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グローバル・コミュニケーション

ダイバーシティ・マネジメントと現代英語

本名 信行

一般社団法人グローバル・ビジネスコミュニケーション協会 代表理事
青山学院大学名誉教授

はじめに

 企業のグローバル化は必然的に多文化化をもたらす。そのために、世界のビジネス界ではダイバーシティ・マネジメントが重要な課題になっている。現代英語はこの問題に敏感に反応し、社会意識の変革に貢献しようとしている。その一例は、「政治的に正しい」言い方の普及と浸透である。本稿では、この問題を日本のビジネスコンテキストのなかで考えたい。

チーフ・ダイバーシティ・オフィサー

 現代企業は、民族的文化的に多様な価値観と行動様式をもつ人々と関わりをもたざるをえない。取引先や消費者はもちろんのこと、社員の構成も多様化しており、そのマネジメントはきわめて重要である。事実、世界のトップ企業の多くは、社内にダイバーシティ・オフィサーを擁し、その責任者をチーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)と呼んでいる。それはCEOとCFOに準じた地位にある。

 その主な職務はインクルージョンである。すなわち、社内のワークフォースを職務規定に基づいて公平に、かつ平等に待遇することである。社員の多様性は民族、ジェンダー、障害、年齢、さらには身体的特徴などのさまざまな背景に及ぶ。これらに配慮し、差別をしないようにするには、その対応の論理と意義、そして生産的有効性を十分に認識していなければならない。

 アメリカの大学では、そのような教育が行われ、それを担うダイバーシティ・オフィサーズの協会も設立されている(National Association of Diversity Officers in Higher Education)。大学の授業では、ことば、ノンバーバル、そして「環境」などが、差別を表現する媒体としてどう機能するかについて徹底的に議論する。

 たとえば、黒人の学生にバスケットボールをやっているかと聞いたり、アジア系の学生に数学の宿題を教えてと頼んだりするのはことばによる差別、特定の民族的背景・身体的特徴の人が隣に座ると、すぐに席を立つのは動作による差別、また科学室に男性の科学者の写真しか掲示していないのは「環境」による差別である、といったアウェアネス・トレーニングが実施されている。

人に優しい言い方

 アメリカでは、1950年代後半から公民権法(civil rights acts)が制定され、個人の尊厳を尊重し、差別を撤廃するという大原則が確立している。そして、差別はことばに結晶する、またことばは差別を助長するという観点から、差別的な表現を是正して個人や集団の尊厳を尊重することばを使おうとする運動が起こった。これは「政治的に正しいことば」(politically correct language)と呼ばれている。

 たとえば、性差別を避けるために、両性に関わることがらについて、一方の性を表すことばを使わないようにするという習慣が確立している。chairman にchairwomanが加わり、最後に両性を指示するchairpersonができた(今は chairとも言う)。chairwoman というと実力がないような印象を与えるからである。次も同様である。

・fireman→firewoman→fire fighter
・policeman→policewoman→police officer
・salesman→saleswoman→salesperson(今はsales representative), etc.

 さらに、act like a man(男らしくふるまう)といった言い方も好ましくないとされ、act bravely (courageously)(勇敢にふるまう)、act wisely (賢明にふるまう)、act straightforwardly(実直にふるまう)といった言い換えがなされている。また、salesmanship、sportsmanship、statesmanship などはそれぞれ、sales ability、fair play、government leadership が望ましいとされている。

 たしかに、Every American child knows that he may grow up to be President.で、every American childをheで受けるのは、大きな問題である。子どもはこういった文章を聞いて育つと、どうしても男性中心の見方を身につけてしまうと言われる。両性を表現するためには、he or sheにするなど、いろいろな創意が求められる。

 All men are created equal.(人間は生まれながらにして平等である)はかつて頻繁に引用されたことばであるが、all menはwhite adult malesを意味していたので、正しくはall men and women/all people/we/all of usなどとするのがよいとされる。また、The fall in prices is great news for housewives. という言い方も不適切とされる。物価の値下がりは主婦だけが喜ぶニュ-スではないはずなのである。2017年6月には、ウーバーテクノロジーズ社の取締役が、女性取締役が増えると、“…it’s much more likely to be more talking.”(おしゃべりが増えるね)と述べたため、女性差別として辞任に追い込まれた。

 このようなアメリカ発の言い方は、世界中の英語使用者にある程度の影響を与えている。この傾向はサイバースペースで定着している。日本人のビジネスパーソンがインターネットで、I have four men and three girls working for me in my company.と書いたところ、数カ国の人々から注意があった。「女の子」はインクルーシブな言い方ではないのである。

 日本では、このような問題はまだ十分に意識されていない。あるエステ会社は都内の通勤電車に「Enjoy the Girl!」をヘッドラインとする写真広告を掲げた。多くの日本人はこの驚くべきコピーの「the Girl」を「ガールらしさ」と解釈したようであるが、これは実に勝手な解釈で、グローバルにはまったく通じない。日本人の英語力はこんなにも低いのだろうか。この広告はだれかの指摘を受けたのか、後に「Enjoy, Girls!」に変わっていた。

 さて、1990年に「障害をもつアメリカ人法」 (Americans with Disabilities Act) が起案されたとき、聴覚障害者の側からdisabilitiesでなく、different abilitiesにしてほしいという要望が出された。なるほど、ろう者は手話(sign language)という別の能力をもっている。この提案は諸般の事情で採用されなかったが、アメリカ人の言語意識の高まりを示すエピソードといえる。

おわりに

 ダイバーシティ・マネジメントの方法としてインクルージョン・マネジメントがある。日本企業がグローバルな観点からこれに取り組むとなると、英語をpolitically correctに使う訓練が求められる。言語は社会を映すと同時に、認識を教示する。英語(社会)での試行錯誤は、日本企業に参考になることがたくさんある。他人事ではなく、自分事として考えたい。

2017年11月15日

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