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経理人材の流動化が生産性を向上させる

磯山 友幸
経済ジャーナリスト

 日本企業の生産性向上が大きな課題になっている。安倍晋三内閣が掲げる「働き方改革」の狙いも、長時間労働の是正や同一労働同一賃金といった待遇改善だけでなく、日本企業の生産性向上に資することを狙っている。

 中でも建設、運輸、飲食、小売り、宿泊業など、人海戦術によって事業が成り立ってきた業界は、「低採算の代表業種」として、働き方改革が求められている。急速に進む人手不足によって採用難に直面し、事業自体を見直さざるを得なくなっている企業も少なくない。外食チェーンなどでは深夜営業を取りやめたり、部屋は空いていても仲居さんが足らずに客を断る旅館なども出ている。

 ヤマト運輸は、再配達の受付時間を短縮したり昼の配達を受け付けなくするなど、サービスの一部カットを打ち出す一方で、宅配便の料金を27年ぶりに値上げする方針を決めた。人手不足に対応して、採算性を改善しようとしているわけだ。

 事務部門の中で、もっとも働き方改革が求められるのは「経理部門」ではないだろうか。決算期末となれば、深夜までの残業は当たり前。それこそ人海戦術で膨大な処理作業をこなさなければならない。コンピューター化、デジタル化が進んだ一方で、情報開示の項目が大幅に増えるなど、昔とそんなに忙しさは変わっていないという声を多く聞く。

 そんな経理部門の大きな問題は、業務の「標準化」が思ったほど進んでいないことだろう。とくに伝統的な大企業ほど、決算や経理処理のやり方に「○○商事方式」や「〇〇物産流」というその会社独自の「やり方」が存在する。社内にはそうした自社流を、他社に誇る「伝統」と捉える傾向が強く、なかなか一般的なやり方に「標準化」しようとしない。

 その結果、起きているのが、同じ業界でありながら大企業Aと大企業Bの業務の「やり方」がまったく違うこと。A社で積み重ねた経験が、B社ではまったくと言ってよいほど通用しないのである。仮にA社からB社に転職した場合、また一から勉強しなければ業務をこなせない、ということになりかねない。

 業務が「標準化」されていなければ、当然コンピューターのシステムも独自の仕様にならざるを得ない。銀行の合併で、システム統合にどれだけの時間と労力と費用を費やしているかを考えれば、その「無駄」さ加減は分かるだろう。大企業が自社専用に開発させたシステムを使っている例は少なくない。ということは、コンピューターの処理を行う一般事務員にいたるまで、その会社でのスキルがその会社以外では通用しない事態になっている。

 問題は会社の上から下まで業務の「標準化」に反対なことだ。自分が習ってきた自社流を止めてしまえば、従来の社員のスキルは陳腐化してしまうからだ。

 だが、業界内や一定規模の企業の間で業務が標準化されれば、大幅な生産性向上に結びつくであろうことは容易に想像がつく。自社流の独自のスキル教育が不要になるほか、システム開発費も安くつく。監査法人など外部の第三者が容易に理解できるようになれば、監査などの効率も上がる。期末に深夜まで働くという「伝統行事」も姿を消すかもしれない。

 自社流を止めるには、トップのCFOが決断して反対を封じる方法もある。だが、現場の反発は想像以上だろう。そこで、重要なのは標準化と共に人材の流動化を進めることだ。中途採用で外部から「経理のプロ」を毎年一定数受け入れていけば、伝統的なカルチャーは急速に姿を消す。世界での標準にやり方を合わせていけば、日本企業の生産性は間違いなく上がることになるだろう。

 政府が音頭を取る「働き方改革」でも、なかなか現場は変わらないという声を聞く。残業時間の管理だけ厳しくしても、仕事のやり方が変わらなければ、仕事を自宅に持ち帰ったりサービス残業するのが当たり前になっていく。だが、ますます人手不足が深刻になっていく中で、「ブラック化」で乗り切ろうとする企業には、優秀な人材が集まらなくなるに違いない。

 「働き方改革」の基本は、まさしく「働き方」を変えることだ。どう変えるかといえば、業界標準、世界標準に合わせるということだろう。仕事の仕方が標準化されれば、転職や兼業など人の異動が加速される。そうなれば、さらなる「標準化」が促される。そんな循環に早く入った企業が、生産性を一気に高めて勝者になっていくに違いない。

2017年5月15日

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