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スマートベータ

加藤 康之

京都大学大学院 経営管理研究部 特定教授

パッシブ運用の動向について、以前「なぜスチュワードシップコードなのか?」というテーマで触れたことがある。そこで取り上げたパッシブ運用とはTOPIXなど所謂マーケットポートフォリオ(すべての銘柄をその時価総額のウェイトで組入れるポートフォリオ)をベンチマークインデックス(注1)とした伝統的なパッシブ運用のことであった。ところが、今、世界の資産運用業界では、マーケットポートフォリオの進化系である「スマートベータ(Smart Beta)」をベンチマークインデックスにした運用が大きな注目を集めている。今回はこのスマートベータを取り上げてみよう。

 まずベンチマークインデックスを理解する上で、株式ポートフォリオのリターンの源泉は何かということを整理しておく必要がある。ここではリターンの源泉を2つに分類してみる。それらはリスクプレミアムと個別要因リターン(アルファ)の2つである。リスクプレミアムとはリスクを取ることによって得られる報酬で、リスクさえ取れば誰でも得ることができるリターンである。つまり、「株式に投資をする」というリスクを取ることによって得られるリターンである。この場合、株式はマーケットポートフォリオで代表される。リスクプレミアムの大きさはマーケットポートフォリオに対する感応度(エクスポージャ)、つまり、ベータ(注2)の大きさによって決まる。以上の考え方の理論的な背景がCAPM理論(Sharpe,1964)である。アルファは銘柄固有の事情に起因するリターンである。例えば、将来A社の業績が良くなることを事前に見抜き、A社株を時価総額ウェイトより多く買っておくことによって得られる追加的なリターンがそれに該当する。もちろん、こちらのリターンは高い能力がないと得られない。以上、2つのリターンのうち、リスクプレミアムの部分を表すマーケットポートフォリオがベンチマークインデックスとなる。つまり、リスクを取れば誰でも得られるリターンを評価の基準となるベンチマークインデックスのリターンと考えるのである。ところで、CAPMの理論には多くの批判があるのは周知の通りである。それは、CAPMにはやや非現実的な前提があるからである。例えば、すべての投資家は期待リターンやリスクに対して同じ予想を持つ、あるいはリスク回避的だという前提があるが、実際はそうでないという反証が多く報告されている。これらの批判にもかかわらず、CAPMは分かりやすく、他に代替案もなかったため、CAPMを背景としたマーケットポートフォリオがベンチマークインデックスとして定着していった。

 ところが90年代になると、マーケットポートフォリオ以外にもリスクプレミアムをもたらすファクターが存在しているという研究が多く提示されるようになった。それらは、バリュー株あるいは小型株等のリスクプレミアムである(Fama&French,1993)。つまり、バリュー株のポートフォリオあるいは小型株のポートフォリオを作ることにより、マーケットポートフォリオからは得られない別のリスクプレミアムを得ることができるというものである。そして、スマートベータとは、それらのリスクプレミアムもベンチマークインデックスの対象にしようとしたものである。具体的には、各銘柄のウェイトを時価総額比率から乖離させ、結果として、マーケットポートフォリオ以外にバリュー株や小型株等のリスクプレミアムをも取得しようとしているのである。

 ところで、スマートベータはいつ頃登場したのだろうか。それはArnottが2005年にファンダメンタルインデックスを発表したのがその始まりと考えられる(Arnott,2005)。ファンダメンタルインデックスの考え方はシンプルである。株価はオーバーシュートしやすいのでインデックスの個別銘柄ウェイトは時価総額ではなく、企業のファンダメンタルズを反映する指標を使うべきだというものである。2000年のITバブルの時はドットコムと名前がついた銘柄は何でも株価が高騰したことがある。株価はオーバーシュートするものであり、マーケットは非効率的だということがファンダメンタルインデックスの根底にある考え方と言える。割高になっている銘柄をより多く買って、割安な銘柄をより少なく買っているのがマーケットポートフォリオであるとArnottが指摘したのである。ファンダメンタルズを反映する指標とは、株主資本、売上高、配当額、キャッシュフローという財務指標であり、株価を使っていないということが重要なポイントになる。なお、ファンダメンタルインデックスはバリュー株のリスクプレミアムを持っていることが知られている。

 ところで、バリュー株や小型株というファクターにリスクプレミアムがあるとすれば、それはなぜだろうか。もちろん、それはリスクがあるからである。では、どんなリスクがあるのだろうか。マーケットポートフォリオのリスクプレミアムは分かりやすい。つまり、株式を買うということ自体は明らかにリスクを取ることだからである。そして、株式の代表がマーケットポートフォリオと考えることができる。これに対してバリュー株や小型株に追加的なリスクプレミアムがあることの説明には、さまざまな説が存在している。例えば、バリュー企業は営業レバレッジが高いとする報告がある。営業レバレッジとは、営業利益の変化を売上高の変化で割った数値であり、営業レバレッジが高い企業は、損益分岐点の周辺に位置する企業である。損益分岐点の近くにあるということは、売上高の変化に比べて営業利益の変化が大きいということであり、赤字になりやすいということである。したがって、バリュー株を買うということは、赤字になりやすい企業を買うということになる。バリュー株に対するリスクプレミアムは、このリスクに対するプレミアムだという説明である。バリュー株以外にも実証的に示されているリスクプレミアムは多くあるが、なぜかという説明は千差万別である。

 マーケットポートフォリオによるパッシブ運用では、時価総額の大きさが投資の基準になっていたが、スマートベータの世界では、その他のリスクファクターも投資の基準になる。最近、時価総額のそれほど大きくない銘柄が注目されることがある。スマートベータ投資の影響が及んでいる場合も増えていると思われる。各企業は自分の会社がどのようなリスク特性を有しているのかを理解しておく必要がある。

参考文献
R.D.Arnott, J.Hsu, P.Moore, “Fundamental Indexation”, Financial Analysts Journal, Vol61, No,2, pp.83-99, 2005
E.F.Fama, K.R.French., “Common risk factors in the returns on stocks and bonds”, Journal of Financial Economics 33, pp.3–56, 1993
W.F.Sharpe, “Capital asset prices: A theory of market equilibrium under conditions of risk”, Journal of Finance, Vol.19, No. 3, pp.425-442, 1964

(注1)ベンチマークインデックス:資産運用の評価基準となるもの。日本株式のベンチマークインデックスとしてはTOPIXがその代表例。
(注2)ベータ:個別証券と市場の連動性を示すリスク指標。市場全体(株価指標)の変化に対する各個別銘柄の株価の変化の感応度を示す。

2015年7月15日

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