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GPIFの株式シフトと議決権行使

磯山 友幸
経済ジャーナリスト
元日本経済新聞記者

 国民の年金資産130兆円余りを運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の改革案が固まった。理事長が最終責任を負う「独任制」と呼ばれるこれまでの体制を見直し、外部の専門家などの理事が合議で運用方針などを決める「合議制」に変えることが柱だ。

 GPIFを巡っては安倍晋三内閣が運用ポートフォリオ(資産構成割合)の見直しを2014年秋に行い、債券中心から株式へと大きく運用先をシフトさせた。その際、組織のあり方、いわゆるガバナンス改革を行うことが「車の両輪」とされたが、ガバナンス改革にはGPIF自身の抵抗もあって、遅々として進まなかった。それが、2015年末の厚生労働省社会保障審議会年金部会でようやくまとまり、合議制への移行が承認されたのだ。

 ところが、ここでもう1つ問題が持ち上がった。GPIFが直接、株式を取得する「自主運用」の解禁を求めたのである。従来は信託銀行など金融機関に委託して運用していたが、この原則の見直しをガバナンス改革に合わせて行うべきだとしたのだ。

 そこで問題になったのが、GPIFが株式を直接保有した場合の議決権行使。これまでは保有する信託銀行などが一定のルールに従って株主総会での議案に賛否を示していたが、GPIFが直接投資すれば、当然、議決権はGPIFが行使することになる。

 これに経営者団体などが真っ向から反対した。現在の体制ではGPIFの理事長は政府が任命する。事実上の政府機関が民間企業の株式を保有し、議決権を行使することは、政府が国民の資産を使って民間企業を支配することになりかねない、というのだ。極端な言い方をすれば、政府の意向に従わない経営者の選任議案にGPIFが反対するようなことが起きかねないというのだ。

 GPIF側は保有する株式の対象はあくまで指数に連動した運用成績を狙う「パッシブ運用」だけだとしたが、経営者団体などの理解は得られなかった。結局、年金部会の議論の末に、自主運用解禁は見送られることとなった。一部、リスク回避(ヘッジ)目的のデリバティブの利用だけが認められた。

 もともとGPIFの資産は国民の年金資産だ。それを運用で増やすには株式投資した企業に業績を上げてもらい成長を続けてもらう必要がある。あるいは配当を増やしてもらわねばならない。それを経営者に求めていくには、保有株の議決権が大きな武器になる。

 株主還元に熱心でない経営者の選任議案に反対することなどは、欧米の年金基金などが当たり前のように行っている。本来はGPIFも同様に、投資リターンを上げるための手段として議決権を使うべきだろう。

 もちろん、こうした動きに経営者が反対するのは、当然だ。反対する理由として「政府の支配」を掲げるのは、あくまでも建前。本音はGPIFが「モノ言う株主」に変わることで、緩い経営が許されなくなることを恐れているのだ。緩い経営を続けたいというよりも、経営に口を出されるのが嫌なのである。議決権行使を通じて企業経営にプレッシャーがかかることを何とか避けたいわけだ。

 「政府の支配」が建前である証拠に、政府が大半を出資する政府系ファンドが経営危機に直面した上場企業に出資することには、経営者団体は反対しない。それどころかむしろ賛成、歓迎している。

 GPIFに世の中の疑念の目が向けられるのは、年金資産の保有者である国民の利益よりも、政府の意向を忖度する組織だと見られているからだ。独任制から合議制に変わることはそれを変える大きな一歩だが、これで十分なわけではない。

 年金者を向いた運営を行って年金者の利益を最大化するよう厳しく義務付け、それができているかを年金者の目でチェックする。そんな体制を築く必要がある。米国では1974年にERISA法(従業員退職所得保障法)が制定され、年金運用受託者の責任が明確化された。

 日本では繰り返し日本版ERISA法の導入が話題にのぼってきたが、これまで実現していない。2014年に機関投資家のあるべき姿を示すスチュワードシップ・コードが導入されたものの、実効性のある法律は未整備のままだ。

 GPIFが年金者の利益を第一に考えているという姿が鮮明になれば、その時は、議決権行使に疑念を挟むことは難しくなる。

2016年3月15日

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