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2017年1月16日 

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ベンチャー&ファイナンス

ベンチャーファイナンスの思考と技術
第1回「本当にベンチャーにカネは必要なのか」

新村 和大

一般社団法人スタートアップ・リーダーシップ・プログラム・ジャパン 代表理事

ベンチャーブームと起業家育成

 近年、日本では何度目かのベンチャー界隈が活況を呈している。ビジネスパーソンなら、一度くらい自分で起業してみたい、というのが人情である。起業をサポートするような環境もだんだん整ってきて、アクセラレータやVCも増えている。

 私はベンチャー業界での経験が長く、取締役として戦略や財務を担当し、自社のM&Aも経験した。現在は、Startup Leadership Program(以下、SLP)というボランタリーな団体の日本代表を務め、ベンチャーの経営陣の育成を目的とした起業家育成プログラムを運営している。SLPは世界的なネットワーク組織で、2006年にアメリカのボストンで設立された。2016年現在、12カ国27都市で育成プログラムを提供している。

ベンチャーCFO育成講座

 ベンチャーの経営人材は全面的に不足しているが、中でも足りないのがCFOである。ベンチャーのCFOは管理業務を統括する仕事で、財務、会計、法務、税務、人事などの知識が必要だが、全体像を理解している人が少ない。また、管理系には保守的な人が多くリスクの高いベンチャーに挑戦しない、という背景もある。ベンチャーに資金を供給するVCのファンドは次々設立されているが、資金を受けきるだけのベンチャーが育っていない。大型調達のニュースが増えているが、一部のベンチャーに資金が集中しているだけで、市場全体に行き渡っているとは言えない状況である。

 そこで、日本ベンチャーCFO協会に相談させていただき、2016年9月から12月まで全6回にわたりベンチャーCFO育成講座のファシリテーターを務めさせていただいた。当初の想定より上級者の方が参加されて、若輩者の私は大変恐縮したが、結果的には受講生の多くにご満足いただくことができたようだ。

本当にベンチャーにカネは必要なのか

 第1回ということで前置きが長くなってしまった。この連載ではベンチャーとファイナンスについてセミナーの内容にも触れつつ広く考察したい。ベンチャーとファイナンスの本題に入る前に、「本当にベンチャーにカネは必要なのか」というのが今回のテーマである。

ビジョンと法人格

 SLPで毎年さまざまな起業家(とその候補者)と出会う。最近は社会的起業家、ソーシャルアントレプレナーと呼ばれる公共性の高い事業を志す人も増えている。ただ、実際には、ビジョンを実現するために何をするかが曖昧なことも多い。ビジョンがどういうものかによって、戦略や組織のあり方は変わってくる。「ベンチャーだからまずは株式会社を作ろう」というのがよくある思考回路だが、話はさほど単純ではない。ベンチャーファイナンスの観点からすると、営利事業をやるのと非営利事業をやるのでは、法人の選択も、適した資金調達の方法も、全く変わってくる。よく考えたら実はファイナンスが必要ないということもあるので、注意が必要だ。

 営利目的の場合でも、会社の種類ごとに特徴がある。現行の会社法では、合名会社・合資会社・合同会社・株式会社の4つの種類がある。このうち、合名会社・合資会社は無限責任を負うので、ベンチャーが選ぶメリットはない。しかし、合同会社は、株式会社より知名度はないが、設立の手続きが簡単で費用も安い。株主総会も公告義務もなく、運営上の手間も株式会社よりも少ない。設立後に株式会社に組織変更することもできる。一人で会社を立ち上げて、大きな資金調達を予定しないなら、合同会社でも十分である。もし、それほどリスクのない事業を小規模にやるのであれば、法人を作らず個人事業主として活動してから方向性を見定めてもよい。売上が伸びる前であれば、税務の影響も大きくない(売上が大きくなると、所得税率は法人より個人事業主の方が高くなる)。

 逆に、すぐにでもVCから株式で多額の資金調達をすることが必須のビジネスモデルであるならば、やはり株式会社を選ぶ必要がある。

株式会社でない法人格も選択肢に

 事業によっては、むしろ会社形態をとらない方が有利な場合もある。非営利活動を目的とした法人でも、一般社団法人、一般財団法人、特定非営利活動法人(NPO)など、さまざまな種類がある。もしかしたら学校法人や宗教法人が適しているかもしれない。Wikipediaの「日本の法人の一覧」という記事を見ると、日本には多種多様な法人格が存在することがわかる。

 一例として、私が代表を務めるSLP Tokyoは、2013年の設立から任意団体として活動していたが、2016年7月に運営母体として「一般社団法人スタートアップ・リーダーシップ・プログラム・ジャパン」を設立した。SLPは研修を提供する団体なので、巷の研修会社のように株式会社にもできる。ただ、SLPも一種のソーシャル・ベンチャーであり、かつボランタリーな運営であることから、一般社団法人という法人を選択した。社団であれば、公共性の高い事業を行っていることがすぐに伝わるし、税務上も有利になる。

ビジョンによっては、ベンチャーにカネは必要ない

 SLPの運営メンバーには、私のようなベンチャー経営の経験者の他に、外資系金融や外資系コンサルティングファームの出身者、MBAホルダーなどが多数参加している。通常の企業であれば採用が難しく、またフィーも相当に高いスタッフであるが、みな無給で活動に従事している。また、講師陣も、リーンスタートアップの第一人者、超一流の経営コンサルタント、ベンチャー法務に精通した弁護士といった錚々たる陣容である。株式会社で同様の研修をやろうとすれば、おそらく目の玉が飛び出るような研修費がかかるだろう。しかし、一般社団法人の非営利活動であり、起業家育成という公共性の高い事業であるからこそ、こうした方々に手弁当で協力いただくことができている。

 このように、ビジョンや組織形態の持つ知的資本は、実は極めて価値が高い。ベンチャーでファイナンスというと、金融資本をどのように調達するか、株式なのか借入なのか、という話になりやすいのだが、その前にビジョン・戦略・組織、といった知的資本の在り方を整えるのが先決である。これに成功すると、カネよりも貴重なさまざまな資源を活用できるようになる。

 起業を考える方は、まず自分が実現したいことの意義を考え、それに沿った法人格を選ぶことが重要である。法人の設立は後戻りが利かないので、慎重に検討してほしい。

2017年1月16日

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