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「相談役・顧問」の情報開示で、
武田が作った「前例」?

磯山 友幸
経済ジャーナリスト 元日本経済新聞記者

 2017年6月総会のひとつの焦点は「相談役・顧問」の扱いだった。きっかけは、政府が6月9日に閣議決定した成長戦略「未来投資戦略2017」。そこには、こんなひと言が盛り込まれていた。

 「退任した社長・CEOが就任する相談役、顧問等について、氏名、役職・地位、業務内容等を開示する制度を株式会社東京証券取引所において本年夏頃を目途に創設し、来年初頭を目途に実施する」

 社長や成功経営責任者(CEO)が取締役を退任した後、相談役や顧問といった肩書を持ち続け、財界活動や社内への指導助言などで一定の役割を担い続ける「日本企業の慣行」について、コーポレートガバナンスの透明性の観点から問題だとして、新しい開示制度を作ることを求めているのだ。

 このコラムの3月15日号でも「『相談役』『顧問』制度に安倍首相が注文」というタイトルで書いたが、安倍晋三内閣が進めている「コーポレートガバナンスの強化」の流れの中で、本来は権限がないはずの「相談役」や「顧問」といった人たちが、経営の最高責任者であるはずの現役社長や会長をしのぐ隠然たる力を持っている例が少なからずある。これにメスを入れる動きが2016年あたりから強まっていたのだ。

 ひとつは東芝の元会長は別の組織のトップを転々としているにもかかわらず、東芝で「相談役」であり続け、依然として力を持っていたことが、会計不祥事をきっかけに世の中から強く批判された。経済産業省も政府も、そうした日本的な支配構造を放置できなくなったのである。

 東証が作る開示制度が具体的にどんなルールになるのかはまだ分からない。だが、これを先取りする形で、相談役や顧問という制度そのものを廃止する企業も春ごろから目立ってきた。また、議決権行使助言会社の米インスティティーショナル・インベスター・サービシズ(ISS)が、相談役や顧問を新設する定款変更案に反対を推奨したこともあり、株主総会で個人株主などが、相談役らの実態について質問する動きが広がった。

 6月28日の武田薬品工業の株主総会には、相談役や顧問を選ぼうとする場合には株主総会の議決を必要とするよう定款変更する案が株主から出された。というのも、取締役会長を務めていた長谷川閑史氏がこの総会で退任し、相談役に就任することが公表されていたためである。政府主導の流れにまさしく逆行する人事を武田は予定していた。

 武田は総会を前に株主宛てにクリストフ・ウエバー社長名の手紙を送付、武田のコーポレートガバナンス体制について、「本質的に、一個人の独断で会社の意思決定を左右できるようなものではありません」としたうえで、長谷川氏の相談役就任について「弁解」した。

 そこには、相談役の役割は2つだとして以下のように書かれていた。

 1. あくまでも現役の経営陣からの求めに応じてという前提で、これまでの同氏の経験や見識を基にしたアドバイスを提供すること、また、その多岐にわたる社外ネットワークにより当社に引き続き貢献すること。

 2. 現在同氏が当社を代表して就任している経済同友会等の外部団体の役職のうち、より公共性・重要性が高いと判断されるものについて、その任期満了まで、引き続き当社を代表してその任務にあたること。

 以上の2つのうち、長谷川氏については、1のようなアドバイスを求めることは「ごく稀」であるとして、「同氏の役割の大部分は、上記の2ということになります」としている。社外活動つまり財界活動などに武田を「代表して」携わってもらうための「相談役」だというのだ。

 そのうえで、「相談役としての処遇」についても触れ、「同氏の年間報酬額は現在の約12%程度となります」としている。前の年の有価証券報告書で開示された長谷川氏の報酬は4億5,000万円。その12%とすると5,400万円ということになる。

 この説明に武田の株主が納得するかどうかは別として、こうした武田の開示が今後の情報開示のひとつの「モデル」になっていくことは間違いない。具体的な役割を明示したうえで、年間報酬も示すというのが「最低ライン」になるのではないか。相談役を認めてもらうための武田の苦し紛れの弁明が、今後の開示の「前例」になってしまったのは、何とも皮肉である。

2017年7月18日

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