債務弁済期間を定めるという機械的な方法がとられていて、債務者の属性に応じた設計はなされていない。

 しかし、出世払いの場合には、各債務者が出世できるかどうかは決定的に重要な要素であって、金融の本質からいえば、出世すればするほど債務者も債権者も共により大きな利益を得るように、融資条件が設計されなくてはならない。では、自由に民間の学資ローンを考えるとき、その設計はどうあるべきか。

 まずは、なによりも債務者と債権者の利益が相反しないことが重要だ。つまり、債務者の行動について自己の利益になる方向へなされるとき、同時にそれが債権者の利益にもならなくてはならない、ということである。別の言い方をすれば、債権者の利益になる方向へ行動することにつき、債務者の利益誘因(インセンティブ)を設計しておく必要があるのだ。

学業の成績で決まるローンの条件

 敢えて率直な言い方をすれば、高学歴・高成績の学生ほど、卒業後の所得が大きくなる傾向を否定することはできない。もっと露骨にいえば、世間で一流とみなされている大学を優秀な成績で卒業する学生は、債権者の立場からいえば、好条件で優遇できる債務者だということだ。

 これは、学資ローンの弁済原資が卒業後の所得である以上、所得の大きさは債権の安全性を高め、安全性が高いほど、融資条件が債務者に有利になる、つまり金額についてはより大きく、金利についてはより低くなるのは、当然だということである。

 学業に励み、よりよい成績を修めれば、就職も有利となり、学資ローンの条件もよくなる、このことは、金融の本質にかかわるばかりでなく、教育という産業の本質にもかかわることである。日本の奨学金は、利益誘因を制度設計に織り込むことが上手にできていない。そこに大きな問題があるのだ。

 米国のビジネススクールの学費は著しく高いが、背景として難関校を高成績で卒業すれば、就職条件が極めてよくなることがある。そのことを前提にして、学資ローンが成り立っているのである。実際、高額な学費は高額な学資ローンで賄うしかなく、高額な学資ローンは卒業後の高所得で弁済されるほかない。また、そうした環境下だからこそ、学生は必死で学業に励むことになる。

フィンテックによる学資ローン

 成績を学資ローンの条件に反映させるためには、債務者は、成績という個人情報を債権者に提供しないといけない。

 多数の学生について定期的に成績情報を更新し、それを融資条件に反映させていくことは、考え方としては簡単でも事務処理の技術的には容易ではない。そこにフィンテックが登場しなければならない理由がある。つまり、物理的に手作業でできないことも、情報の入手から処理までIT技術で自動化してしまえば、可能になるということである。

 また、ひとたび情報処理を自動化できる環境が整えば、入手情報の範囲を一気に拡大し、成績のみならずクラブ活動、ボランティア活動などの学生の行動と将来所得の関係について、統計的に有意なものを見出すことができるかもしれず、そうなれば学資ローンの条件は、より精緻に決定できることになる。

 フィンテックというのは多様なものを含むが、その一つの代表的な分野こそ、融資条件の決定についてIT技術を用いて膨大な外部情報を取り込み、人工知能の活用も含めてその処理の高度化を図ることなのである。

個人情報保護の真の意味

 フィンテックの鍵は、IT技術もさることながら、債務者が情報を提供する利益誘因である。日本ではフィンテックにおける情報の収集と処理について、個人情報の保護法制の問題やITの技術的側面ばかりが議論されているが、本質的なことは、債務者が情報を提供する利益誘因なのである。

 個人情報保護の問題も、原理的には、提供する側の合意があれば保護から利用への道が開けるのだし、ひとたびその道が開かれれば、後は単に技術的なことにすぎないのである。

 では、なぜ債務者は積極的に個人情報を提供するようになるのか。それは、そのほうが債務者に有利になる仕組みがあるからである。例えば、学資ローンの条件が学業の成績で決まるからこそ成績を開示する、そこにフィンテックの本質がある。

2016年10月14日

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