2015年8月20日
グローバル化の進展とキャリア形成
古森 剛
株式会社CORESCO
代表取締役
グローバル化の継続的進展の中で、企業の人財マネジメント面でも「グローバル」という言葉が頻繁に聞かれるようになった。いわく、「グローバル人財」、「グローバル・リーダー」、「グローバル・タレント・マネジメント」……。そうした中で、自己のキャリアをグローバル化の中でどう位置付けるか悩む人も多いようだ。今回の寄稿では、グローバル化の進展とキャリア形成について述べてみたい。
グローバルとは何か
「グローバル」(global)とは何か。本来の意味は、丸い地球の全体で何かがつながっている状態を表すものだ。国家間の関係を表すインターナショナル(international)とは想定するつながりの広さや複雑さが異なる。地球全体で物事がつながっているイメージが「グローバル」だ。
これがどの程度現実なのかといえば、その状況は企業、事業、仕事により異なる。企業を取り巻く環境という点では、好むと好まざるとにかかわらず既に「グローバル」だ。本社系の仕事は、この流れと直接リンクする。戦略、事業開発(M&Aやライセンシングを含む)、研究開発、マーケティング、物流、財務・経理、人事・総務、法務・コンプライアンス、ITなどさまざまな分野で、本社側の仕事は「グローバル」な要素が高くなっている。
一方、仕事によっては、グローバルという言葉より「インターナショナル」の方が実態に近い場合も多々ある。「インドにおける○○事業の○○業務を担当しています」などのように、本国(日系企業の場合は日本)と他国の関係性において仕事をしている人も多い。そして、現在でもかなりの数の人々が日本国内向けの「ドメスティック」な仕事をしているのが実情だ。人口構造上は縮小していく国内経済だが、依然としてパイは大きい。
このように、グローバル化の進展は事業環境面では現実のものであっても、個々の人財の立場では、まだ一様ではない。グローバル化の進展と個々人のキャリア形成は、個々人の置かれた立場や状況、キャリアへの志向性等によって多様な形をもってあらわれるものだ。
多様性を超えたシンプルな視点
したがって、「グローバル化の時代だから、あなたのキャリアもグローバルで考えなさい」と言っても、かなりの数の人が腑に落ちないものと思われる。アンチ・グローバルとまではいかなくても、実感が持てない人も多々いるのだ。
個々人のキャリア形成を応援していく観点では、「グローバル」なるものがその人のキャリアにどのように意味を持つのかを考える必要がある。人間は複雑な生き物であるから、当然のことながら「グローバル」という言葉に対しても受け止め方が個人ごとに異なる。そして、これをキャリア面談などの場で触れる場合には、上司が個人として持つ「グローバル」のイメージと、面談を受ける個々人の持つイメージが異なることに留意が必要だ。
個々人の受け止め方の多様性を超えて、「グローバル」の話を個々人にとっての「意味」に変換して議論するためには、一旦シンプルな土台に立ち返ってみてはどうか。私の場合、人間というのは「損・得」、「快・不快」、「安心・不安」といったレベルにまで戻ると、個々人の抱えたさまざまな多様性を超えた対応がしやすいと感じている。ちなみにこれは、キャリアの話に限ったことではなく、多くの多様性対応シーンにおいて言えることだ。
「グローバル」な視点で自身のキャリアを考え、何らかのアクションを起こしていくことはその人にとって「損なのか、得なのか」。そのような方向で考え行動することは、その人にとって「快適なことなのか、それとも不愉快さを伴うのか」。そして、「将来のことを考えたときに、どのような道を歩き始めていれば安心度が高いのか」。字数制約のある本稿では抽象的な言い方になってしまうが、こうした視点で相手に向き合うことがお奨めだ。
人生における「可能性」と「希望」の価値
例えば、「グローバル」なキャリア形成に伴う努力や学習を「不快」に感じる人がいたとしよう。それは簡単には変えようがない。一方、将来のさまざまな環境変化や自身の生活能力などの可能性の広がりを一緒にイメージしていけば、ドメスティックでは「不安」という感情が芽生えるかもしれない。あるいは、企業としての事業の広がりの可能性から紐解いていけば、将来どこに重要な仕事が生まれ、どのような仕事に高い報酬が支払われるかというイメージを描くこともできるだろう。これは、損得感情につながる視点だ。
そのような議論をしたところで、やはり「不快」が勝るようであれば、その人を「グローバル」の方向にゴリ押しする必要はない。キャリアは人生の重要な一部であり、その人の人生は最終的にはその人が決めなければならない。しかし、「グローバル」な方向性は個人的に「不快」ではあるが、それに伴う「得」と「安心」をとりたいと感じる場合には、どのようにして「不快」な努力や学習に取り組んでいくかの相談に乗れば良い。
つまるところ、人間は過去と現在を見つめつつ、未来の可能性に希望を感じて歩んでいくものだ。「これまでどうだったか」、「今現在、どうしているか」だけでなく、その人にとっての「これから、どうなる可能性があるのか」という点にまで具体的に視野を広げる機会を生むことができれば、その人なりに「損・得」、「快・不快」、「安心・不安」の未来に向けたトレードオフを考えることができるはずだ。
「グローバル」という言葉がキャリアマネジメントの世界にも色濃く滲んでくる昨今であればこそ、キーワードとして「グローバル人財」を叫ぶのではなく、個々人にとっての意味に還元した話をするようにしたい。
2015年8月20日