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CFOFORUM

2014年10月15日 

今、自社のあるべきガバナンス体制を考える[第1回]

森本親治

新日本有限責任監査法人
エクゼクティブ・ディレクター 公認会計士
日本CFO協会主任研究委員

はじめに

 この数年間の円安、デフレ、株高の環境下で、外人株主による日本企業株式の保有と売買比率が50%を超えるようになり、アベノミクスによる日本再興戦略や会社法の改正に基づいて、コーポレート・ガバナンスに係る数々の施策が打ち出されている。具体的な方向性としては、日本企業のROEの低さや過剰流動性を克服するためのアップサイドの成長加速側面と、西武やオリンパス、大王製紙等の一連の不祥事で国際的に信用を失墜したダウンサイドの企業統治正常化側面の両面から、改革が進められている。

 ただ、各企業にとって、ガバナンスが自社で真に確立できるかどうかは、ガバナンス形態という単なる箱の問題や社外取締役の数合わせの問題ではない。ガバナンスは、各企業の組織文化や経営理念、グループ経営方針、事業運営体制に深く関係し、企業価値の持続的向上とコンプライアンスの確立に大きく影響を与える。また、ガバナンスの形態や取締役会の在り方、社外役員の選定要件、経営の監督方法は、非常に多様であり、これが正解というものはない。特定の企業に限っても、一度決めればそれでよいというものではなく、自社の成熟度や環境変化に応じて変革を繰り返すことが求められる。

 そのため、単なる一時的なムードに流されるのではなく、自社にとってどのようなガバナンスの在り方が中長期的によいかを、腰を据えてこの際検討する必要がある。企業として、単なる他社を意識した横並びや規制に対する受動的で最低限の対応に走るようでは、企業を誤った方向に導くことになり、CFOが果たすべき舵取りの役割と責任は極めて大きい。

 本稿では、コーポレート・ガバナンスを表面的な制度説明やあるべき論に終わらず、実務上、どのようなことが問題になり、何が本質的に重要か、何が各社の選択のキーになるかを検討したい。

ガバナンスをめぐる規制と社会的期待

 企業をめぐるガバナンス・スキームが全体的にどのように変革したかを、まず俯瞰したい。図1は上段が概ね10~15年前、下段が現在の状態であり、各々左側のグリーンに塗られた領域が企業のステークホルダーの影響範囲を示し、右側のブルー枠が業務執行の範囲を象徴的に示している。

51_Insight_fig01

 かつては、ステークホルダーは持合い株主やメインバンクが中心で、その影響も株主総会止まりの場合が多かった。それに対し、現在では、ステークホルダーは政府や国内外の規制当局、取引シェアで50%を超える勢いの海外株主を含む機関投資家、証券取引所や格付け機関、議決権行使代行機関、あるいは、当日本CFO協会はじめ、日本監査役協会や日本内部監査協会などの関係団体など、広範に拡大するとともに、相互に連携を有するようになっている。また、その影響範囲は監査役会等(監査委員会、監査等委員会を含む)、会計監査人はもちろん、取締役会の中にまで及んで、今話題の社外取締役が監査役等とともに、経営の監督に当たろうとしている。このようなステークホルダーの影響力の増大と社会の期待の高まりを反映して、取締役、監査役、会計監査人等の関係者の各々の機能や行政上の責任、法律上の責任が重くなりつつある。

 それでは、企業側での業務執行はどの程度まで掌握できているのだろうか。海外事業の本格化やM&A、アウトソーシング、ビジネスモデルの変革等により、業務の透明性が一般的に低下している。業務の執行を担っている取締役や執行部門、さらには統括している本社の機能部門や地域統括会社でさえも、業務の内容や経営課題が見えにくくなっている。そのため、経営の効率性やコンプライアンスの向上を図るために、グループ統治や内部統制の強化が近年叫ばれている。昨年、20年振りに内部統制のグローバルスタンダードであるCOSOが改訂されたが、まさに図1で示したようなスキームの変化を同根の背景とするものだ。文化や言語、物理的距離等の障害に阻まれて内部統制が相対的に機能しにくくなったため、統制環境からモニタリング活動までの5つの構成要素を総動員して、一体で適用、運用することを強調している。例えば、企業倫理の定着ひとつを取っても、経営者がコミットし、行動基準等に書面化するだけでは充分でない。イントラネット、Web、集合研修、宣誓署名、ビデオ・漫画など、あらゆるコミュニケーション手段を駆使して伝達、浸透を図り、さらに理解度テスト、現地視察、内部監査、社内通報、リスク管理指標によるオフサイト・モニタリングなど、運用状況の監視を多重的に行わなければならなくなっている。

 したがって、今後のガバナンス体制の在り方を考える場合には、一般株主の視点からの監督機能をステークホルダーの代表として受け容れる一方で、業務執行に係る経営管理体制を相応に強化し、両者のバランスを保つことが非常に重要だ。どのように資質に富んだ社外取締役や監査役を招き入れても、非常勤の彼らが監督のために自ら収集できる情報は極めて限られる。また、業務執行を受託している経営者や統括担当取締役としてのCFOも、強固な経営管理システムなしには説明責任を全うすることができない。

 以上のような全体的な俯瞰に続いて、次にガバナンスに係る最近の動向を整理しておきたい。この2014年に限っただけでも、次のような変化が見られる。要点としては、2点ある。一つは従来のコンプライアンス面だけでなく、企業価値面でガバナンスの確立が強調されていることである。もう一つは、コードやガイドラインは法的強制力がなくとも、”Comply, or explain.”というように、準拠するか、しないならその理由を説明するというソフト・ローとしての規範性が強いことである。社外取締役の導入もさることながら、機関投資家との対話や説明開示が増えることで、企業は大きな改革を求められる。

政府 「日本再興戦略」改訂(6/24公表)

①ガバナンス・コード策定

 元々東証のガバナンス・コードがあったが、今回、金融庁、東証が共同事務局になり、OECD企業統治原則(重要な統治機能として、公式で透明な取締役指名プロセスの確保と幹部経営陣の選出・報酬の監視等を要求)を参考に今秋に基本的考えを公表のうえ、来年6月の株主総会に間に合うように整備の予定。
 8/7に第1回の有識者会議開催。最低2名の独立取締役導入、報酬・指名の根拠説明、持合い株式の解消を標榜する。

②女性登用の見える化

 役員比率の有報記載、役員、管理職への女性登用状況の東証ガバナンス報告書への記載を要請。これを受けて、8月に役員の男女別人数と女性比率の記載を義務付ける府令の改正案が公表された。

金融庁、スチュワードシップ・コード(2/27策定公表)

 政府の意向を受けて、ガバナンス・コードに先駆けて、「責任ある機関投資家の諸原則」を行動基準として制定したが、金融庁の9月の第2回発表では、受入れを表明した信託銀行、投資信託会社、投資顧問会社、年金基金、保険会社等は、外資系も含め、160社に達した。企業との課題共有、議決権行使結果の公表等が主内容だが、今後、機関投資家と企業との個別コンタクトが増え、後述する伊藤レポートの提言に沿って資本効率を意識した企業価値経営の促進が要請されるのは間違いない。

改正会社法(6/20成立、概ね来年4/1に施行予定)

 改正の要点は①監査等委員会設置会社制度の創設、②社外役員の要件見直し、③社外取締役を置くことが相当でない理由の説明、開示を求め、実質的に導入を強制、④多重代表訴訟制度の導入、⑤内部統制システムの基本方針として、子会社を含む企業集団の業務の適正を確保する体制を施行規則から会社法に格上げである。東証の発表では6月の総会終了時点で、上場企業3,400社のうち、一部上場企業1,400社の74.2%が社外取締役を導入しており、新聞報道では時価総額から見た主要上位100社の場合、現在、社外取締役を導入していない企業は2社のみである。

経産省 ガバナンス在り方研究会(6/30中間報告)

 社外取締役、監査役、会社にヒアリングを行い、ベストプラクティス を抽出したガイドラインを作成予定である。中間報告で公表されたガイドラインのドラフトは、まだ、一般的でやや心構え的内容に留まる。

経産省 伊藤レポート最終報告書(8/6公表)

 伊藤レポートと通称される「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書が公表され、8%以上のROEを目指す企業価値経営や、企業と投資家との信頼関係を強化する価値創造プロセスの開示や対話・エンゲージメントが提言されている。経営者に資本効率を意識した経営改革を求めるとともに、スチュワードシップ・コードの実践指針を提示。

金融庁 金融機関ガバナンス改革を予定

 緊急構造改革プログラムの一環で、上場銀行、持株会社に1名以上の独立社外取締役の導入を義務付け、融資先のガバナンスチェックを強化させる意図があると推察される。メインバンク、主要生保、損保の調査を終えて、地銀等に現在、水平モニタリングを実施中。

議決権代理行使会社のISS、助言基準(2/1公表)

 社外取締役のいない会社、出席率が75%以下の候補者には反対を推奨するなど、日本向けの議決権行使に係る助言基準を公表。ガバナンス・コード整備への影響を意図したものと推察される。

海外機関投資家20社が、5月に上場会社33社に対し、社外取締役増員を直接要求

 カルパース等の年金基金など20社(日本株計7.5兆円、東証1部時価総額の2%相当を保有)が、トヨタ、ドコモ、MUFG、住友不動産などに対し、5月に連名書簡で社外取締役比率を3年内に1/3以上にするよう、要求。今後、アクティビスト(物言う株主)が連携して、欧米並みのこのような「集団的エンゲージメント」が増える可能性がある。

東証 独立役員の確保に関する実務上の留意事項(2月公表)

 会社法で定める社外取締役、監査役のうち、一般株主と利益相反が生じるおそれのない者を独立役員と定める制度は2009年に導入、その後、2012年に強化されたが、運用上の留意事項をさらに発表した。要点は①1名以上確保努力義務、②独立役員届出書の提出、③独立要件を強化、親兄弟会社、主要取引先の業務執行者でなく、かつ、多額報酬を得る外部専門家でないとしたことである。

内部監査基準(6月に改訂)

 内部監査協会はIIAの監査基準改訂を受けて、日本の内部監査基準を改訂した。従来の「内部監査部門は最高経営者に直属し」の規定文言に「業務運営上は取締役会の指示を受ける」を付加。取締役会が内部監査部門と連携し、経営の監督に当たる体制であることを明確化した。

 以上のほかに、昨年にはオリンパス事件や大王製紙事件を契機に、不正対応のための監査基準が改訂され、会計監査人と監査役会等の連携が強調されている。また、金融商品取引法が一部改正され、会計監査人の不正事実の監査役への通知義務、金融庁への届出義務が追加された。

各企業が選択すべきガバナンス形態の多様性

 今回の会社法改正により、監査等委員会設置会社が制度的に第3のガバナンス形態として容認されたため、現実には図2のようなハイブリッド形態(監査役会設置形態に指名委員会設置形態的な要素を加えた改善系)を加えた4形態から企業は選択可能になった。また、どの形態であっても、「社外取締役を置かないことが相当な理由」を株主総会と事業報告で説明しなければならないことになり、実質的に最低1名導入することが強制されるようになった。

 このような形態の選択肢を検討する場合、全上場会社3,400社の98%強が監査役会設置会社であり、取締役会が業務執行を担当することを前提とした会社法の旧来の枠組みが支配的であることを、まず銘記しておくことが重要だ。次に注意すべきは、各企業が自社の組織文化や規模、事業内容等に応じて、ガバナンス形態を選定する場合、4形態の中でもさらにさまざまなバリエーションがあることだ。理論的には図2で左に位置する形態ほど、外形から期待されるガバナンスの確立度は一応大きくなるが、各形態の差異は極めて相対的である。

 元々、米国では経営者の監督は、非業務執行社内取締役→非業務執行社外取締役→監査委員会として独立機能を強化という歴史的経過をたどってきた。取締役会の外からの監督という発想がない海外投資家目線で見れば、取締役会の中に監査(等)委員会が設置されている指名委員会等設置形態と監査等委員会設置形態はより好感されるだろう。監査等委員会設置形態に今後どれくらい移行する企業が出てくるかは、最低100社と見る向きもあるが、監査役会設置会社が現状でどれほどの不便、不都合を感じているかを考えれば、予断は許さない。

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 各形態に関する論点は図2で脚注しているが、各形態の中でのバリエーションに触れてみたい。

監査役会設置形態

 取締役会の外に設置され、社内出身者も含まれるという点で、なにかと批判の対象になるが、一律に批判はできない。例えば、取締役会の外に任意であるが、経営諮問委員会(アドバイザリーボード)を設けて、指名や報酬に関する答申を受けている企業もある。また、常勤監査役が社外であったり、経営会議や各種委員会にも常時参加しているケースが最近増えている。さらに、グループ会社の監査役連絡会を積極的に開催したり、内部監査部長の選解任に関して監査役会の承認を必要としている企業も多い。いずれにしても、常勤監査役の属人性に拠るところが大きいのが最大の課題と言える。

ハイブリッド形態

 監査役会設置形態の改善版として、取締役の自己利益が懸念される指名、報酬関係の意思決定は任意の委員会を設け、最終決定権は経営者が留保するものの、社外取締役をメンバーに入れて、できるだけ決定基準やプロセスの透明性を高めようとしている。その場合、社外取締役を何人入れるか、議長は誰にするか、経営者は参加するかなど、さまざまなバリエーションがある。また、監査役会に加えて監査委員会を設置し、極めて指名委員会等設置形態に近づいている事例も出てきている。メガバンクのMUFGでは、社外取締役、社内取締役、外部専門家で構成される監査委員会を取締役会の外に設置し、SMFGではさらに進んで取締役会の中に設置している。

監査等委員会設置形態

 来年4月と見込まれる改正会社法の施行後に移行する会社が出てくるが、バリエーションとしては、監査役会設置形態から現監査役がそのまま監査等委員に横滑りし、常勤者がいなくなる場合もあり得る。経営の監督機能を取締役会の中に設けるにも関わらず、監督機能が従来の監査役会より脆弱になるのは立法趣旨に反するところである。さらに取締役の過半数が社外取締役である場合や定款で定める場合には業務の執行を執行役に委任することができるので、取締役会に何を期待するのか、執行部門に委譲しても業務の充分な監督、管理ができるか、ガバナンス体制を結局どうしたいのか、会社も株主も慎重に検討したうえでの移行が望まれる。

指名委員会等設置形態

 欧米型そのもののように言われることが多いが、取締役会全体で、欧米のように社外取締役が過半数であることを求められているわけではなく、業務の執行も執行役への委譲を強制されているわけではないので、欧米型とは異なる。実際の導入企業では、会社法で取締役会の法定決議事項があることと、執行部門での内部統制が完全に成熟していないこともあり、取締役会で重要な業務執行事項に関する意思決定ないし監督を行っているのが通例である。したがって、法的には強制されていない常勤の監査委員を選任し、取締役会の監督機能を強化している場合が多い。また、指名、報酬委員会に関しても、社外取締役が過半数を占めているが、全く白紙から候補者や報酬金額を通常決めるようなことはしない。経営者や社内取締役、所管部署からの素案に基づき検討する場合が多いので、実際にはハイブリッド型の任意委員会による審議プロセスとどこまで相違があるのか、形態よりむしろ運用方法に依存する面もある。

 社外取締役は、どの形態に関しても少なくとも1名は選任されることになるが、監査役会設置形態でも従来から選任基準として、東証の上場規則に定める独立性基準に完全に適合する複数の社外取締役を選任していたり、取引先や弁護士、会計士、コンサルタントとの取引金額に関して、上場規則よりさらに詳細な独立性基準を定めている企業もある。

 以上の考察から、コーポレート・ガバナンスを確立するための形態や運用方法は一つではなく、自社の組織文化や事業内容、規模に応じて選択すべき相対的なものであることがご理解いただけると思う。ほとんどの企業で執行役員制度が導入され、取締役は現在、平均して10~15名程度まで削減されている。日常の業務執行は経営会議で決定されることが多くなり、毎月1回程度の取締役会に何を求めるか、各企業は自社の状況に応じた経営の意思決定と執行と監督の体制を真剣に検討すべき時期に来ている。

 次号では、経営の執行と監督の分離、グループ統治体制とガバナンス形態の問題に触れたい。

2014年10月15日

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