2015年6月15日
財務マネジメント・サーベイ
【特集】欧米企業における
コントローラー部門の役割
萬成 力
株式会社ニフコ
管理本部 財務経理部 部長
日本CFO協会主任研究委員
今回の財務マネジメント・サーベイは、フランスCFO協会主導のもとに、企業内で経営管理(コントローラー)部門が果たしている役割を明らかにするために2010年に開始された調査で、昨年はIAFEI(International Association of Financial Executive Institute)加盟の世界17カ国の団体の協力で国際的な規模で実施され、31カ国の実務家から回答を得た。日本CFO協会も、会員企業各位の協力を得て、協会として調査に参加している。ご協力をいただいた企業の方々に、誌面を借りて改めてお礼を申し上げたい。
日本企業ではあまり馴染みがないが、欧米系の企業においては必ずコントローラーという職種があり、トレジャラー(財務部長)との対比で、一般的に経理部長と訳される。日本の経理財務部門の業務のうち、実務(経理決算作業や入出金管理、資金為替など)以外の業務に関して責任を持つ役職で、経営管理部長に近い。日本企業においては、事業計画の策定や業績管理など、管理会計系の業務を経営企画系の経営管理部長が担当するケースが多い一方で、財務報告など制度会計系業務については、財務経理系の伝統的守備範囲となっており、コントローラー業務が大きく制度会計系と管理会計系の二つに分かれている場合が多い。これが欧米系企業との相違点となっているようで、ご回答者の業務がどちらに軸足を置いているかでサーベイの回答も違ってきているようだ。この違いを頭の隅に置いて、日本企業との対比も含めてサーベイの結果を見ていくとしよう。
コントローラーの業務
コントローラーの業務には財務報告、計画策定、予算作成、予実差異分析、予測、業績分析(ビジネスレビュー)、事業部門との調整、情報システムおよび内部統制が含まれる。コントローラーの時間を100%とした場合に、財務報告18%、計画・予算策定16%、予測13%の順に時間を費やしているが、本来なら最も付加価値の高い、事業部門との調整、予算実績差異分析等の業務にもっと時間を割くべきと多くの回答者が考えている。
実際の業務時間割合とその業務の付加価値の関係を表した図1を参照してほしい。内部統制、情報システムは付加価値も低く、時間もあまり費やしていないのが見て取れる。面白いのは売上が伸長している企業が、内部統制や情報システムに注力しているのに対して、売上が減少傾向の企業は、内部統制や情報システムに割いていた時間を減らし、予測に最も注力していることだ(表1参照)。売上減少傾向の企業にとって、今後の事業の方向性を決定する上で、近い将来を正確に予測することが必須条件となるからだと推察される。
コントローラーにとって最も付加価値が高く時間を割きたいと考えている業務が、事業部門との調整だ。「さまざまな指標や分析ツールを駆使して事業の拡大や効率化に社内コンサルとして積極的に寄与したい」という熱い思いが伝わってくる。日本企業も事業ごとにコントローラー機能を持つことを検討する必要があるのではないか。
将来予測のプロセス
コントローラーの最も重要な業務である、戦略計画・事業計画・予算およびローリング予測といった将来予測に関わる業務を、各社がどのように運用しているかを見てみよう。79%の企業が戦略計画・事業計画を策定している。特筆すべきは定期的に予測を更新する「ローリング予測」で、2012年25%、2013年37%、2014年45%と年々増加しているのが分かる (図2参照)。戦略計画は、中期事業計画の一環として利用されており、計画期間は3年から5年が60%で、29%は3年未満だ。一方、事業計画は、18%が3年から5年で、79%は3年未満となっている。計画作成に要する期間は、戦略計画の74%、事業計画の84%が3カ月以内だ。
予算作成に要する期間にも短縮化傾向が見られ、73%は3カ月未満で作成しているが、予算データの粒度は粗くなっている。全体の78%が予算作成を長期事業計画プロセスに組み込んでいる一方で、月次予算を作成する企業が54%にまで減少したことは、ローリング予測の伸長の影響と思われる。
北米企業の60%がローリング予測を採用しているのに対して、欧州企業は39%にとどまっている。また、予測を採用している企業の64%は、「予測情報の質および付加価値は、いかに早い段階で注意を喚起し、修正アクション・プランの実施に結びつけることができるかどうかで決まる」と答えている。日本企業でローリング予測を採用している企業はまだまだ少なく、既に前提条件が変わってしまった期首計画や予算をそのまま年度末まで使っているケースも見受けられ、経営管理手法として改善の余地は大きいように思う。
月次ベースで予測の更新を行っている企業数は、対前年比17%減少し、更新頻度を半期に一度とする企業が増えている。また、北米企業の50%が月次ベースの更新をしているのに対して、欧州企業は29%、北米企業の大半が1週間以内で予測を策定するのに対し、欧州企業は2週間以内が大半となっていて、北米企業のスピード重視の姿勢が際だった形だ。
経営管理手法
主な経営管理手法の利用率については、図3を参照願いたい。最も人気があるのがベンチマーキング(以下ベンチと呼ぶ)で、年々増加し72%に達している。バランススコアカード(BSC)やABM/ABCに関しては、3割程度の企業が利用しており、増減は少ない。一時期、一世を風靡したZBB(ゼロベースバジェット)やビヨンドバジェットの利用は年々減少傾向にあるが、図4を見れば分かる通り、売上減少傾向の企業で多く利用されているようだ。業績低迷の企業が業績回復の切り札として、過去実績にとらわれない手法での大胆コストカットを志向していることを示しているように思われる。
最も普及しているベンチには、外部ベンチ、内部ベンチ、またはその組み合わせがあり、内部ベンチは予算・予測といったプロセスで、外部ベンチは戦略・事業計画といったプロセスで利用されており、内部外部を併用している企業も多い。想定外に内部比率が高いのは、比較データの入手が容易な内部ベンチの活用により、ベストプラクティスの水平展開を図る企業が多いのではないかと推察される。
BSCの評価指標の数5個以下の企業は、前年57%から67%に増加、20個以上の指標を使用している企業は、5%未満となっている。4つの領域では財務の視点が最も人気があり、BSCを通常の財務報告で見えない情報を見つけ出す手段として利用していることが伺える。
結論
今回は紹介できなかったが、上記の他に、経営情報システム、財務組織の効率性評価軸など、興味深いサーベイが含まれている。サーベイの分析を通じて、昨今の危機的環境の中で、世界各国の企業におけるコントローラー部門の重要性がますます高まっていることを実感した。また「会社の置かれている状況によって求められる経営管理手法や指標が異なる」という結果は非常に興味深い。コントローラー部門は、事業運営と企業業績を結びつける連結役として、絶えず変化する環境において組織の柔軟性を高め、激動する市場でイノベーションを実現するため、より高度な役割を果たしていくことが経営層から期待されているといえよう。我々も、自社の経営管理手法や指標ツールが現在の経営環境や戦略に合致しているか、一度見直してみる必要がありそうだ。
2015年6月15日