2016年4月15日
- パネリスト(ご氏名50音順)
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アレシャンドレ・
カルヴァリャウ 氏SAPジャパン株式会社
代表取締役最高財務責任者昆 政彦 氏
スリーエム ジャパン
株式会社
代表取締役副社長執行役員高原 宏 氏
元武田薬品工業株式会社
コーポレートオフィサー
経理部長
EY税理士法人
シニアアドバイザー
- モデレータ
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大田 研一 氏
日本CFO協会 主任研究委員、
IAFEI(国際財務幹部協会連盟)
INTERNATIONAL TREASURY COMMITTEEメンバー
元アジアエリアプレジデント
大田 事業のグローバル展開によって経理財務の役割が大きく変わっています。本日は優秀なCFO経験をお持ちの3名のパネリストをお招きしました。現在の環境変化への経理財務部門の対応について、①組織、②人材、③システムの三つの視点からお話を進めさせていただきます。
グローバル化に対応するための経理財務組織とは?
大田 まずは組織面の課題について、国内中心に事業を行ってきた会社がグローバル展開していく上での具体的な取り組みや課題について、高原さんのご経験をもとにアドバイスがあればコメントをお願いします。
高原 ポイントは二つあります。一つはCFO機能の統合、強化です。かつてタケダは経理部と事業戦略部が併存していました。計画は事業戦略部、実績やトレジャリー、そしてタックスは経理部が担っていました。しかし、グローバル化して従業員の過半数が外国人になると、欧米のように、計画、実績、トレジャリーを一つにまとめたファイナンス組織に変えていく必要性が生じてきました。最大のポイントは、CFOが計画に対する権限を持っているかどうかです。つまり、過去ではなく将来に対してプランニングする権限があるかどうかです。日本ではCFO機能が、経理部、事業戦略部、広報部に分散しているケースが多く、これは統合しなければならないと思いました。それによって、外国人の従業員にもわかりやすく、納得性が高まりました。
もう一つは、グローバル統合の推進です。日本企業はよく言えば分散管理体制、悪く言えば現地任せです。特にM&Aを行っても現地の自主性を尊重して本社からあまり口を出さない会社が多い。悪いことではないと思いますが、行き過ぎると個別最適となり、グループ最適化の視点が弱くなります。経営管理の観点から、一定のグローバル統合する余地が日本企業には残されていると思います。
大田 ありがとうございます。日本企業と欧米企業の経営管理体制の違いについて、昆さんにご意見を伺いたいと思います。
昆 私が経験した米国企業2社では、CFO組織は大きく三つに分かれています。一つ目が「経営支援部隊」で、これが日本企業ではほとんどありません。スリーエムではビジネスカウンセル、GEではFP&A(ファイナンシャル・プランニング・アンド・アナリシス)と呼ばれるチームで、戦略設定と戦略遂行のサポート部門となっています。二つ目が、コーポレートアカウンティング部門(経理)で、外部報告もここで行います。三つ目が、トレジャリー部門(財務)です。この三本柱でCFOを支えています。
三つの部門それぞれにおける必要なスキルや経験が全く異なるので、組織もはっきりと分けてあります。例えば、コーポレートアカウンティングでは会計士資格の取得を推奨するほどに会計的な制度の難しさや複雑性が増していますが、経営支援で求められるのはビジネス自体の深い理解です。その上で会計への翻訳機能を備えているのが経営支援です。
過去と将来を別のチームにして明確に分離することで、それぞれが機能する。将来志向の重要性が言われますが、その足を引っ張っているのが、実は会計原則です。会計は基本的に過去に起きた確定した事象を扱います。これは大事な使命ですから、一つのチームが責任を持って担います。ここで、将来まで見ろというのはある意味酷な話です。さらにスリーエムもGEも、経営支援チームでは外に報告する財務会計とは別のPLを使っています。経営会計上で作られた内部の指標でサポートしていく。スリーエムの場合は、コントリビューションPL(経営会計PL)の売上利益を、事業部長および社長も完璧に理解しています。
大田 ありがとうございます。経理財務からもらえるのは過去の情報ばかりで、もっと将来の情報が欲しいというCEOの声も聞きます。会計原則に基づいた過去の取引の記録に固執していると、切り替えができない。経理部門、財務部門、経営企画の壁が破れないという経理財務部門の組織的な問題があり、その全部を束ねるだけの経験と見識があるのかがCFOに問われてもいます。
カルヴァリャウさんには、シェアードサービスセンター(SSC)について伺います。日本企業のグローバル化が進めば、グローバルなSSC構築が必要になると思います。欧米のフォーチュン500社のほとんどは、グローバルなシェアードサービスセンターを持っています。SAP社が被買収合併会社のシステムを、6カ月以内に完全に切り替えて自社のシステムに組み込めるのはSSCがあるからです。SAP社では、SSCをどのようにして始められたのでしょうか。
カルヴァリャウ SAPのSSCは10年前に始まりました。ローカルで決定開始したシェアードサービスモデルが成功し、本部でも展開することになりました。数年後の姿を描いたとき、従来の財務が組織をサポートするやり方ではあまりにも高くつくと考えたからです。SSCの展開と同時に、標準化も進めました。これには、実際のオペレーションのグローバル化も含んでいました。
私がトライしたブラジルでのSSCへのプロセス移行は、3年続きで失敗しました。4度目にトライしようとしたとき、チームメンバーから「3回も失敗したのだから、もうできない」と言われました。それでもトライアルを続け、最終的に成功しました。SSCへの移行は、SAP本社の決定でした。CFOグループ全員が一丸となって、シェアードサービスモデルを構築していきました。最終的には社内の信頼構築が成功の鍵でした。マーケティングユニット、ビジネスユニット、SSC、アカウント、それぞれが理解しあっていなければ批判が生まれます。協調しあえば信頼が生まれてきます。CFOはとてもうまく信頼を構築していったと思います。
大田 ありがとうございます。大きな決意を持って進められたプロジェクトだったのですね。昆さん、スリーエム社ではいかがでしたか。
昆 スリーエムではERPの導入は無理だと言われていました。実際、9年前に私が入社した当時、三度目のプロジェクトが失敗に終わったところでした。スリーエムは海外売り上げが65%を占め、各地域の特性をうまく活かした経営が特徴でした。一方では、それがグローバルの標準化には大きなネックとなっていました。そこでSSC構築に取り組んだわけですが、シェアードサービスという言葉を使うとみんな嫌がりますし、ソーシングの中、サプライチェーンの中でやると失敗します。
そうした失敗の経験を踏まえて、スリーエムでは3年前から「ビジネストランスフォーメーション」という取り組みを開始しました。これは、「ポートフォリオマネジメント」「イノベーション」と並んで、コーポレートの三大ストラテジーの一つになっています。ビジネストランスフォーメーションの柱は「センター・オブ・エクセレンス」(優秀なものを一つに集めて全体に伝えていく)です。「一つに集めてコストを下げる」ではなく、「素晴らしいやり方をみんなで習って利益を上げよう」という取り組みに移っていったのです。シェアードサービスという言葉は一切なくなりました。生産管理、購買、マーケティング、ファイナンスの会計資料等を「センター・オブ・エクセレンス」で全部まとめていくことを進めようとしています。ビジネストランスフォーメーションの部署はコーポレートではCEOの直轄です。ERPの導入もこの部署で進めています。ビジネストランスフォーメーションするための一つの手段としてERPをグローバルで入れていくという位置づけになっています。
9年前「うちの会社では無理だ」と言っていたものが、グローバルで凄まじい勢いで動き始めています。やり方を少し変えることで、ストラテジーの方向性で、組織はこれほどまでに動きがよくなるのだと実感しています。
大田 日本企業にとって非常に参考になる明るいお話ですね。どこか一つの部門からスタートするのではなくて会社の一大方針として、CEOやCFOがマーケットに対してコミットすることの重要性がよくわかりました。
2016年4月15日