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グローバル・コミュニケーション

日本企業の英語対応
~英語はどういうことばか~

本名 信行

一般社団法人グローバル・ビジネスコミュニケーション協会 代表理事
青山学院大学名誉教授

はじめに

 世界のグローバル化にともなって、日本企業は社員の英語力向上に投資を重ねている。しかし、その教育内容はTOEIC対策や一般的な英会話が中心で、しかもアメリカ人やイギリス人と同じように話すことを目標にしており、世界の英語事情からかなりかけ離れている。これではいつまでたっても、英語を自由に使いこなすことはできない。日本人なら日本人らしい英語を話すというのが世界の趨勢である。本稿では、この論理について考察したい。

現代英語の2つの潮流

 現代英語は2つの特徴をもっている。それは今まで、どの言語も獲得したことのないダイナミズムである。第1は、英語の国際的普及である。第2は、その多様な民族変種の発達である。それは、英語の国際化と多様化と言い換えてもよい。英語の国際化は必然的に多様化を生む。一方を得ることなしに、他方を得ることはできないのである。

 英語はずっと以前から、イギリスやアメリカという特定の国を越えて、世界の人々と交流する多国間、多文化間コミュニケーションのことばになっており、今後はますますその役割を果たすようになると思われる。世界の多くの国々で小学校から英語教育を開始しているのは、このような英語の広域性と利便性を認識しているからにほかならない。

 すなわち、日本人の立場からいうと、英語はアメリカ人やイギリス人だけではなく、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、ラテンアメリカと、世界のさまざまな地域の人々と話し合うためのことばなのである。他のどの言語もこれほどの規模でこの働きをするものはなく、英語はまさに世界的な役割を果たしているといえる。

 同時に、英語は実に多様な言語である。アメリカ人がアメリカ英語、イギリス人がイギリス英語を話しているように、インド人はインド英語、フィリピン人はフィリピン英語、ナイジェリア人はナイジェリア英語、ガーナ人はガーナ英語を話している。そして、世界の人々はみな、独自の民族的特徴をもった英語を話している(事例は本名2003、2013参照)。

世界諸英語という考え方

 この現象は発音、語彙・表現、そして文法だけではなく、コミュニケーション・スタイルにまで及ぶ。専門家はこの状況を、世界諸英語(World Englishes)と呼んでいる。世界の人々の話す英語は、すべて言語的にも文化的にも同等の価値をもつという考え方である。英語は複数形が似合うことばで、英米文化の一部ではない。私たちはこのように考えると、英語に対して新しい態度をもつことになる。

 インド人やタイ人は合掌しながら、英語であいさつすることがある。英語を話すなら、英米人のように握手をしなければならない、と考えるのはおかしなことである。日本人ならお辞儀をしても一向にかまわない。これは小さなことがらに見えるかもしれないが、実は重要な認識に基づいているのである。

 世界の多くの人々は、イギリス人やアメリカ人の真似をするために英語を学習しているのではない。しかも、現代英語の話し手の数はネイティブよりもノンネイティブのほうが圧倒的に多く、さらに非母語話者どうしの英語コミュニケーションが増えている。実際、日本人とベトナム人が英語を話すとき、お互いにアメリカ人やイギリス人の真似をしなければならないとしたら、それは滑稽の極みである。

普及と変容

 この傾向は普及と変容という普遍的関係でとらえることができる。ものごとが普及するためには、適応が求められる。インドのマクドナルド店ではビーフバーガーはない。その代わりに、人々は美味しいチキンバーガーやマトンバーガーをほおばっている。ことばもこれと似ている。

 アメリカの英語やイギリスの英語が他国に渡ると、それは現地の社会的文化的状況のなかで、異文化間適応のプロセスを経ることになる。現地の話し手が英語を学習しやすいように、使いやすいようにするためである。そして、そのようなプロセスを経て産出されるのが、それぞれの地域・地方の英語変種ということになる。これは再文化化とも呼ばれる。インド人はインドの言語と文化を基にして、英語を話す。同じように、日本人は日本語と日本文化を土台にしてはじめて、英語を話すことができるのである。

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 従来、共通語には「画一、一様」というイメージがつきまとっていた。しかし、よく考えてみると、多様な言語でなければ、共通語の機能を果たせない。アメリカ英語を唯一の規範とすれば、英語は「国際言語」として発達しないであろう。だから、母語話者も非母語話者もお互いに、いろいろな英語の違いを認め合う、寛容な態度が求められる。

 同時に、現代英語では、話し手と聞き手のあいだで相違を相互調整する能力が求められる。すなわち、ダイバーシティ・マネジメントの能力である。現代英語の多様性は、現代共生社会の多様性の縮図であり、相似形なのである。このことについては、稿を改めて考えたい。

 事実、英語はアジアでアジア化している。アジアのさまざまな国々の言語と文化が、それぞれの英語に反映されるのである。日本企業はアジア諸国とのビジネス・コラボレーションを深めているが、そのための社内英語教育を依然としてアメリカ人やイギリス人講師に任せている。これは適切な対応ではない。現地の英語事情を配慮した工夫が求められる。

おわりに

 日本人はビジネスにおいて、ネイティブよりもノンネイティブとの交流がずっと多くなっている。だれに対しても、日本人らしい英語を恥じる必要はまったくない。まずは自分の仕事のことを英語で言ってみよう。そして、相手の、たとえばインド人の英語に耳を澄ませてみよう。社内研修では、このような「国際言語としての英語」の導入が求められる。

参考文献
本名信行『世界の英語を歩く』(集英社新書、2003年)
本名信行『国際言語としての英語 文化を越えた伝え合い』(冨山房インターナショナル、2013年)

2017年7月18日

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