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 中期経営計画「Brand-new Deal 2017」において、さらなる成長戦略推進により純利益ベース4,000億円に向けた収益基盤の構築と、安定的にROE13%以上を目指す伊藤忠商事。これまでもM&Aや事業提携などを積極的に活用し、非資源分野で高い成長を遂げてきた同社で、2015年4月のCFO就任以前から多くのM&Aに深く関わってきた伊藤忠商事CFOの鉢村剛代表取締役常務執行役員に、M&Aを成功に導くための総合商社におけるCFOの役割を聞いた。

個別案件の採算性という次元を超え、遂行に値するか。CFOとして意見する

──御社は国内外で大きなビジネス・ポートフォリオの入れ替えを行い、M&Aでも多くの経験があります。企業戦略を遂行するうえでM&Aというツールをどう捉えておられますか。

 持続的成長のために、M&Aは不可欠なツールと認識しています。当社は総合商社ですから、あらゆる分野のあらゆる業態に対し力強い成長を期待しています。それぞれ持っている事業体を大きくしていくなかで、他社よりも成長していかなければならないというのは、経営者に与えられたミッションです。Organic growthだけでは限界がありますから、成長を加速させるM&Aは重要な手法と捉えてきました。

 ただ、商社の場合は、単純に新しい事業を買うということではなく、トレードメリットが出てくるという面も見逃せません。投資収益だけではなく、プラスアルファの効果をトレードでも取っていける。この点が一般的な事業会社のM&Aとの違いでしょう。

──M&Aを実施する際、事業側(営業部隊)とCFO組織はどう関わるのでしょうか。

 当社はディビジョンカンパニー制を取っていて、6つのカンパニーがそれぞれ職能組織を持っています。カンパニーCFOも6人いて、その配下のカンパニー職能組織に、財務、経理、リスクマネジメント出身の社員を配置しています。総本社側で議論する前に、まずカンパニーの中で自己完結できるよう討議します。ただ、M&A案件は会社に与えるインパクトも大きいので、一定規模を超える投融資案件はカンパニーの決定を踏まえて、総本社の承認(Headquarters Management Committee〔HMC〕における承認)取得を義務付けています。

 そのプロセスのなかで、それぞれのカンパニーが持っている専門性とは違う視点で総本社はチェックしていかなければなりません。CFOは傘下に3つの部(財務部、経理部、統合リスクマネジメント部)と1つの室(IR室)を持っており、それぞれのセクションが意見を述べます。それらを勘案し、HMCへ付議する前に、投融資協議委員会(経営企画担当役員であるCSO、CFO、CAOなど数名で構成)で事前審査をします。CFOとして私がまず意見を言うのは投融資協議委員会であり、そこでは、個別案件の採算性という次元を超え、全社の事業ポートフォリオのバランスを見たり、アセットのアロケーションを考えたり、当社が持っているexpertiseが対象企業の事業運営において本当に通用するかなど、さまざまな観点から、その案件が遂行するに値するかどうかの所感を述べます。その後、HMCでもメンバーとして意見を伝えます。

──タイのCPグループとの資本業務提携はカンパニー・レベルから上がってきたのですか、それともトップダウン的な方向性だったのでしょうか。

 CPグループとの資本業務提携およびCITICへの共同出資の案件は、総本社の中に「CP・CITIC戦略室」を設け、その室に各カンパニー・職能組織の担当を配置し、全社的な対応を行っています。CITIC、CPグループとのstrategic allianceは、特定のカンパニーからの話ではなく、もともと会社対会社の包括的な戦略資本提携として総本社がイニシアチブを取りました。

予測通りに行かないからこそ、将来キャッシュフローに高い意識を持つ

──M&Aに関して現状で問題点はありますか。

 当社は非資源分野で高い成長を遂げてきた半面、資源分野ではこの数年の間に苦い経験をしています。資源分野は、マーケットが安定的に推移している間は一定の利益を生み出される分野ですが、当社では鉄鉱石、石炭、原油という限られた商品しか扱っていません。これまでも、当社が扱っていなかったり、過去データの蓄積が十分でないような商品でよさそうな案件が持ち込まれることも数多くありましたが、それらにはいっさい手をつけませんでした。それにも関わらず、知見があるこの商品でマーケットの先を読む難しさを痛感する局面がありました。数字に落とし込んだ将来予測と、現実との乖離がなぜ起きるのか。一番難しいのは、まさにこの点です。

 CFOという立場でM&A案件を見る時、自分が専門知識のある分野ならいいのですが、そうでない分野の場合、経済の成長性という一般論を論じることはできても、特定商品の成長性やマーケットシェア、対象会社の持っているポジショニングにまで踏み込むことは難しい。営業が言っていることを是としたうえで対応するよりほかに手はありませんが、結果としてそこに現実との乖離が出てくる。

 このような乖離に対応するために、いろいろなケースシナリオをつくってシミュレーションしたり、専門性を持つ人間、目利きを育てたりと手を打っているわけですが、これはいたちごっこですね。

──予測通りには行かないということを前提にしなければならないということですね。

 事業投資をする時は当然、投資採算基準に照らし合わせて判断していますし、投資した後も必ずその基準をベースにした定期レビューを行っています。ただ、いったん投資するとその資産の入れ替えがしにくい場合が往々にしてあります。買ってしまった以上、容易にはやめられない。当社に限らず日本の会社の多くに同じようなことがあるのではないでしょうか。

 今回、CP、CITICとの間で大型の投資を決めたこともあり、事業のEXIT基準を見直し、計画値に対する乖離度や累積ベースの収益レベルなど、より厳密にチェックしていくことにしました。

──総合的な視点が求められる立場だと思いますが、重視される指標があるとすれば、それはキャッシュフローということになりますか。

 ボトムラインを軽視しているつもりはありません。当社は税後利益をベースに配当性向を決めていることもあり、会計上の利益は大事な指標だと思っています。

 一方でキャッシュフローに対する高い意識も持っています。今年から始まった中期経営計画でも、その意識を前面に押し出しています。同様にレシオに関しても、これだけの超低金利下で商社が恩恵を受けている面が大いにありますが、他方、金利の上昇局面での苦しさを知っている世代が少なくなっているのが実情です。負債が3兆円あって金利が1%上がったらどれだけ大変か肌感覚でわからない。Debtのコントロールがいかに大変か、意識させないといけないと思います。

 また、会計基準をIFRSに変えたことで、減損の判断がより厳密になりました。従来と比べて将来キャッシュフローの現在価値がトータルバリューに与えるインパクトは大きくなっており、営業の人間は投資採算をはじくに当たって、キャッシュフローをより意識せざるを得なくなっています。

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Due diligenceの精度を高めるには、営業・管理系双方の人材育成が不可欠

──これまでの経験から、M&Aを成功に導くカギは何だとお考えですか。

 M&Aの成功確率を高めるには、より精度の高い Due diligence を行う必要があります。先を見通すのは難しいと言いながらも、きちっとした Due diligence をやっていくことは必須です。そのためには個々人のスキルを上げていかないといけないし、そのための経験を積ませる必要があります。営業の人間も同様です。プロとしてきちんと数字を見られるように育てていきたいと考えています。

 PMIにも気を配る必要があります。コーポレートカルチャーが異なる会社があるとすると、ビジネス言語が通じない、こちらの思惑通りに進まない、いくら契約上でレプワラ(統合後の事業に関する表明・保証)を入れさせていてもカバーしきれないなどの想定外の事態が起きることはたくさんあります。しかしPMIの段階で、対象会社に送り込むためのマネジメント・プールが、当社はまだまだ薄いのが現状です。

 私がアメリカの伊藤忠インターナショナルでCAO(経営企画・管理担当役員)のポジションにいた時、事業の売買も担当していましたし、投資ファンドとの付き合いもありました。彼らとの圧倒的な差は、マネジメント・プールを持っているかどうか。この差は大きいですね。当社においてそこまでできる人間は、残念ながらまだ限られています。特に海外に派遣してマネジメントを任せられる人間となると、まだまだ少ないのが現状です。

──そのような人材を、どのように育てておられますか?

 営業だったら、ビジネスをこなしながら経験を積ませていく。若いうちに事業会社や海外に出したりもしています。

 我々のような職能組織の人間であれば、営業側に管理部隊として出るチャンスをつくり、できるだけ営業の近くで物事を見る経験を積ませるようにしています。ディビジョンカンパニーへも、経理などの管理部隊を総本社から送り込んでいます。リスクマネジメントのセクションや事業会社も経験させています。総本社で連結決算や資金調達だけをやっていても、案件の是非を判断する総合的な力は身に付かないと考えています。

ファイナンスは中央集権、新規投資は生み出すキャッシュフローの枠内で

──コーポレート全体を見通す集権的な部分と、カンパニー制で分権的にやっている部分があると思いますが、そのあたりの切り分けをどのように考えていらっしゃいますか。

 資金に絡むところは分権ではなく、すべて中央集権です。資本政策はコーポレート側の問題であり、一切分権化していません。個別の調達は認めておらず、海外の案件でも、CFOラインを通してファイナンスを組成することになっています。

 かつてリーマン・ショック以降の動きのなかで、短期の流動性確保が極めて難しくなりました。間接金融が大きなウエートを占めていて、日本の銀行からの調達をベースにして対応してきたのですが、銀行自身の外貨流動性が極めて低くなった時は、大変苦労しました。ですから短期負債比率をどう抑えていくか、流動性準備をどれだけの倍率で持っている必要があるのかということは、いまもしっかりと意識しています。長年、海外での調達手段の多様化を模索してきましたが、いまはメガバンクを中心とした間接金融を維持する一方で、取引銀行を広げたり、直接金融の割合を上げたりといった策を講じています。

──カンパニー側へは、どのようなメッセージを出されておられますか。

 これまでの数年間は、M&Aなどを含む投資を先行させてでも事業の成長を重視するステージにありましたが、今後はステージが変わります。

 現中期経営計画でも、「新規投資は実質営業キャッシュフローとEXITによるキャッシュインの範囲内で実行」という財務規律を掲げており、キャッシュフローの枠内でしか投資できないとなると、必然的に投資対象事業のキャッシュフロー改善に対する意識や、投資後のモニタリング・資産入替への意欲が高まります。こうすることで、だらだらと在庫を積んだり、サイトを伸ばして仕事を取ってくるといったこともできなくなります。

──IFRSの導入でのれんの機械的な償却はなくなりました。これをどう評価されますか。

 IFRSと米国会計基準で違いはあるものの、常に時価評価をしながら公正価値をベースにその差額を適切に償却していく。この考え方に間違いはないと思います。IFRSを導入することにより他社比較も容易になるメリットもあります。

 のれんについては、何かあったときのインパクトが大きいので、そこは減価償却と同じ考え方で、一定の金額の償却性資産と考えていいものは償却していくという考え方もあると思います。もちろん、M&Aで何を目的に買収したのか、無形資産として認識すべきものが何なのかを峻別し、そのうえで、一定期間での償却が可能なもの、できないものをきちんと分けたうえでのことですが。

──本日はありがとうございました。

聞き手:山田 晴信
日本CFO協会 M&A部会座長/日本CFO協会理事
元香港上海銀行在日副代表 兼 副CEO

M&A部会について
日本CFO協会は、日本企業のM&A力向上のための情報交換の場としてM&A部会を2014年に発足し、先進企業の経営者・CFOや第一線で活躍するM&Aの専門家などをお迎えして、国内外におけるさまざまなM&Aに関するコンテンツやケースをご紹介させていただき、参加者の皆様が議論をしながら相互研鑽できる場をご提供しています。
http://www.cfo.jp/study_and_interaction/ma_grp/

2015年9月25日

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