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賃上げに背を向ける会社の末路

磯山 友幸
経済ジャーナリスト

 2018年の春闘を控えて、安倍晋三内閣が「3%の賃上げ」を経済界に求めている。アベノミクスによって企業収益が大幅に改善した成果を従業員に分配することで「経済の好循環」を実現しようという姿勢は2014年から一貫しており、2017年の春闘まで4年連続でベースアップが実現している。2018年は5年連続のベースアップは当然として、定期昇給と合わせた賃上げ率を3%以上にするよう求めたのだ。

 政府が賃上げを求める最大の理由は、企業収益の増加分が十分に従業員に分配されていない、という不信感があるからだ。実際、企業の内部留保は毎年増加し続け、財務省の法人企業統計によると2016年度は406兆2,348億円と過去最高を更新。4年間で100兆円も増えた。一方で、人件費も増えてはいるが、国民の多くに賃金上昇の実感は乏しい。

 安倍内閣は企業の国際競争力を維持する狙いで法人税率のアジア主要国並みへの引き下げを掲げ、実際に税率引き下げも行っている。にもかかわらず、それが内部留保に回っていることに共産党などからも批判の声が上がっている。安倍内閣としては何としても大幅な賃上げを企業に促したいわけだ。

 賃上げした企業には法人税を減免する制度を設けているが、2018年度の税制改正では、3%以上の賃上げを行った企業に対して減税幅を拡大する。こうした企業には、経団連などが求め続けてきた実効税率25%への引き下げを実現させる方針だ。減税を呼び水に給与引き上げを企業に行わせようというわけだ。

 もっとも、政府が求めるからといって渋々賃上げをしているようでは企業経営の先行きは危うい。というのも、今や深刻な人手不足が続いており、有能な人材を採用するためにも、いまいる社内の人材に愛想を尽かされないためにも、待遇改善が重要になっている。

 政府が音頭を取る「働き方改革」は残業時間の短縮ばかりに目が向きがちだが、本来は仕事のやり方を変えることで効率性を高め、同じ成果を短時間で上げることが目的のはずだ。同じ成果が上がるならば、給与は同じ額が支払われるのが当然で、残業代の減少分は賃上げによって穴埋めされる理屈になる。つまり、賃上げできない企業は、本当の働き方改革ができていない、ということになるわけだ。

 そうした中で、賃金の引き上げができない企業に未来はない。待遇が改善されなければ新規の人材確保ができないばかりか、従来いる社員が辞めていく。ライバル企業にスカウトでもされれば、競争力の低下は計り知れない。

 また、優秀な人材が抜ければ、その分、企業内に残った社員の負担が増えることになり、残業の短縮など望めない。社員のフラストレーションは溜まり、ますます企業への帰属意識が弱まり、退社する人が増えていく。

 何せ、労働市場は未曽有のひっ迫状態である。厚生労働省が2017年12月26日に発表した11月の有効求人倍率(パートを含む、季節調整値)は1.56倍。何と、1974年1月以来、43年10カ月ぶりという高水準である。すでにバブル期を上回っており、高度経済成長期並みの求人難となっている。

 新規の求人に対してどれだけ採用できたかを示す「対新規充足率」は14.2%。ということは、7人雇いたいと思っても1人しか採用できないという計算である。さらに総務省の調査によると、同じ月の完全失業率は2.7%。24年ぶりの低さである。求人倍率の高さ、失業率の低さからみて、まさに歴史的な人手不足状態となっている。世界的には3%を下回っている状態は、働く意思のある人はすべて働いている完全雇用状態とみなされている。

 そんな中で、企業の人材争奪戦が始まる。ライバル企業や同業からの引き抜きはもはや当たり前。優秀な人材はどんどんヘッドハントされ、転職していく時代になりつつある。特に30代以下の若手は会社への帰属意識が非常に乏しい。会社に長く勤めればポストや昇給で報われるという経験のないデフレ時代の社員ということもある。

 有能な社員を確保できなければ、事業を運営できなくなり、会社そのものが存続できなくなる。いわゆる「人手不足倒産」である。CFOの仕事は、いかに人件費を下げるかという計算から、人材確保のためにどれぐらい賃上げ余力があるかを計算することが重要な時代になってくる。

2018年1月15日

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