2016年9月15日
会計の世界において、メディアでは不正会計やIT化による会計事務職の減少などネガティブな話題も目につくが、IoTという言葉に象徴される“社会の変化"は企業のビジネスを変えていくだけでなく、経営者のマネジメントスタイルにも変化をもたらし、さらにはバックエンドである会計の世界も着実に変えていくのではないかと考えられる。そこで当コーナーでは、企業会計や経営管理の基盤を支えている最先端のプレイヤーの方々をゲストとして迎え、IoTの時代に会計や経営管理の仕組みはどのように変わるのか、変わるべきなのか、またそこで会計に携わる人は何処を目指して行けば良いのか、将来を見据えたお話を伺っていく。
第4回は話題のブロックチェーンの最前線に取り組む、有限責任監査法人トーマツの伊藤哲也氏と片山亮氏のお二人をお迎えした。
(インタビュー・執筆:日本CFO協会主任研究委員 櫻田修一)
ブロックチェーンとは何か?
櫻田 本日は最近話題のブロックチェーンについてお伺いしたいと思います。2015年あたりから急激に盛り上がってきたブロックチェーンについては、金融関係に携わっている方々は意識されていますが、企業経理に携わっている方々にはなかなか馴染みがないと思います。まずは、ブロックチェーンとは何か。その概要についてご説明いただけますか。
伊藤 もともとブロックチェーンはビットコインから始まった技術ですから、お金、決済の話が一つありますが、われわれはもう少し広く考えています。特に会計経理で言うと、「取引の記録データそのもの」という側面があることが一つの特徴だと思っています。
片山 そもそもブロックチェーンは、ビットコインの中核の技術として考案されたものです。ブロックチェーンの一形態がビットコインなのではなく、ビットコインのためのブロックチェーンでした。加えて暗号の技術とピア・トゥ・ピアというネットワーク技術を応用してデータの信頼性を守っていく技術であったので、さまざまな分野への応用の期待が持たれたのです。
櫻田 仮想通貨をつくるために、信頼性を持たせる仕組みとして考案された技術なのですね。ビットコインという仮想通貨を使う人たちに、要は「安心して使って大丈夫ですよ」と言うための技術基盤、テクノロジーの仕組みを考えた。もともと電子通貨取引のためだから、まずは金融取引で使えるという話になっているわけですね。
伊藤 ブロックチェーンは粒々の取引をまとめて取り扱えるようにしています。ネットワークを介して、ネットワークに参加した人たちと交換できるところが特徴だと思います。それを可能にしているのが、ネットワークと暗号化による改ざん防止技術です。これがブロックチェーンの中核の技術になっています。
まとめて使うと通貨のように使うこともできるし、取引記録そのものとして扱うこともできます。だから、会計に影響してくるのです。
櫻田 ところで、どうしてこの技術は「ブロックチェーン」と言うのでしょうか。
片山 それは、ブロックチェーンのデータの構造からきています。まず取引(フロー)を一定の単位でブロックという箱にまとめます。システムで記録して、ブロック化するとき、前の取引情報も圧縮して同じひと塊のデータにしてブロック化をしていきます。これをチェーン状に連鎖させて後ろにつなげていくデータ構造を持っているわけです。これが「ブロックチェーン」と言われるゆえんです。
過去の情報が同じブロックの中に格納されているので、ある一定時点のデータを改ざんしようとすると、後につながるブロックもすべて改ざんしていかなければなりません。これが、ブロックチェーンが改ざんが非常に難しい技術だと言われているところです。
一方で、こうしたデータの構造を守らなければ改ざんできるのではないか、という疑問も出るでしょう。ブロックチェーンのデータ構造が守られている理由は、例えばAからBに取引情報を送ったとき、同時にブロックチェーンに参加しているユーザー(ノード)にも同じ取引情報が書き込まれて、参加者全体でこの取引情報を共有します。共有することによって、ある一つのノードのところで取引情報が改ざんされたとしても、他の人たちが同じ情報を持っていますから、「違うよ」と言うことができます。
この二つでデータ信頼性を高めることができるのが、ブロックチェーンの特徴です。
櫻田 素朴な疑問ですが、ブロックチェーンのデータベースを複数の方が本当に見ているのでしょうか。
伊藤 見ようと思えば見に行けるというのが、たぶん正しい言い方でしょうね。
櫻田 仕組みとして確立されているから、本気になって見に行こうと思ったら見に行けるということですね。
伊藤 今おっしゃった「確立している」というところが、一つのポイントです。ITとしての技術はある程度のレベルまでできていると思いますが、それが全体として機能するには、いろいろなハードルがあると考えています。そこも含めて全体が機能するかという点が、もう一つのポイントだと思います。
2016年9月15日