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2015年8月20日 

コーポレートファイナンスから
オブジェクトファイナンスへ

森本 紀行

HCアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長

 企業の資金調達には、目的がある。資金使途のない資金調達などあり得ないし、金融界の立場からも、使途の不明確な資金を供給することはできない。資金調達には、必ず目的があり、使途がある。その資金使途がオブジェクトである。

 金融は、伝統的に企業に対する金融、即ちコーポレートファイナンスであった。しかし、金融の機能は、企業の資金調達におけるオブジェクトの実現であるから、金融が社会的使命に忠実であろうとすれば、オブジェクトそのものへの金融、即ちオブジェクトファイナンスに至るのは、当然である。

 金融は、コーポレートファイナンスからオブジェクトファイナンスへ向かわざるを得ないのである。

オペレーティングリース

 資金使途の代表的なものは設備投資だが、コーポレートファイナンスでは、企業に対して自己の資産として設備を取得するための資金を供給することになる。そして、普通は当該設備を担保にとるのだ。このとき、オブジェクトは設備であるから、オブジェクトファイナンスならば、直接的に設備そのものを企業に供給するであろう。

 要は、オペレーティングリースである。

 設備のなかには企業固有のものもあるが、産業界で一般的に使われるものも多い。一般性のあるものならば、企業として所有する必要もない。実際、例えば空運業においては、もはや航空機の所有は必須の要件ではない。

 空運会社は、かつては航空機を購入し、所有して運航していた。故に、その購入資金はコーポレートファイナンスで賄われていたのだ。それが、現在では航空機の多くは、リース会社が所有している。空運会社ではなくて、リース会社が航空機を購入するための資金を調達しているのである。

 こうして、航空機を担保としたコーポレートファイナンス、またはそれと同等の意味をもつファイナンスリースから、オペレーティングリースへ移行したということは、会計的に表現すれば、航空機は空運会社の貸借対照表からリース会社の貸借対照表へ移動したということである。

 航空機のほか、車両、船舶等の輸送用機器、事務用機器、医療用機器など、設備を使う企業の固有性に支配されないもの、同じ業種のどの企業でも使用可能なものは、原理的に全てオペレーティングリースの対象になるのだ。

不動産ファンド

 特定の企業の固有性に支配されない設備で、オブジェクトファイナンスの対象になるもののなかで、オペレーティングリースの形態をとらないものもある。それが不動産ファンドである。

 かつては、日本企業の多くは、本社等の不動産を自ら保有していた。当然その保有に見合うコーポレートファイナンスがなされていたのである。しかし、現在では多くの企業が不動産を売却し、オフィスビル等を賃借しているのである。

 それらの不動産の多くは、現在では不動産ファンドが所有している。不動産ファンドは、投資家から直接に資本を調達し、銀行等からの借り入れを合わせて不動産保有をファイナンスしているのである。

 オフィスビルだけではなく、産業界における利用の一般性がありさえすれば、独立した投資対象になり得るのであるから、不動産ファンドは、現在では、物流施設、エネルギー関連施設、インフラストラクチャーなどへ対象を拡大しつつある。

在庫ファイナンス

 企業がもたなくてはならないものに、在庫がある。これも設備と同じことで、一般的需要がある原材料在庫は、オブジェクトファイナンスの対象になる。原材料のなかで最も一般性があるのは天然資源であって、鉱物資源と森林資源は、オブジェクトの代表的なものである。

 例えば、かつては森林資源は、製紙会社等が所有していたのであるが、米国などでは、財務の効率化のために投資家に売却されるようになった。そうして生まれたのがティンバーファンドである。ティンバーは、生きて立っている木のことである。鉱物資源等でも、独立したファンド化の動きは、順次進みつつあるところだ。

 製品在庫は、一般には企業の固有性が強く、独立した金融の対象にはなり得ないのだが、製品に一般性のあるものならば、オブジェクトファイナンスは可能である。特殊な例として、牛の肥育産業における牛がある。牛は、肥育期間中は製品在庫なのだが、この牛を担保にした金融は、日本では広く行われているのだ。いわるアセットバックトレンディングである。

トランザクションファイナンス

 運転資本は、売上代金を回収するまでには一定の期間を要することから、その間の資金の調達が必要となることに起因するものだ。ならば、取引成立と同時に第三者が代金支払いを肩代わりしてくれれば、運転資本の調達は必要でなくなる。

 肩代わりをする第三者は、一定の金利相当額を得て行うので、それ自体が一つの金融機能として独立する。これは、取引、即ちトランザクションを対象としたオブジェクトファイナンスだから、トランザクションファイナンスである。

 トランザクションの代表は貿易だが、貿易を対象としたトランザクションファイナンスの歴史は非常に古い。また、日本では、商取引自体のなかに資金決済を繰り延べる手法が内包されてきた長い歴史がある。専門の金融機関ではなくて商社等が金融機能を代替してきたのだ。理論的には、この取引に内包された金融は、トランザクションファイナンスとして外部化させ、独立化させることが可能である。

プロジェクトファイナンス

 設備の建設等のプロジェクトもまた、独立したオブジェクトとしてファイナンスを設計できる。それが、プロジェクトファイナンスである。

 これは、プロジェクトの対象が企業固有のものであれば、プロジェクト完了後はコーポレートファイナンスへ移行するのが普通であろう。しかし、一般性のあるものならば、不動産ファンド等へ売却することも可能である。

リスクファイナンス

 コーポレートファイナンスにおける株式の利用については、明らかに危険準備としての金融機能が含まれている。ならば、リスクをオブジェクトとするオブジェクトファイナンス、即ちリスクファイナンスも可能であろうか。

 ここにも、オブジェクトファイナンスの一般理論が働く。危険が一般性のあるものならば分離可能だが、企業固有のものならば、不可能である。不可能だからこそ、コーポレートファイナンスとしての株式があると考えられるのである。

 一般性のある危険については、株式という形態で危険準備金をもつのは財務効率が悪いわけで、そこで工夫されたのが保険である。保険こそ、リスクファイナンスの代表的手法だ。ここでいう保険は、標準化された保険、より簡単にいえば保険会社が提供する保険である。

 保険以外にも、リスクファイナンスの手法は考え得る。それらは、保険に代替するものとして代替的リスク移転手法(オルタナティブリスクトランスファー)と呼ばれる。これらの手法も、現在では独立した投資対象として構成されているのだ。

2015年8月20日

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